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聖剣伝説レッドソード  作者: 山田隆晴
エンゾ

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28/44

10-6

「コダだ!コダが見えたぞ。」

 前方を哨戒していた船員が叫ぶ。船の中が安堵感に包まれた。

 『魔』の分身の海賊船を打ち破ったあと、船は傷ついた左舷の修理のため最寄りの港に錨を降ろした。船の乗客や荷物はそこで別の船に乗り換えて改めてエンゾへ向かって出航した。

 北航路の終着点、エンゾの玄関口、コダ。

 ジャンティたちは船を下りるとまず(シン)を医者の元へ連れて行った。本当は船を乗り換える際(シン)だけをその港に置いていこうとしたが、「私がいなくてこの先どうやって『魔』の本体を探すおつもりですか?」と療養を断固として拒みここまでやって来た。傷口を日に何度か塩水で洗ってはいたが化膿しかけ、熱も出て船の上でずっとうなされていた。

 治療を頼まれた医者も傷口を見るなり、「なぜここまで放っておいたか、バカ者!」と怒り出す始末。「荒療治になるぞい。」と、とても描写できない治療をやってのけた。そのおかげで数日後には熱も下がり動けるまでに回復した。


「ご心配をおかけしました。もう大丈夫です。」

 (シン)がそう言って出発の準備を始めた。しかし片手では上手く荷物をまとめられない。

「あれ、あれれ、と、と、わりゃ、」

 一人でできない恥ずかしさを隠すためにわざとおどけた感じを演出するかのように、普段の(シン)らしくない落ち着かない様を見せている。

「手伝うよ(シン)なんでも言ってくれ。」

 ノイレンが手を貸す。

「すみません。」

「何を言う、名誉の負傷だからな。気にすんな。」

 命を賭けて戦った(シン)へ敬意を払っている。

「ありがとうございます。」

 (シン)が照れくさそうに言った。


「持ってきましたよ!」

 咲が部屋へ入ってくるなりそう告げた。

 ノイレンは「おっ」という顔をしたが(シン)は何のことやらという顔をしている。

「実は馬車を用意したんだ。そのほうが((シン)も)楽だろう。」

 ノイレンが笑顔で教えた。

 表へ出ると璃羽が御者台に座って手綱を握っている。大人が7~8人は乗れる大きさの馬車だ。これなら(シン)もゆったりと乗っていられる。しかも荷台は骨組みを付ければ幌も張れる構造だ。


    *


 3日前。

 咲が程度のよい馬車を馬付きで安く買い付けてきた。

「すごい、よくこんな掘り出し物見つけられましたね。しかも馬まで込みなんて。」

 ジャンティが馬車の周りをぐるりと見て回り感心している。

「私にかかればざっとこんなものよ。」

 咲がふふんと得意げな顔でジャンティを見た。

「咲はそこらの輩よりしっかりしてるからな。」

 璃羽が馬の顔をなでながら自慢そうに言い、

「だからといって嫁にはやらんぞ。」

 ジャンティを見ながら最後にいつもの台詞を付け加えた。

 それを聞いたジャンティと咲はバツの悪そうな顔をした。ノイレンは声に出さず苦笑いしている。

「ん?どうしたみんな?」

 知らぬが仏とはこのことだ。璃羽だけが何も知らない。

「この車軸に隊商の馬車のようにバネを付ければ悪路でも乗りやすくなる。それと幌を付けられるようにしましょう。雨風もしのげるようになりますから。僕がやります、任せて下さい。」

 ジャンティが隊商の馬車を参考に改造を施した。


    *


 ジャンティとノイレンで(シン)を支えながら馬車に乗せ、自分たちも乗りこむ。咲は璃羽の隣に座った。

 手綱を握った璃羽が振り向いて(シン)に訊いた。

「さあ、(シン)さんよ、どこへ行けばいい。」

 璃羽は数年前に当時の領主から依頼された刀を100振り納めにここへ来たことがあるから道案内を買って出ていた。

 (シン)は目を閉じてジャンティに託してあるワグソードの石に触れて集中する。

 皆が(シン)の言葉を待つ間、ジャンティは海賊が現れる直前に彼が言っていた「とっておきの情報」を聞きそびれたままになっていたのを思い出した。

 (シン)が目を開け、全員の顔をぐるっと見回しながら済まなそうに謝る。

「すみません皆さん。『魔』はどうやら(なり)を潜めているようでピンときません。」

「なに、(シン)さんは病み上がりだ。まだ本調子じゃないだけだろ、気にすんな。」と、璃羽がいたわる。

 優れた霊感を発揮できずに落ち込む(シン)。それでジャンティが話題を変えようと訊いた。

「そういえば、(シン)さんが船の上で言ってたとっておきの情報ってなんですか?」

 (シン)の顔に明るさが戻る。自分でもすっかり忘れていたようだ。

「そうでした、すっかり忘れてました。エンゾからの戻りの船に乗ってきた人たちから聞いたんですが、先頃エンゾの領主が代替わりしたところ領主の屋敷の周りで不審なことが立て続くようになったんだそうです。」

 (シン)を見る4人の目の光が変わった。

「まず聞いたのが、新しい領主のもと屋敷を増改築した職人がそのことを誰も覚えてないと。箝口令で話せないというのではなく、施工したこと自体覚えてないんだそうです。また、増改築のお祝いを献上しに行った人がどうしたことか気が触れて帰ってきたとか。他には増改築後から周辺で鬼を見かけるようになったとか。」

「鬼!?」

 璃羽が反応した。

「はい、鬼と言っていました。ただどういう姿をしていたか、璃羽さんたちの村に現れた異形と同じかどうかは分かりません。」

「それと、その『鬼』に関わりがあるかどうか、近くで猟をしていた狩人が死体で発見されたが、どうにも熊などの獣に襲われた感じではない様子だったそうです。」

 ジャンティが口を開くと続けて皆が口々に言葉を繋いだ。

「それって、」

「『魔』が領主の屋敷にいるってことか。」

「いや、領主そのものを食ってなり変わったとか。」

「そんなお兄ちゃんじゃあるまいし、食べるわけないでしょ。」

「むう。」

 咲のツッコミに不満そうな璃羽。

「いずれにしても新しい領主をひと目確かめる必要がありそうです。」

「もしもその近くに『魔』の本体が潜んでいれば、さすがに今の私でも()()()ことができるはずです。」

 (シン)が名誉挽回を期した。


「よし!それじゃあエンゾのへそへ行くとしよう。」

 璃羽が手綱を波打たせた。馬車がゆっくりと動き出す。

 (わだち)のできた砂利だらけの道を進む。けっこう路面は凸凹しているが荷台はたいして揺れていない。

「どうだい、乗り心地は?」

 荷台の(へり)にもたれかかっているノイレンが(シン)に訊く。

「はい、快適です。大して揺れもしない。素晴らしい。」

「ジャンティが改造したんだよ。あんたのために。」

 (シン)はジャンティを見て頭を下げた。

「わざわざありがとうございます。」

「いえいえいえ、たいしたことしてません。隊商の皆さんが使ってた馬車みたいにしただけですから。」

 ジャンティは照れくさそうに両手を振りながら言い訳している。

 風が木の葉(このは)の間で冷やされて心地よく頬をすり抜けていく。夏だというのに木々に囲まれたその道は涼しくて過ごしやすい。一行はしばしその快適さに身をゆだねている。

「雲が出てきたな。」

 手綱を握る璃羽が空を見上げて呟いた。

「雨になるかもな。」

 いつの間にか厚い雲が垂れ込めていた。

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