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聖剣伝説レッドソード  作者: 山田隆晴
エンゾ

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27/44

10-5

 夏の日差しに照らされて山の緑が眩しい。書割(かきわり)のような青い大空とゆったり流れる白い雲。麓にある赤い屋根のロッヂ風ペンション。まるで絵本の1ページだ。

「さ、着きましたよ。」

 苫原が車を停めた。これらの光景を車窓から満喫して気分が盛り上がっていた2人はわくわくしながら車の外に踊り出た。しかしその途端頭の中に悪寒が走った。何と形容したら良いのか2人には言葉が見つからない。嫌な予感とでも言えば近いだろうか。もしくは虫の知らせのような直感と言ったほうがしっくりくるか。とにかく今後その身に降りかかるであろう災厄の予兆のようなえも言われぬ不快さを感じた。

 澪はその悪寒に足元がふらつきへなへなとその場に座り込んでしまった。弥は棒立ちのまましばし動けなかった。

「大丈夫ですか?車酔いしちゃいましたかね?」

 苫原が心配し、「今、(れん)を呼んできますから」と、パンフの写真に写っていたあの女性を呼びに中へ入っていった。


 ほどなくして苫原が蓮と呼んだ女性を連れて戻ってきた。

「あらあら大変、大丈夫?立てる?」

 澪の背に手を回し支えて立ち上がらせた。

「すいません、ちょっと眩暈がしただけです。もう大丈夫です。」

 澪が蓮に愛想笑いを向けた。

 弥は悪寒が収まると周りを見回した。特に気になるようなものは何もない。北海巨島(えぞしま)の雄大な景色に興奮しすぎたのが原因だと思うことにした。


    *


 ペンションの事務室に通された二人はそこでソファに体を預けている。蓮が冷えた麦茶をお盆に載せて運んできた。

「ありがとうございます。さっきはすいませんでした。」と、澪が恥ずかしそうに謝意を表した。

「気にしなくて大丈夫よ、朝早くから遠くまで来たんですもの疲れちゃったのよね。」

 蓮が向かいに座りながら澪を気遣う。澪の隣に座っている弥もお礼を述べて、

「一所懸命頑張りますのでよろしくお願いします。」と続けた。

 車を駐車場に移動してた苫原が戻ってきた。

「改めまして、私は苫原(しん)です。」そして隣にいる蓮を手で示して、「こっちは蓮です。」と紹介した。

「今日はゆっくり休んで下さい。仕事は明日からお願いします。めいっぱいコキ使ってあげますから覚悟して下さい。」と、人差し指を立てて笑いながら冗談めかして言った。弥は心の底で、真の仕種(しぐさ)をどこかで見たような気がした。

「ちょっとそんなこと言ったら嫌になって辞めちゃうでしょ。」と 蓮が真の人差し指をぺしっとはたいてたしなめる。

「ははは。お二人ともご心配無用ですよ~。気合いは入れても気構えなくて大丈夫ですからね。」

 真は人なつこく笑ってみせフォローした。

「それ以上しゃべるな。フォローになってないから。」

 真がそれ以上話さないよう蓮が話し始めた。

「気にしないでね。この人バイトが来ると嬉しくていつもからかうのよ。全然からかいになってないのが困りものだけど。たとえばあれね、男の子が好きな女の子に意地悪するようなもんよ。女の子にしてみりゃ迷惑以外の何物でもないってやつ。スルーしてOKだから。」

「ええ~~、んぐ、」

 蓮の説明に異を唱えようとした真の口をすかさず傍らに置いていたお盆で塞いでジロっと睨んだ。

 真は縮こまる。

「よし!」

「じゃ、部屋に案内するわ。付いてきて。」

 蓮は立ち上がって弥と澪を住み込み用の部屋へ連れて行く。

 従業員用の宿泊棟はペンションの母屋の裏手にあった。母屋や客室とは違って部屋の作りも装飾も質素だった。

「弥君はこの部屋を使って。澪ちゃんはいちばん奥の部屋ね。」

 バイト用の部屋は全部で3部屋あった。弥は手前の部屋で、澪は一部屋空けて3つめの部屋を指定された。

 蓮が二人に向かって人差し指を立ててこう言った。

「それと君たちは友達同士らしいけど、お互いの部屋へ入っちゃだめよ。前に問題を起こしたバイト君がいてね。それからは他の人の部屋への入室は禁止にしてるの。おしゃべりとかは休憩室でね。」

 それから弥に顔を近づけて小さな声で、「こっそり乳繰りあったりしちゃダメよ。部屋の壁薄いから表まで聞こえるわよ。」と釘を刺した。

 澪が真っ赤になってどもってしまう。

「ち、ち、ち、、、」

 すると弥が右手を後頭部に当ててあっけらかんとした表情で蓮に、

「あ、大丈夫です!そんなことしようとしたら澪にねこぱんち喰らうんで。」

 もう何も言えなくなって真っ赤っかになる澪。

 蓮が興味津々に、「ねこぱんち?かわいー。見たい!」と言うものだから、弥は逆に引きつってしまった。

「あ、いや、それはできれば喰らいたくない・・・」

 時既に遅し。

 弥の脇腹にクリーンヒットした。


    *


 その日の夜、弥と澪は早々にそれぞれの部屋に引っ込み一人で過ごしていた。

 弥と澪どちらも昼間の悪寒のことを考えていた。

 弥は北海巨島(えぞしま)へ来ればあの夢に関して何か分かるかもしれないと思っていたが、この場へ着いたときに感じたあの不快な感覚は何を示唆しているのか分からなかった。

 電気も点けずベッドに横になり、真っ暗な天井を見つめながら、今までに見た夢の内容を振り返ってみた。野盗に襲われて燃える街の中リーミンという少女を助け損ねたこと。つぎつぎと仲間を得て東へ向かって旅をしてきたこと。夢の中でジパンと呼ばれていた国はどうやら自分が生まれ育ったこの国らしいということ。そしてもっとも新しい夢の中で彼らはエンゾと呼ばれる北にある大きな島へ向かっている。

 弥がこの北海巨島(えぞしま)へ行ってみようと思い立ったのは漠然と北の果てという言葉が心の奥に引っかかったからで、その時はまだそこまでは夢に見ていなかった。

 それがこの数日で自分の行動と夢の中の物語が重なり始めた。北海巨島(えぞしま)とエンゾが実は同じなのではないか。弥は心の奥底でざわめくものを今朝からずっと感じていた。

 ただ、まだ澪には何も話していない。もう少し確信を得られてからと思っていた。この近くに何か手がかりになるものがあるかもしれないと思い始めていた。

 真っ暗な中で考えていたせいか、一日の疲れが出たのか、いつの間にか眠ってしまった。


 同じ時、同じように電気を点けず澪はベッドの上で膝を抱えて体を丸めていた。

 澪の悪寒は弥よりも強い嫌悪感を伴っていた。車窓から風景を見ていたときには何も感じなかったのに、自分の足でこの北海巨島(えぞしま)のへその地に立ったとき、何度も繰り返し見ている夢に出てくるあの暗くて、寒くて、淋しさと悲しみしかない石造りの部屋の感触に全身が包まれる感覚に襲われた。それで立っていられなくなってしまった。

 弥にそのことを話したくて機会をうかがっていたが、真と蓮がいる間はできない。ようやく二人になれるかと思ったら弥は神妙な顔で部屋にこもってしまった。結局何も話せず今こうして一人で膝を抱えている。

 一人でいると自然と涙がにじんでくる。夢の中で自分がジャンティの名を呼んでいることはもう分かっている。でもそれは自分であって自分ではないことも感じていた。もしかしたらあれはリーミンなのではないかという気がしている。弥がジャンティに変化までしているように自分はもしかしたらと。

 実際にジャンティの名を声に出して呼んでみれば何か分かるかもしれないと思いつつも、その気にはなれない。呼ぶなら弥の名しか澪にはなかった。

「助けて、弥・・・」

 声にならない声で呟いた。

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