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聖剣伝説レッドソード  作者: 山田隆晴
”へそ”に導かれて

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31/44

11-3

 気がつくと町の人々に囲まれていた。斧や鍬、鎌、あるいは石などを手にして。

 よく見ると人々の目が赤く光っている。

 一人の中年男性が斧を振り上げ奇声を発して躍り出た。ノイレンが馬車から飛び降りて向かってくる()()を斬った。するとノイレンは返り血をもろに浴びた。

「な、んだと?!」

 ノイレンはたった今切り捨てた中年男性を見た。切り口から鮮血が流れ出て、息絶えている。

「こいつ人間だ!分身じゃないぞ!」

 返り血に赤く染まった姿で皆に叫んだ。

「何ですって!」

 (シン)は驚きを隠せない。勘が外れた。

 祭壇に向けていた右手を逸らして取り囲む人々をぐるっと見回して勘付いた。

『そうか、乗っ取られたのは町ではなく”町の人々”か。町にいる全員が魔に体を操られているから町全体から怪しい雰囲気がしたのか。』

 (シン)はそれを見抜けなかった自分を責めた。

「みなさんすみません。魔が乗っ取ったのは町の人々の体です。自ら作り出した分身ではありません。」

 璃羽が右手を顎に当てて、

「て、ことは、」

 咲が続ける。

「海賊のように霧になって消えないわけですね。」

 (シン)がそれに答える。

「そうです。あの人たちは皆我々と同じ生身の人間です。斬られれば死にます。」

 そう言って荷台に拳を突き立てた。

『なぜもっと早く気づけなかったんだ。』

 左腕を失ってからの(シン)は勘が鈍っている。それまでの鋭さを霧散した海賊船に奪われてしまったかのようだ。

 状況を静かにみていた咲が(シン)に確認した。

「操り糸を切れればあの人たちは助かるんですか?」

「助かるはずです。」(シン)らしくない自信のない返事だ。

「だとすればどうしたらいいと思う咲。」

 刀を握ったまま囲んでいる人々を注視しつつ璃羽が咲に助言を求めた。

「殺さずに動きを止められればいいんだけど、」と思案するが良い方法を思いつかない。

 ノイレンがネオソードの刃に着いた血を振り払いながらそれに答える。

「殺さずに動きを止めるにはあいつらの足を斬るしかない。こいつは厄介だぞ。」

「足を?」

「そうだ。腕や胴ではダメだ。特に胴は殺してしまう確率が上がる。」

 咲が「足は切断するんですか?」と重ねて尋ねると、

「いや、皮一枚斬るだけでいい。足を斬られれば痛みで歩けなくなる。」

 目は周りを取り囲む人々へ向けたままノイレンが受け答えした。

「なるほど。」

 咲は目深にかぶったフードの奥から町の人々に鋭い視線を向けた。

 ノイレンは振り向いてうしろにいるジャンティを視界に入れた。

 ノイレンはジャンティが心配だった。動いて攻めてくる相手の足の皮だけを斬ることは難しい。何人かは殺してしまうだろう。だが人を斬り殺せば間違いなくジャンティは精神的に落ち込むだろうと危惧した。

 荷台の上から皆の状況を見ていた(シン)が璃羽に馬が動くか訊いた。璃羽が手綱を振るってみるが馬は微動だにしない。

「ダメだな。どうしたことか。」

「おそらく、馬は体を乗っ取られたのかもしれません。馬車は捨てたほうがいいかもしれないですね。」

 町の人々はじりじりと囲みを狭めてくる。

 ノイレンがジャンティに馬車に乗るよう言い、自分も荷台に飛び乗った。

「どうするんですか?」と(シン)がノイレンに訊くと、彼女は御者台にいる璃羽に近づいて彼の肩を掴み「璃羽、馬の尻を剣で突け。」と言った。

 突拍子もないノイレンの指示に璃羽は驚いた。ノイレンは正面にいる人たちに目を向け、

「馬車を捨てて正面突破するのは難しい。あれだけの人を相手にしたら確実に何人かは殺してしまう。こちらにも死人が出るかもしれないしな。馬車でむりやり通り抜けるのが犠牲を一番少なくできる。いくら操られていても馬車が突進してくれば避けるかもしれないからな。」

 璃羽に視線を移し、「それに馬だって体に痛みを感じれば反射的に動くはずだ。」

「よしっ!やってみよう。」

 璃羽は刀を抜き切っ先を馬の尻にぶすっと突き刺した。

 ヒヒーーーン!!

 馬は突然の痛みに反射し、駆けだした。荷台にいる3人は振り落とされそうになる。

 馬車が正面にいる人たちの中へ突入していく。目を赤く光らせた人々は避けようともせず馬に、馬車にぶつかりはじかれていった。人混みの壁で馬の動きが鈍る。

「璃羽、馬を止めさせるな!止まりそうならまた尻を突け!」

 御者台の背もたれに掴まりながらノイレンが指示を飛ばす。璃羽は「すまない、踏ん張ってくれ。」ともう一度切っ先を突き立てた。


 ノイレンの咄嗟の策が功を奏し、馬車は取り囲む人々の壁を通り抜けることができた。目を赤く光らせた町人たちは凶器を手に追いかけてくるが馬車には追いつけない。ノイレンは御者台の背もたれに掴まったままうしろを見た。荷台のうしろでジャンティが追いかけてくる人々をじっと見ている。そのジャンティの背中を見てノイレンは安堵した。

『あいつに人殺しはさせたくない』

 『魔』を斃したあと、()()()()でリーミンを抱きしめさせてやりたかった。


    *


 5人を乗せた馬車はユウバの町を抜けた。一本道の向こうに領主の屋敷が見えてきた。

 馬は二度も尻を突かれた痛みで暴走し続けている。璃羽は手綱を操るが制御できない。荷台は路面の凹凸を受けて左右に揺れて荷物が踊る。人間も縁に掴まっていないと振り落とされそうだ。幸いなことにジャンティが改造を施したためそれだけの振動を受けても壊れる心配はなかった。もし改造していなかったらとっくに車軸が折れ脱輪していただろう。


 馬車は一本道をまっすぐに暴走し続け、領主の屋敷へ辿り着いた。それでも馬は止まらず屋敷の大きな門扉に突進していく。

「馬が止まらない。みんな飛び降りろ!」

 璃羽が手綱を放し、隣にいる咲を抱きかかえて飛び降りた。ごろごろと勢いよく転がっていく。咲が怪我をしないよう抱き込んでいる。代わりに璃羽の腕と背中は擦り傷だらけになった。

 ノイレンとジャンティは(シン)を両側から抱きかかえて飛んだ。

 馬は馬車ごと屋敷の門扉にいきおいよく衝突した。その衝撃で門扉が破壊された。門をくぐり抜けたところで馬は息絶えた。

 ジャンティは横たわる馬の顔に手を当て、「ごめん、ありがとう。」と呟いた。


 5人は領主の屋敷を見上げた。増改築されて以前璃羽が見たのとは全く姿が変わっていた。

 御殿とかお城とかいうのではない、いかにもここに悪い奴がいますというようなおどろおどろしい意匠だ。

 それを見た(シン)が呟いた。

「こんなわかりやすい改造するんですかね。」

 ノイレンが笑いながら、

「こりゃ傑作だ。こんな建物見たことない。」

「すっかり変わっちまってる。」と、璃羽は驚きの目で屋敷全体を見回している。

「趣味悪い。」

 咲はその禍々しい意匠に辟易した声を出した。

 ただ一人ジャンティだけは真剣な目つきでじっと屋敷を眺めながら心の中で呟いた。

『ここにリーミンがいる』

 そう思うと自然と体中に力が入る。今すぐに飛び込んでいきたい衝動に駆られた。

「みんな!」

 横にいる4人を見て、背中の剣を抜こうとする。

 ノイレンがジャンティの頭に手を置いて制止する。

「慌てるな。こういうとき冷静さをなくしたほうが負ける。」

 ノイレンが不敵な笑みを浮かべている。彼女自身も内側からふつふつと湧いてくる興奮を抑えられずにいた。

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