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聖剣伝説レッドソード  作者: 山田隆晴
切られた火蓋

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6-2

 弥が後頭部にたんこぶをこさえたその日の放課後、弥と澪の姿は体育館の横にある武道場にあった。剣道部が練習で使っている場所だ。風の通りが良く6月だと言うのに板の間は少し冷んやりしている。

「なんで私まで?」

 澪は納得がいかないという表情で隣にいる弥にひそひそ声で噛みつく。

 昼休みに弥と二人して剣道部の主将に声をかけられていた。ちなみに彼は剣道部員たちからは西郷(せご)どんと呼ばれているが本名ではない。また二人は彼とは初対面だった。

「俺が知るか、そんなの奴(西郷(せご)どん)に聞いてくれよ。」

 弥は声をかけてきたときの彼の表情が和やかではなかったので気分が良くない。 

「せからしか(やかましい)!黙らんか!」

 西郷(せご)どんが竹刀を2人に向かってまっすぐに突き出して睨みつける。

「一体何の用なんだよ。」弥がぶっきらぼうな口調で訊くと、澪も口を尖らして後に続く。

「そうよ、なんなのよ。」

 その瞬間西郷(せご)どんが竹刀を床に叩きつけた。竹刀が折れたかと思うほどの音だった。

 弥はスっと澪の前に出て庇うように自分の陰に入れ西郷(せご)どんの視界から彼女を消した。

「俺たちが何かしたか?」

「わからん?わからんて言うとな?」

「ああ、わかんねえよ。俺たちは(剣道)部員じゃないし、剣道部に迷惑もかけてねえよ。」

 西郷(せご)どんはふっと息を吐き、

「そうじゃな、確かにうち(剣道部)にはないも迷惑をかけちょらん。そんた認むっど。じゃっどん、おいはわいが許せんど。」

 西郷(せご)どんは(にわか)訛りで話し続ける。

貴様(きさん)、いつもいつも我が剣道部ん顧問兼監督兼そしておいん師匠であっ志摩津(しまづ)先生ん授業で居眠りしちょっちゅうじゃらせんか!」「どこん世界に師匠を愚弄されて喜ぶ弟子がおっち思うか?」こめかみに血管を浮かせて吠える。

 二人は目が点になった。マンガならうしろに「・・・」が流れていくところだ。

 彼の言いたいことは大筋は理解できたものだから呆れて二の句を継げずにいると、

「ちいとはおいの怒りがわかったようじゃの。」と苦い表情(かお)で睨みつける。

「いや、全っっ然わからん。」弥が顔の前で手を左右に振ってみせる。

「なんちな(なんだと)!」西郷(せご)どんの顔が上気していく。

「志摩津の授業退屈なんだよなあ。」と、心の中で呟いたつもりがつい声に出てしまった。

 どこからかサクラ島が噴火する音が聞こえた気がした。


「もはやこれまで。わいん(お前の)そん根性叩き直してやっ。おいと勝負じゃ。竹刀を取れ。」

 そういうと西郷(せご)どんは竹刀を顔の横に構えた。切っ先をまっすぐ天に向けて。

 その時今まで弥の後にいた澪が陰から出てきて西郷(せご)どんに、

「ちょっと!あんた先生の弟子だからってなによ。そりゃ、居眠りするのは弥が悪いわよ。だけどねあんたのやってること違うと思う!」

「志摩津先生に言いつけてやるから!」

 その言葉に西郷(せご)どんは激昂し澪に襲いかかった。

「チェストーー!!」

 西郷(せご)どんの力のこもった重い唐竹割りがもろに入った。ズシンと鈍い音が道場中に広がって四方の壁に吸い込まれていった。その音を聞いて西郷(せご)どんは我に返り握りしめていた竹刀を落とした。板の間に竹刀の乾いた音が響く。はっとして竹刀をたたき込んだ先を見た。

 その視線の先には、澪に覆い被さるように彼女を抱き込み、額から血を流している弥の眼が。

 鋭く、まっすぐに西郷(せご)どんを睨みつけている。

「す、すまない・・・」西郷(せご)どんは俄訛りを忘れて謝った。

「俺が庇わなければ澪は大けがしてた。」

 弥は心の底から湧いてくる怒りに自分のものではない別の誰かの怒りも感じていた。

 怒りに震え、まさに怒髪天を突くような感覚に包まれるとわさわさと髪の毛が騒ぎ始めた。弥の腕の中にいる澪が異変を感じて弥を見上げた。

「弥!? また、」教室で弥の姿が豹変したときのことを思い出した。

 澪は弥の両腕を掴み名前を呼び続けた。

 弥はジャンティに変化(へんげ)した。


「貴様も分身なのか。」キっと彼を見据えたままそう言った。

「な、何を言って・・・」

 怒りのあまり我を忘れて防具も着けていない相手に竹刀を思い切りたたき込んでしまった過ちへの悔恨の念と、弥の額から流れる鮮血への恐怖、そこに目の前で彼が知らない少年に変化したことへの驚愕が加わり西郷(せご)どんは全身が震え、パニックになりかけていた。

 (ジャンティ)は彼が落とした竹刀を拾い上げると上段に振り上げて斬りかかった。

「やめてーーー!!」

 澪の叫び声が高い天井にまで響いた。動きを止める(ジャンティ)

 澪はぽろぽろ大粒の涙を流しながらまた言った。

「やめて、弥」

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