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聖剣伝説レッドソード  作者: 山田隆晴
エンゾ

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26/44

10-4

 まるで曲芸のように3人は海賊船の甲板へ乗り移っていった。

 ノイレンはロープにつかまったまま海賊を一人蹴り飛ばして着地し剣を抜いた。酒場で見せる剣舞のように流麗に体を動かして周りにいる海賊どもを次々と斬った。

「さあ、どっからでもかかってきな。」

 周りを取り囲む海賊どもを見回しながら口角を上げる。

 (シン)は着地するとメインマストに駆け寄って、右手を当てて目を閉じ、集中し始めた。

 ”船の核”を探しているのだ。とんでもなく大きい船だから、賊のように船体に矢を刺しても動きを封じることはできない。仕留めるには”船の核”を破壊する必要がある。(シン)はそれを探していた。彼の霊感を以てすれば核を見つけられるはずだ。

 ジャンティが(シン)の護衛に当たっている。海賊がサーベルを両手に持ちジャンティに迫る。賊が右手に持った剣を振り下ろすとジャンティは両手で柄を握り横に構えてそれを受ける。レッドソードはサーベルよりも刀身が厚く広い。賊の剣がはじかれると賊はそのまま左手に持つサーベルをジャンティの横っ腹にたたき込んできた。剣で防ぐには間に合わない。ジャンティは咄嗟に足で賊を蹴飛ばした。

「お、やるじゃないかジャンティ!」

 少し離れたところで戦っているノイレンがジャンティの咄嗟の躱しをしっかり見ていた。ノイレンに褒められて嬉しくなるジャンティ。蹴飛ばした賊が立ち上がる前にそばへ駆け寄り斬った。そのまま(シン)のほうへ向き直り彼に寄ってくる賊の懐へ飛び込んでいく。一人、また一人と賊を斬り斃す。剣をたたき込んだときの肉の斬れる感触にも慣れてきた。

 今ジャンティの頭の中にはノイレンからもらった言葉がある。

『あんたに守りたいもの、守らなきゃならないものがあるなら大丈夫!』

 リーミンを守る。助け出す。それを心に銘じて剣を握るようにしている。

(シン)さん、まだですか?」

 ジャンティは(シン)を背にして寄ってくる賊を斃しながら訊いた。

「もう少しです。今”操り糸”をたぐっています。あと少し踏ん張って下さい。」

「了解!よろしく頼みます!」

 また一人賊を斬る。

 海賊船の甲板に黒い霧が立ちこめて視界が悪くなった。


 そのころ璃羽が残った船にも海賊が10数人乗り移ってきていた。

 璃羽はタキシードソードを抜いて応戦しようとするが手が震える。

 村で戦ったときは鬼のような異形の姿だったから斬ることにためらいはなかった。しかし今目の前にいるのは自分と同じ人間の姿をしている。いくら『魔』の分身であって、あの異形と同じだと頭で分かっていても心が追いついていかない。本当に斬っていいのか。斬らねばこちらが斬られることは百も承知しているつもりだ。だが。

 抜き身を片手に持ちながらも躊躇いを打ち消せない璃羽は賊の剣を受けるのが精一杯になっている。その璃羽の目の前で弓を構えていた船員が一人二人と斬られていった。賊は返り血を浴びて悪鬼のごとく邪悪な様相を呈している。

『お兄ちゃん!!』

 璃羽の頭の中で咲の呼ぶ声が聞こえた。カっと目を見開き、目の前の現実を直視する。『魔』を斃すことそれが村を守り、ひいては咲を守ることに繋がる。育ての親の村長に言った言葉を思い出す。

 璃羽は左手で自分の頬を思いっきり叩いた。

『しっかりしろ、璃羽。おまえがそんなんで咲を守れるのか、長様との約束が守れるのか。』

 そう心に問いかけて覚悟を決めた。

「俺は咲のために貴様等を斃す!」そう叫んで、賊を一人斬り斃した。

 目の前で黒い霧となって消えていく。その霧を手でかき消すようにして乗り移ってきた賊に向かっていった。


 海賊船はまるで生きているかのようにぴったりと北航路の船に舷側を付けて並走している。船長がいくら舵を切ってもぴたりとついて離れない。

 弓を構えた船員が賊を射ろうにも璃羽が邪魔で矢を放てない。仕方なく剣で応戦するが璃羽が斬るように黒い霧となって消えてくれない。何度でも立ち上がってくる。

 さすがに璃羽一人では限界がある。息も上がってきた。初めて人を斬っているという感覚からどうしても動きに無駄が生じてしまい体力を奪われていた。咲のため、村のためにと夢中で剣を振るっているが体力の消耗が激しい、村で異形を斬りまくっていたときのように体が思うように動かない。

 切っ先を甲板に刺し、それを支えにしてゼイゼイ肩で息を切る。汗が目に入った。視界がぼやける。目の前から賊が一人襲いかかってきた。璃羽は『斬られる」と覚悟した。

 その時横から誰かが賊に剣を突き刺してそのまま賊と一緒に転げていく。ぼやけた視界でそれを追いかける。賊が霧となって消えた。

「な?!」

 璃羽の窮地を救ったのはどう見てもジャンティやノイレンではない。どうして賊が霧となったのか。訳が分からなかった。

「大丈夫?お兄ちゃん!」

 璃羽の大好きな声が聞こえた。

「咲、なのか?」

 咲がワグソードを携えて目の前に立っている。

「お兄ちゃん、何やってるの!そんなんで私を守れるの?!」と手厳しい。

「お前、どうして・・・」

 咲が手に持っていたワグソードを璃羽に見せ、

「あ、これ?ジャンティさんの荷物にあったから拝借してきちゃった。」

 咲のあまりの無鉄砲さに開いた口がふさがらない璃羽。

「だからってお前、こんな危険な場所に・・・。いや、助かったよ。ありがとう咲。」

 手で汗をぬぐい、目をこする璃羽。改めて咲の姿を確認して呆れる。

 たすきがけで着物の袖をまくり上げ、裾も端折って帯に入れている。どこからどうみてもお転婆娘だ。

「危ないから下がっていろ。」という璃羽に、

「私も協力する。お兄ちゃん一人じゃ大変でしょ。」

「しかし、お前剣術もなにもやったことないじゃないか。」

「今一人斃した。」

 さらっと反論する。

「そういう問題じゃ無い。」璃羽が説得を試みる間にまた賊が一人迫ってきた。

「とうりゃあー!」

 咲は足を軸にして剣を両手で持ち体を回転させてその勢いで賊を斬った。

「わたし、すごいかも。」

 ちょっと自慢げだ。そのうしろから別の賊が襲ってきた。璃羽は左手で咲を横に突き飛ばして賊に剣を突き刺す。

「調子に乗るな。あの時の俺のようになるぞ。」

 村で剣に呑まれたときのことを示唆した。


 (シン)は頭の中で一人一人の賊から出ている操り糸をたぐっている。たぐった先で糸が一つにまとまっている。

『糸がまとまった。その先だ。その先に船の核があるはずだ。』

 (シン)が一層集中して”船の核”へ迫る。

『もう少し。』

 (シン)の右手に力が入る。手を当てているマストを通して船の息づかいが聞こえるようだ。

 その時メインマストの向こう側から二人の賊が(シン)めがけて攻めてきた。

「ジャンティうしろ!」

 (シン)の背後を守っていたジャンティにノイレンが注意を促しながら駆け寄ってきた。

 ジャンティはマストの向こう側から来る二人の賊へ身を翻すと両足で甲板を蹴って跳びかかっていく。一人は斬り斃したがもう一人がジャンティをすり抜けて(シン)に迫る。ノイレンも間に合わない。

(シン)逃げろ!」

 ノイレンが叫ぶが、

「もう少しなんだ、今手を離すわけにいかない!」

 (シン)は胴を斬られまいと賊が振り下ろす剣を左腕で受ける。

 (シン)の左腕が宙を舞った。

 叫び声を上げる(シン)はそれでも右手をマストから離さない。傷口から鮮血がぼたぼたと甲板に落ちていく。(シン)は苦痛に顔をゆがめながらも右手に集中した。

 まとまった糸の先を辿っていくと船の先端に行き着いた。

 追いついたノイレンが賊を斃す。(シン)がその場に崩れ落ちた。

 (シン)の上体を抱えるノイレン。

「わかりました。」

 (シン)が言った。

「どこだい?」ノイレンが(シン)の左腕を止血しながら聞き返す。

「水先案内人・・・です・・。」

 (シン)が声を絞り出して"船の核”のありかを教えた。

 水先案内人。それは船の舳先の下に付けてある女神像のことだ。船の安全な航海を願って女神の像を船の先頭に飾るのだ。

 それを聞いたノイレンがにやりと笑いながら、

「『魔』が女神様とは洒落てるじゃないか。」

 (シン)の体から力が抜ける。

「大丈夫か?」

 ノイレンが(シン)の体を軽くゆする。

「私は大丈夫です。それよりお二人とも早く、水先案内人を斬ってください。」

「わかった。いくよジャンティ!」

「え、でも、」

 (シン)を一人で放って行けないとジャンティが躊躇うと、

(シン)は命を賭けて核を見つけてくれたんだ。それに応えるのが私らの役目だよ。」

 そういうとノイレンは(シン)の背をマストにもたれかけさせて、船の舳先めがけて走り出した。

(シン)さん、待ってて下さいね!」

 そういってジャンティはノイレンの後を追いかけた。


 船の舳先、その下に女神の像がある。

「あれをどうやって斬るんです?」

 ジャンティは下をのぞき込んでみるが、どうみても手が届きそうにない。

 ノイレンが帆を支えているロープを切り、それを手近なところへ結びつけている。

「こうするんだ。」

 言うが早いか、海賊船に乗り移ったときのようにロープにつかまり舳先の下へ飛び降りた。

 女神の断末魔が響いた。

 隣の船にいる璃羽や咲たちもその叫びを聞いた。目の前にいた海賊どもが黒い霧となって消えていく。

「さすが、ですね。」

 薄れていく意識の中で(シン)は満足げな顔を舳先に向けた。

 海賊船の動きが止まった。

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