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聖剣伝説レッドソード  作者: 山田隆晴
エンゾ

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25/44

10-3

 北航路の船着き場のある港町ツバメに5人はいた。南航路の海とは違って北側の海は冷たい色が濃かった。心なしか波も少し荒い感じがする。

 咲が皆を代表しててきぱきと乗船の手配などに奔走する。それを見ていたジャンティは、

「咲さんすごいなあ、なんでもできて。」と感心しきり。

「そうだろ、そうだろ、俺の自慢の妹だからな。」

 璃羽がドヤ顔で胸を張る。

 ジャンティと璃羽がこんなやりとりをしている間、(シン)は周辺でエンゾや玄関口というコダの街について聞き込みをしていた。ノイレンは船着き場そばの商店で菓子を求めている。

「ところで璃羽さん、北航路の船揺れたりしませんよね。」

 ジャンティは船酔いの悪夢を思い出して、以前この北航路に乗ったことがあるという璃羽に確かめた。

「うん?揺れないよ。」

「ほっ、よかった。」胸をなで下ろす。

 そこに手配を終えた咲が戻ってきた。

「ジャンティさん、兄は普通の人とは違ってヘン人ですから当てにしてはダメです。」

 咲がピシャリと否定した。

「咲ぃ~~~。」

 璃羽が眉を八の字にして咲を見る。

「兄は船が揺れないなら自分で揺らしてやると右へ左へ行ったり来たり走って揺らそうとした前科があります。」

 璃羽がそれだけは言ってはいけなかったという表情を浮かべて固まっている。

「あ、あれは咲、お前を喜ばそうと思ってだな、」

「あんなことされて嬉しいと思う?すごい恥ずかしかったんだから。」キーっと璃羽を睨みつける。

「す、すまん・・・」

「アハハ・・・」

 ジャンティは苦笑いして今度はどうやって船酔いを防ごうか考えを巡らせた。


    *


 翌日の昼頃5人は船に乗った。ジャンティと(シン)はまたまた隅っこで縮こまっている。ノイレンは買い求めていた菓子を咲と一緒に食べている。璃羽は・・・「咲ぃ~~、走り回らないからほどいてくれ~~」船室の柱に縛り付けられていた。


 ノイレンが縮こまっている二人の処へ来るとジャンティの隣に座り、その頭越しに(シン)に尋ねた。

「昨日あれこれ聞き回ってたようだけど何か収穫はあったのかい?」

「ええ、一つありましたよ。」

 ノイレンとジャンティの顔つきが変わる。

「エンゾは海鮮がとても美味しいそうです。」

 ノイレンが拳を握りながら、「あんたそういうヤツだったっけ?」

 (シン)が冷や汗を垂らしつつ、 

「いやだなあ、冗談ですよ。でも港の人たちが口を揃えて本当に海鮮が美味しいって教えてくれましたよ。」

「私が訊きたいのはそういうことじゃなくて!」

 今にもノイレンの拳が飛んできそうだ。

 (シン)が苦笑いしてるとノイレンは無言で拳を(シン)に見せつける。

 (シン)の顔が真剣になり、声のトーンを落として話し始めた。

「とっておきの情報を得ました。実は、」

 港町ツバメで聞いたことを二人に話そうとしたその時、舳先のほうから船員の叫び声が聞こえた。

 他の船員が船の後方、操舵輪のそばにいる船長の下へ走りながら叫ぶ。

「海賊だ!!」

 船中に緊張が走る。船にはジャンティたちの他にも一般の乗客が何人かいる。それらの人たちは船員の言葉に恐怖してわめきだす、その場でうずくまる、あるいは下層の船室へ逃げ隠れた。

 船長がてきぱきと各所に指示を与えている。

 ジャンティたち3人は顔を見合わせて頷いた。何も言わなくても3人とも戦う覚悟を決めている。

 ノイレンがあたりを見渡して咲を探す。璃羽を呼んできてもらうために。しかし甲板に彼女の姿はなかった。

「咲ちゃんどこへいった?」

「私が探してきます。お二人は戦闘準備を!」と、(シン)が船室のある下層へ降りていく。


 その頃咲は船室に戻っていた。「海賊だ」の一言を聞いて真っ先に兄の璃羽を縛り付けていた縄を切るために。さすが肝が据わっているだけあって判断が速い。

「お兄ちゃん!」

 璃羽は村長から授かったタキシードソードを手に取ると、もう片方の手で咲の頭をなでて、

「兄ちゃんに任せろ。」

「お前はここにいろよ。」と咲に言い残し甲板へ向かった。


 璃羽は甲板に上がる途中で(シン)と出くわす。

「ちょうどよかった。咲さんが下に降りたようなんですが、」と状況説明をする(シン)に、

「咲なら部屋にいる。話は(妹から)聞いた。」

 そう言って(シン)と階段を上っていく。


 甲板は騒然としていた。

 船員が弓を持って左舷に並んでいる。前方を見ると薄汚れた帆を広げた海賊船が刻々と迫ってきた。

 船長が檄を飛ばしながら自ら舵を握って船を操る。海賊船はまっすぐにこの船の左舷にぶつけるつもりらしい。

「おもぉぉかぁじ!」船長が大きな声で舵輪を思いきり右へ回した。甲板の上に置いてある物が左舷に転がる。踏ん張れずに転げてしまう人もいた。

 ジャンティとノイレンは船員に交じって弓を構えている。そこへ(シン)と璃羽が合流した。二人も弓をとるが、(シン)が渋い顔をした。それを見たノイレンが、

「どうした(シン)?」

「弓では太刀打ちできないかもしれません。」

「なに!?まさか、」はっとした目を海賊船に向けたノイレン。

 (シン)が少し顔を引きつらせて「そのまさかみたいです。こんな時くらい勘が外れてくれると嬉しいのですけどね。」と無理に笑ってみせる。

 そのやりとりを聞いたジャンティが(シン)に言った。

「そうだとしても、矢が刺されば動きを封じられますよね。それだったら、」

 希望を見いだそうとするジャンティに(シン)が追い打ちをかける。

「乗っている海賊だけでなく、あの船自体も分身です。野盗の馬がそうだったように。あの大きさの船にこんな矢では何本刺さっても止められない。」

「じゃ、じゃあどうすれば?」

 狼狽するジャンティにノイレンが武者震いしながら言った。

「あっちに乗り移って戦うんだ。」

 ノイレンの顔には不敵の笑みが浮かんでいる。強敵を前にして剣士としての魂が昂ぶっている。

 璃羽が3人のやりとりを聞いてようやくあの海賊船全体が『魔』の分身であるらしいことを理解し、(シン)に訊いた。

「『魔』ってやつはあんなデカイ船まで作っちまうのか?」

「そうみたいです。残念ですが私の勘が囁いています。」

 (シン)は改めて『魔』の力の恐ろしさを感じていた。

「船に乗っているのは人間のようだが、あれも分身なのか?」

 璃羽がさらに疑問をぶつけてきた。璃羽は鬼のような異形の姿しか見たことがないからだ。

「もちろんです。(私らは)大陸で野盗を見たと言いましたよね?」

 璃羽は迫り来る海賊船を睨みつつ、「むう」とだけ発した。

 ジャンティはノイレンに向かって「あっちに行ってどうすればいい?」と訊くと、(シン)が代わりに答えた。

「私に任せてください。()()に乗ればわかるはずです。」とノイレンを真似て不敵な笑いを浮かべてみせるが少し引きつっている。


 船長の操舵に伴い船が大きく弧を描いて右へ曲がっていく。海賊船がそこへ勢いよく大きく迫ってきた。船の横っ腹がぶつかり合い船体が上下左右に揺れる。雷鳴のようにガガガッと舷側がえぐられるような音が鳴り響いた。何かに捕まっていないと立っていられない。船長は必死に舵輪を握っている。

 2隻の船は互いに悲鳴を上げながらすれ違った。

 船長はそのまま逃げ切るつもりで舵を切っているが、『魔』の海賊船は信じられない急反転をして追いかけてきた。薄汚れた海賊船の帆が風を受けて一杯に膨らみ速度が上がる。距離は縮まる一方だ。このままだと追いつかれてまた左舷を狙われる。

「おもぉぉかぁじ」

「とぉぉりかぁじ」

 ジグザグに舵を切ってなんとか躱そうと試みる。

 ノイレンは帆桁(ほげた)にロープをくくりつけ乗り移る準備を始めた。

 もうそこまで海賊船が迫ってきた。逃げきれない。接舷しての戦闘を覚悟した船長は卓越した操船手腕を発揮して海賊船を右舷に誘い込んだ。先程のすれ違いで左舷は傷ついているが右舷は無傷だ。通常の船の戦闘ならば、向こうの左舷も先ほどのすれ違いで傷ついているはず、船長はざまあみろと言わんばかりの笑みで海賊船を見て驚愕した。海賊船の左舷には傷一つない。急反転して追いついてくる間に復元されていた。

「ばかな、幽霊船か?!」

 船長がそう思うのも無理はない。

 海賊船が右舷にぴったりと並んだ。

「璃羽、あんたはこっちに残って迎え撃ってくれ。」

 こちらの船には妹の咲が乗っている。璃羽はこちらに残したほうが奮闘しやすいだろうというノイレンの計らいだ。

「いくよっ!」

 ノイレンがジャンティと(シン)に合図をかけて真っ先に乗り込んでいく。2人もあとに続く。3本のロープが海賊船の甲板めがけて伸びていく。

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