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聖剣伝説レッドソード  作者: 山田隆晴
”へそ”に導かれて

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32/44

11-4

 二人が北海巨島(えぞしま)へやって来た翌朝。ペンションの食堂。

 宿泊客が続々と集まってきた。パンフレットの写真で蓮が着ていたのと色違いのチロル風衣装を着た澪が笑顔でテーブルに食事を運んでいる。

「おはようございます。モーニングサラダです。パンはあちらにあるのでお好きなだけ召し上がって下さい。」

 食堂の中央に置かれた台に数種類のパンが沢山並んでいる。その傍らにはバターやジャムもある。

 澪は夕べの様子はおくびも見せない明るさで接客していた。

「澪ちゃんかわいー。よく似合ってる。」

 蓮がメインのプレートを運びながら澪に話しかける。

「ありがとうございます。この衣装、パンフで蓮さんが着てるの見て私も着たかったんです。」

 にっこにこ顔で応える。一方弥は厨房にいて真の手伝いをしている。

「腹減った~・・」

 朝4時にたたき起こされ、野菜の皮むきから仕込みの補助をやっている。

「あははー。お客さんの朝食が終わったらまかない作ってあげるね。」

 真は涼しい顔で弥の台詞を流す。


 朝9時過ぎに最後の客が食事を終え部屋へ戻っていった。

「二人ともお疲れ!おなか減ったでしょ。ここ座って。」と、蓮が弥と澪に席を勧める。

 真がまかないを持って厨房から出てきた。

「はい、お待たせ。いっぱい食べてね。」

 デカ盛りとまではいかないが、結構な量が盛られたワンプレートが出てきた。こぼれそうなほどなのに盛りつけがとても綺麗で思わず写真に撮っておきたくなるほどだ。真の技が冴えている。

 弥はプレートに手を合わせるとがっつき始めた。それを見た澪が、

「ちょっと、味わって食べなさいよ。恥ずかしい。」

「超腹減ってんだもん、美味いぞ、これ。」

 ばくばくと口に放り込んだまま答える弥。

「行儀悪いなあ。」といいながら澪もぱくぱくと口に運んでいる。

「二人ともホントに仲いいのね~。」

 そう言いながら蓮が自分のプレートを持ってきて、同じテーブルに着いた。

「あれ、真さんは?」澪が訊く。

「早々にチェックアウトするお客さんのためにフロントにいるわよ。」

「真さん、ご飯食べないんですか?」弥が頬張りながら訊くと、

「アレはお客さんのご飯を作りながら、味見と称していつもつまみ食いしてるから。」と苦笑いする蓮。

「あ!ときどき口ごもっていたのはそのせいだったのか。」弥が自分だけずるいといわんばかりに口をとがらせた。

「食事が終わったら館内の掃除。客室はお客さんがチェックアウトしたかどうか確認してからするようにしてね。それと部屋にお客さんの忘れ物がないかどうか確かめて。」

 蓮が今後の指示を飛ばす。

「掃除が終わったら次のお客さんのために部屋の準備。そこまで終わらせてからお昼休憩ね。」

 二人が元気よく返事すると、「けっこう大変よ。がんばってね。」と蓮が手に持っているフォークを二人に向けた。


    *


 弥と澪はあたふたと館内を掃除していく。掃除機をかけ、ぞうきんで水拭き、ゴミ捨て。客室では隅々まで落とし物等ないかのチェックも加わる。二人とも普段は自分の部屋だけ、したとしても家の中だけで、自宅の数倍の広さの館内を二人だけで掃除して歩くのは骨が折れた。その間真は館内設備の見回りと修繕、夕食のための買い出し等に時間を費やし、蓮は事務所で予約確認のためのPC操作や電話応対、経理などの仕事に追われていた。


「終わった・・・腹減った・・・」

 午後1時をとうに回っていた。

 へとへとになって弥が休憩室のソファに体を預けた。澪も館内の掃除が予想以上に大変でバテていた。そこへ蓮が仕事の手を止めて二人の様子を見に来た。

「お疲れ様。今夜のお客さんが来るまで休憩してていいわよ。といっても、早い人で15時には来るからそれまでね。澪ちゃんはお出迎え、弥君は夕食の仕込みの手伝いね。よろしく!」

 そう言うと事務所に戻っていった。

 澪は休憩室のテーブルに置いてある昼食用のパンをかじりながら弥に話しかけた。

「あのね、話したいことがあるの。」

 澪の顔が暗い。さっきまでの明るさはどこかへ行ってしまった。同じくパンを咥えて弥が注目している。

「昨日、ここへ着いたときすごく嫌な感じがしたの。それで立っていられなくなっちゃったんだけど・・・」

「澪も感じたんだ。あの悪寒みたいな変な感覚。」

 弥がパンを飲み込んで返事した。

「弥も?」

 弥が口を閉じたままこくりと頷く。

「私ね、感じたの。いつも見ているあの夢の部屋がこの近くにあるって。」

 弥の表情が変わる。

「マジ?」

「うん。車から降りたらはっきりあの部屋の感触を感じたの。」

 澪は弥の顔をまっすぐに見て訊いてきた。

「弥、大丈夫?体、何ともない?」

「何が?」

「ほら、また、ジャ、ジャンティになったりしない?」

 心配そうな目を向けて訊く。ジャンティの名前を口にするのはやはり抵抗があった。

「今のところ大丈夫。何ともない。」

 そう言って髪の毛を触ってみせる弥。

「私怖い。弥もそうだけど、私も弥みたいに変わっちゃうんじゃないかって・・・」

 かじりかけのパンをぎゅっと握って黙ってしまった。

「澪・・・」

 弥は澪に近づいて肩を抱き寄せようとした。そこへ蓮が入ってきた。弥は心臓が飛び出そうなほど驚き、急反転で澪から離れる。

 二人のわざとらしいよそよそしさを見た蓮が「ははあ」という表情で、

「休憩室で二人の世界は築かないでね~。そういうときは外へ行くこと。」と釘を刺した。

 勘違いしている蓮に弥は、

「え、いや、あ、そういうんじゃなくて、」とぎこちなく否定する。澪は赤くなって俯いている。

 蓮は二人の隠し事には何も気付いていない様子だ。それでこう続けた。

「この近くに城址公園があるの。昔お城があったんですって。今は石垣も何もないけどね。時間のあるときに行ってみるといいわよ。綺麗に整備されているからデートにはもってこいよ。」

 弥と澪の表情が変わった。二人は夢の手がかりになる場所だと思った。だが蓮には二人がデートにもってこいの場所を教えて貰えたと喜んだように見えた。


    *


 住み込みのバイトを始めてから数日経った日の昼休み、二人は蓮に教えてもらった城址公園へ来た。

 宿泊業だけに朝早くから夜遅くまで業務がある分、客がいなくなる昼間の時間帯に数時間昼休憩がもらえた。初めの数日は慣れない仕事に追われて、1時間ほどしか取れずとてもではないが外出する時間がなかった。

 仕事にも慣れ、要領よくこなせるようになって規定通りまとまった休憩が取れるようになり、ようやく来ることができた。

 蓮の言っていたとおり石垣など城があった痕跡は何もなかった。昔城があったと聞いていなければ城址公園と言われても命名を間違えたのではないかと思うくらいだ。

 公園は綺麗に整備され、芝生だけでなく花壇もきれいに整えられている。夏の短い北海巨島(えぞしま)といえどこの時期は百花繚乱の文字通り様々な花が咲き乱れている。大自然以外なにもないこの辺りでは確かに格好のデートスポットだった。澪はあのチロル風の制服を着ているからまるで外国にいるように見える。

 ところが弥と澪はそんな場所にふさわしくない浮かない顔で歩いていた。しばらく歩くと澪は握った両手を胸に当てて立ちすくんだ。

「澪、大丈夫?」

 並んで歩いていた弥が澪の背中に手を当てて支える。澪は下を向いたまま小刻みに震えている。

「この公園、俺もなんか、変な感じする。」

 澪の背に手を当てたままあたりを見回した。

 弥は近くのベンチまで澪を支えて連れて行き座らせると、両手を胸に当てて小刻みに震えているだけの澪の顔をじっと見つめた。

 澪の目は(くう)を見ている。焦点が合っていない。夢の中のあの部屋の感触を感じて震えているようだ。

 弥は右手で澪の肩を抱き、左手で澪の手を握った。

「俺がついてる、安心して。」

 そういうのが精一杯だった。それ以上何も言わず澪を支えていると次第に澪の様子がおかしくなってきた。

 小刻みだった震えが大きくなり、澪は肩で息をするようになった。苦しそうなその息づかいに弥は澪の背中をさすり声をかけた。

「大丈夫、大丈夫。俺ここにいるから。」

 澪は自分を抱きかかえるように支える弥の手を、体を振り払い、頭を抱えて叫び声を上げた。

 澪の髪の毛がわさわさとざわめき始めた。まるで弥がジャンティに変化(へんげ)したときと同じように。弥は澪に触れることができずその変化をただ見守るしかなかった。

 澪はベンチに腰掛けたまま頭を抱えてうずくまり、叫ぶ。

 澪の綺麗な髪が変わってきた。毛先から色が青白く変化し、肩までの短さだったのがみるみる腰辺りまで伸びていく。

「澪!澪!」

 弥は必死に呼びかける。澪は泣き声のような叫び声をあげて苦しんでいる。

 あっという間に髪が伸びて色がすっかり変わった。その見た目は弥が夢で見たリーミンそのものだ。カチューシャがかろうじてこれは澪だと認識させた。

 荒くなっていた息が落ち着いてきた。激しく上下していた肩も動きが小さくなった。

 澪は頭を抱えて下を向いたまま助けを求める叫び声をあげた。

「ジャンティーー!!」

 弥がジャンティに変化したときの澪の悲しみを弥は初めて実感した。

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