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聖剣伝説レッドソード  作者: 山田隆晴
束の間の安らぎ

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14/44

7-2

 武道場がどよめいている。

 走り込みから帰ってきた剣道部員たちは理解に苦しむ惨状を目の当たりにして冷静な判断ができずにいた。

 主将の西郷(せご)どんは県大会の個人戦でも常に上位に列するほどの腕を持っている。志摩津先生直伝の示現流を日々究めているストイックさもあり部員たちから尊敬されていた。(師である志摩津先生に憧れて薩摩かぶれになっているのが玉に瑕だが)

 その西郷(せご)どんが全身を震わせて道場の床にへたりこんでいるのだ。未だかつて誰も見たことのない彼だった。しかも額から血を流し、竹刀を握っているダークブロンドの少年がそれを見下ろしている。

 どう見てもあの西郷(せご)どんが何処の馬の骨とも分からぬ者に追い詰められている。

 どよめきが隣の体育館にも伝わり、やがて騒ぎを聞きつけた志摩津先生がやってきた。


    *


 知らない天井が(ジャンティ)の目に映る。

「弥、気がついた?」

 声のした方に首を振ると澪が。

「病院よ。志摩津先生が来たら気を失ったの覚えてる?」

「・・・」

「先生が救急車を呼んでくれて、お医者さんが頭の検査してくれたけど何ともないって。石頭だなって笑ってた。」

「・・・」

 澪が何を言っても、目の前に横たわる(ジャンティ)は怪訝そうな目を向けるだけだ。

「何か、言ってよ、弥。」

「・・・」

「あなたまた、私の知らない弥になってる。」

 そっと彼の手を両手で握った。(ジャンティ)はびくっとする。

 澪の手の柔らかさと温かさが伝わってくる。ぬくもりが手から血管へ、血へ伝わり、全身を巡って心の中へ伝わっていく。

「今のあなたには分からないのかもしれないけど・・・、ありがとう、弥。あの時守ってくれて。」

 澪の瞳が悲しみの潤いを帯びてくる。

「・・・」

 (ジャンティ)の手を握ったまま、唇をぎゅっときつく結ぶが、次第にわななくように震え始めた。涙がこぼれ落ちるのを必死に堪えて、彼の手を握る両手に力がこもる。顔を上げていられなくなり俯いた。


 澪の声にならない悲しみが手を通して心にも伝わってくる。少年の心の奥底で弥の意識が目を覚ました。

『温かくて、柔らかい、この感触、()知ってる。このぬくもり憶えてる。()の好きな・・・でもこの悲しい気持ちはなんだろう。なんでこんな悲しい・・・』

『澪!』

 けれども声に出ない。心の底で澪の名前を呼び続ける。幾度も、幾度も。手を動かそうとしてみても動かない。何も澪に届かない。


 澪は俯いたまま声を震わせて絞り出した。

「弥、前みたいに、私を思い出してよ・・・」

 さらに強く、ぎゅっと少年の手を握りしめた。

 少年の手がぴくりと動いた。徐々に指が動き始め、澪の手を握り返した。

 びっくりして顔を上げて弥を見る。

「澪!」

「弥!?」

「澪、大丈夫?怪我はない?」

「私が・・・分かるの?」

「当たり前だろ。」

「弥!!」

 堪えていた涙がぽろぽろこぼれ落ちる。 


    *


 ひとしきり泣いて落ち着いてきた頃、弥がベッドの上に起き上がり、

「ありがとう、澪。介抱してくれて。」澪の手を今度は弥が両手で力強く包み込んだ。

 澪はぶんぶんと首を横に振って、

「私こそありがとう。守ってくれて。」弥の手に自分の頬を寄せた。

 それから弥の目を見て、

「弥がまた私のこと分からなくなった時は悲しかった。もういなくならないで。」

「う、うん・・・」

 自分で制御できない分なんとも頼りない返事しかできない。

「約束して。」と、弥の右手の小指に自分の小指を絡ませた。

 ゆびきり。

 弥も小指を握り返してげんまん。

 澪の顔に明るさが戻り、

「嘘ついたら針1万本飲ますから!」と涙混じりの瞳を細くして笑った。

「い、1万本?!それは嫌だな。」笑おうとしたら頭に激痛が走った。

「・・・あうっ、痛っっっっってーーー!!」額のあたりを両手で押さえる。

「大丈夫、弥?」

 澪が椅子から腰を浮かして包帯の巻かれた傷口を見ようと近づく。

 二人の顔が重なりそうだ。お互いに頬を赤らめ、そのまま固まる。

 ほんの数秒の沈黙が訪れたあと弥はすっと澪のくちびるへ近づいた。


 ぱーーんち!!


 弥の顔面にねこぱんちが(ゼロ)距離から炸裂。

「そういうことは卒業してからって言ったでしょ!!」顔を真っ赤にしながら照れる。

 弥の上体はベッドへ埋まっていく。枕が頭を包む。また傷口の開いた弥だった。

 だが、その姿は黒髪の、澪のよく知る少年に戻っていた。

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