表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖剣伝説レッドソード  作者: 山田隆晴
”へそ”に導かれて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/44

11-2

 5人を乗せた馬車は日に日に領主の屋敷のあるエンゾのへそへ近づいている。

 あれから咲は時間があるとノイレンに稽古をつけてもらっていた。ジャンティの時とはノイレンの対応が違う。もっとも彼の時は一ヶ月みっちりしごく時間があったが咲にはそこまで丁寧に教えている時間が全くない。本当にわずかな時間しかなかった。それに咲は今まで体を鍛えていなかったから筋力が強くない。唯一の利点といえばノイレンに比べて頭2つ分背が低く小柄なため小回りが利くことだ。そして咲は普段から璃羽の鍛錬を見てたから、門前の小僧習わぬ経を読むとばかりに一端(いっぱし)の動きをして見せた。


 「動き方はいいんだけど、どうにも腕力や脚力が弱い。こればかりは今すぐにどうにかできるものでもないし。やっぱりすばしっこさで補うしかないか。」

 咲と剣を交えながらノイレンが咲の戦い方について思案している。

 あと1日、2日で目的地に着いてしまう。時間が足りない。そこでまずは動きやすい服装をさせることにした。

「まずはその服を何とかしよう。」

 ノイレンは剣を鞘に収めると片手を腰に当て咲の身なりを見た。海賊船で活躍した時と同じ恰好をしている。素早く動くことは難しい。

「わたしのを一着あげる。その恰好であれだけ動けるんだ、もっと動けるようになるよ。」

 そう言ってジパンに来てからは全く着ていなかったダンス用の衣装を咲に着させた。咲は普段まったく露出のない着物を着ているから露出度の一番低いものを選んで渡した。

「あの、ノイレンさん。本当にこれ着ないとダメですか?めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど。」

 咲は顔を真っ赤にさせてもじもじしている。

「おお、よく似合ってる、可愛い、可愛い!」

 ノイレンは咲の魅惑的な姿を上から下までジロジロと舐め回すように見た。

「おーい男ども見てみろ、咲ちゃん可愛いぞ!」と着替えのために遠ざけていた男3人に声をかけた。

「な、ちょっとノイレンさん!やだ・・」

 着物では絶対にあり得ないおなかや足が露わになっていることが咲には恥ずかしくてたまらない。そればかりか襟元や肩、背中まで丸見えだ。咲にとってはまるで裸だ。気が気ではない。

 しかもノイレンよりずっと小柄な咲には大きくてサイズが合わない。腰回りはずり落ちないようになんとか工夫したが、動きによっては簡単に脱げてしまいそうで怖かった。

「大丈夫すぐ慣れるよ。咲ちゃん美人だからそれ着てれば男どもを悩殺できるぞ。兄さんが悪い虫退治に大忙しだな。あはは。」

 あっけらかんと笑ってるノイレン。彼女にとっては仕事着だから露出が多くても羞恥心は全くなかった。むしろそれのおかげで心付けをがっぽり儲けられるから好んで着ていた。もう一度上から下まで視線をなめ回してあることに気がついた。

「なぜ胸周りだけサイズぴったりなんだ?」

 納得がいかないという目つきで咲の顔と胸を交互に見やった。

 そこに男どもがやってきた。

「あ、咲さん可愛い。似合ってます!」とジャンティと(シン)は見慣れている衣装だけに露出よりも着こなしに目がいった。一方璃羽は目を見開き、口を大きくあんぐりと開けて固まっている。彼には刺激が強すぎた。

 しばし固まったあと馬車へ飛んで行き、素早く戻ってきて咲にマントを着せた。コダの港で咲が馬車を手配したときに入手していた御者用のカッパだ。フードもついているから、それを目深にかぶると凄腕の剣士のように見えた。咲もマントで素肌を隠せるからか気に入ったようだ。


 その恰好になってからの咲はそれまでよりも動きが速くなった。着物とは違って腕も足も動かしやすい上に、マントで肌を隠しているから足を大きく開いても恥ずかしくない。

 咲の動きが俊敏になったのをみてノイレンが満足そうに微笑む。そして璃羽の元へ行きこう告げた。

「戦いになったらあんたは咲ちゃんと組め。そのほうがあんたも安心だろ。」

 璃羽はもちろん快諾した。

「ノイレンさん、その、」

「ん?なんだ?」

「剣術は女がとか言ってしまったのに咲に優しく教えてくれて、また俺に咲と組めとか気遣ってくれて、その、いろいろとありがとう。」

 璃羽が照れながらお礼を述べた。

「よしてくれ、なんかむず痒い。」

 ノイレンは照れ隠しにそんな返答をして咲のもとへ戻っていった。


    *


 領主の屋敷がある”へそ”まであと少し。一つ手前の小さな町ユウバに着いた。

 原生林を切り開いた場所に町があった。町の周りは鬱蒼とした林が囲んでいる。

 入り口で馬車を止めた5人は村の雰囲気に嫌悪感を覚えた。町に近づく少し前から(シン)の表情が曇っていたから4人は何かあるとその時から思ってはいた。

 実際に町を目の前にしてその気持ち悪さをはっきり自覚した。(シン)は苦い表情をしている。

「この町は、」

 (シン)が言葉尻を濁す。

(シン)さんはっきり言ってくれ。俺もこの町の雰囲気は異様な気がする。」

 璃羽が手綱を握り前を向いたまま荷台にいる(シン)に続けるよう促した。

「この町は既に『魔』に乗っ取られています。町の人たちもおそらく全員・・・。ここから見えている人たちは住人になりすました分身です。」

 今は自分がいるから勘が囁いて教えてくれるが、もし彼らだけで来たらうっかり騙されていたかもしれなかった。『魔』のやり方が次第に手が込んでくることに(シン)は恐ろしさを感じた。

「町には入らずに迂回しますか?」

 ジャンティが皆に提案する。

「それはダメだ。町の周りはずっと林に囲まれている。”へそ”へ抜けるにはこの道しかない。迂回するにはかなり手前まで戻って別の街道から北や東の方へ抜けて、そこからはまた一本道だ。どこから回っても10日以上かかる。」

 璃羽が振り向いて言った。

「どこへ回っても一本道ですか。それでは”へそ”近くの村や町はここと同じように乗っ取られているとみていいでしょう。」

 (シン)が付け加えた。

「なるほど”へそ”は防衛には持ってこいの天然の要衝ってわけだ。ここから行こうが、よそから回り込もうがどのみち避けて通れないというわけか。」

 ノイレンの顔に不敵な笑みが浮かんできた。今度はどんな奴が相手なのかと昂ぶっているようだ。

「では、正面突破が一番手っ取り早いですね。まあ、回り道すればそれだけ私はノイレンさんと稽古できますが、わずか10日ほど。そんなに成長できるとは思えません。」

 咲は冷静に分析している。

「じゃあ、決まりだな。」

 そう言って璃羽は手綱を波打たせた。


 ゆっくりと馬車が町の中を通り抜けていく。馬車の中から辺りをうかがうと、見た目は何の変哲もない地方の小さい町だ。それなりの活気も感じる。通りを行き交う人々も別の町で見かける人たちとなんら変わりない。

 その様子を見ていると『魔』に乗っ取られたとか、分身がなりすましているとか信じられなくなってくる。

 咲は御者台に座り、フードを目深にかぶって周りの様子に注意を払っていた。自分が一番動きやすい場所にいるから何かあったときは真っ先に飛び出せるようにと。

 ジャンティとノイレンは荷台の縁の陰でしっかりと剣を握っている。

 道行く”なりすまし”は襲ってくるそぶりさえ見せずに、馬車の動きに合わせて遠ざかっていく。 

 このまま何事もなく通過できるかと思えてきた。町の中央にある広場へ出たとき馬が勝手に足を止めた。

「どうしました?」

 (シン)が璃羽に尋ねた。

「俺じゃない。馬が勝手に止まっちまった。」

 そう言いながら御者台に置いていたタキシードソードに手を伸ばした。

(シン)、あんたはここにいてくれ。」

 ノイレンがそう言って立ち上がった。

「すみません。」

 (シン)が謝る。

「言いっこなしですよ。」

 ジャンティが(シン)に言葉をかけて馬車から降りた。

「咲、俺から離れるなよ。」

 璃羽が飛び出しそうになってる咲を制止する。

(シン)さん、この町も海賊船の水先案内人のようにどこかに”核”があったりしますか?」

 マントの下でワグソードに手をかけている咲が訊いた。

「探ってみます。」

 (シン)はそう言って広場にある祭壇へ右手を向けて集中し始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ