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聖剣伝説レッドソード  作者: 山田隆晴
”へそ”に導かれて

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33/44

11-5

「助けて、ジャンティ!」

 リーミンに変化(へんげ)した澪は彼の名を呼び助けを求めた。うずくまったまま、頭から両手を離したかと思うとそのまま自分の両腕を抱きかかえるようにして震えながら何度も繰り返し"彼"に助けを求めている。

「助けて、たす、けて・・・」

 その声色がとても切実だ。悲しみに満ちていて聞いているだけで身を切られるような辛さが伝わってくる。

 弥は呆然とした。

 澪は自分がジャンティに変化した時もずっと『弥』と呼び続けてくれた。ジャンティの意識に自分の意識が隠されて澪のことがわからなくなってもずっと弥として見ていてくれた。ジャンティの名を口にするときは必ず(ども)ってしまう。それだけ自分のことを他の誰かとして見ることに抵抗を覚えてくれていた。

 その澪が(自分)ではなくジャンティに助けを求めている。

 たとえ自分の時のように澪の意識が今リーミンの意識に隠されているのだと頭で考えても心が受け入れなかった。あの時の澪も同じように心では納得できなかったのだろうと今さらながらに彼女のひたむきな思いを実感した。

 弥の心が悲しみで一杯になった。今目の前にいる少女は澪であって澪ではなくなっていた。あれほどに『弥』にこだわった彼女が今や別人になっている。

「澪・・・」

 隣で呼びかけるが彼女には届かない。

 弥は考えた。こんな時どうすればいい?澪の意識を取り戻すにはどうしたらいい?頭の中でそれがぐるぐると渦巻いた。

 自分が『弥』の意識を取り戻した時澪は自分に何をしたか、必死に思い出そうとした。

『1度目の時は平手打ちを喰らった。でも澪に手をあげるなんてできない。2度目の時はどうだったっけ?』

 2度目の時は剣道部の主将によって大怪我を負わされて病院のベッドの上にいた。身動きが取れない状態で澪が手を握ってくれていた。手を通して澪の悲しみが心に伝わってきたのを思い出した。

 弥は両腕を抱えてうずくまっている澪を抱きしめた。彼女の顔が自分の胸に当たる。それでも澪は"彼"の名を呼び続けている。

 自分の好きな人が自分以外の誰かに助けを求めていることがたまらなく悲しかった。澪の声でジャンティと発せられるたび辛い。『澪もこんなふうに悲しかったんだな』と痛感しながら彼女の体を強く抱きしめて言葉を絞り出した。

「澪、ごめん。澪・・俺を思い出してくれ・・・」

 弥の胸の中の少女が顔を上げた。弥と目が合った。弥は澪の意識が戻ったのかもしれないと期待を抱いた。

「澪?!」

 少女は思案顔で弥を見ている。しばらく弥の顔を見つめたあと口を開いた。

「誰、ですか?」

 弥は心をえぐられた。澪がジャンティと化した自分に「誰?」と訊かれひっぱたいた気持ちがわかった。

「ジャンティはどこですか?」

 少女は弥の体を手で押しのけて立ち上がり、辺りを見回した。

「ジャンティーー!」

 声の限りに彼の名前を叫ぶ。

 弥は両の拳をぐっと握りしめ、目の前の少女の言動に耐えている。もはやリーミンでしかない少女がジャンティばかりを求めていることに怒りにも似た感情が湧いてきた。

「ジャンティはいない!」

 思わずそう叫んでしまった。リーミンが振り返って弥を見る。

「じゃあ、じゃあどこにいるんですか?ジャンティは今どこに?」

 弥に詰め寄るリーミン。弥は何も答えない。

 リーミンは弥の両腕を掴んで体を揺すりながらもう一度訊いた。

「ジャンティはどこですか?どうして来てくれないの?」

 半べそをかきそうな顔で訴えるリーミンの顔を見ていられなくて弥は顔を背けた。

「教えて下さい。お願いです。お願いします。教えて・・」

 リーミンはその場にくずおれた。肩をふるわせてひっくひっくと小さく泣き声を上げて涙を流した。

 弥は自己嫌悪にかられて、黙ったままその場に立ち尽くすしかできなかった。


 その時、突然大地が大きく揺れ始めた。巨大なものがはじけるような大きく高い音が地の底から響いた直後、足下が縦揺れにぐわんぐわんと揺れた。弥も立っていられなくなって四つん這いになり地面に膝と手をついて堪える。次に横揺れがきた。公園の通路沿いに立っている外灯の金属製の支柱がまるで柔らかいゴムでできているかのように激しく左右に振れている。いつ折れてもおかしくない。体が転げていきそうな勢いで揺さぶられる。体勢を維持するのが難しい。リーミンは伏すようにして地面を掴んでいる。

 弥はリーミンを助けようとしたが揺れが酷くてその場から一歩も動けない。

 揺れがさらに大きくなりとうとう地面が割けた。あるところは盛り上がり、別の場所は崩落した。咲き乱れていた花々が割れた地面に飲み込まれていく。

 城址公園だけでなく、あたり一帯が崩壊した。縦横(じゅうおう)に亀裂が走り、盛り上がったり、飲み込まれたり姿をあっという間に変えていく。北海巨島(えぞしま)のへそにある山が見るも無残に姿を変えた。その麓にある弥と澪がバイトしているペンションも割けた地面に飲み込まれていった。

 まさしく天変地異だ。北海巨島(えぞしま)は文字通り島と呼ぶには巨大な陸地だ。東西南北それぞれに500キロメートル以上もある。その島全体が揺れた。おそらく島に近い内地も広範囲で揺れたことだろう。沿岸では津波被害も起きているはずだ。

 城址公園にいた弥とリーミンは崩れていく地面に飲み込まれ地の底へ落ちていった。


    *


 揺れが収まった。

 地の底に落ちた弥はしばし気絶していたが目を覚ました。起き上がろうと体を動かすと全身が痛い。だがそんなことに甘えている場合ではないと気力で体を動かす。あたりを見回してリーミンを探す。

「澪!どこだ?!」

 ふらつきながらリーミンと化した澪の姿を求めた。

 弥は歩き回る中で気付いた。崩れた地面の底に落ちたはずなのにそこには不思議な空間が広がっていた。

 弥はその空間を以前に見たことがあるような気がした。かつてここに来たことがあるような、遠い昔ここで戦ったことがあるように感じた。そして。


 その既視感に触れながら歩を進めると倒れているリーミンを見つけた。姿はリーミンのままだ。地震で地の底に落ちたのだから自分と同じように全身にダメージを受けているはずだと弥は思った。弥は澪のねこぱんちを喰らうと元に戻ったというのに、全身が痛くなるほどの衝撃を受けても彼女は元に戻っていない。

「澪!澪!」

 弥もあくまでも『澪』と呼んだ。リーミンと呼ぶのは心が抵抗した。

 リーミンの体を抱き起こし揺さぶった。

「澪!大丈夫か?澪!」

 目を覚まさない彼女の鼻と口に顔を近づける。かすかに呼吸を感じる。吐き出された息が弥の頬をくすぐる。

「澪・・・」

 目を開けない澪の顔とカチューシャを見つめてると涙がこみ上げてきた。

 弥の心の奥底からざわざわとした感情が湧いてきた。ふつふつと怒りが湧いてきた。弥にとっては過去に2度経験のある感覚だった。

 弥はリーミンをそっと横たわらせて立ち上がり、両のこぶしを握りしめて上体を反らし咆哮した。

「うおおおおっ!」

 髪がわさわさと波立ち根元からダークブロンドに変色していく。

 3度目の変化(へんげ)

 姿の変わった弥は足下に横たわる少女を見て名を呼んだ。

「リーミン!」

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