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聖剣伝説レッドソード  作者: 山田隆晴
切られた火蓋

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11/44

6-1

 空が白み始めた頃ジャンティたちは既に出発の準備を整え終え、隊長の合図を待っていた。

 (シン)がノイレンとジャンティに馬に乗るよう勧めた。

「私の勘が囁くのです。お二人は馬に乗って下さい。」

 二人は普段誰かの馬車に乗せてもらっていたから余分な馬がおらず、宿の主人に2頭都合を付けてもらった。隊商はジーナで商売をしたあとここへ戻ってくる。その時に返すという約束で。

 ジャンティは鞍にワグソードをくくりつけてから跨がった。ふと(シン)を見ると彼は弓を携えている。

(シン)さん、それは?」

「まねごと程度ですが、」とはにかむように言った。

「剣ではまったくお役に立てませんが、これで少しは援護できると思います。」

するとノイレンが冗談交じりに、

「わたしらの背中は射らないでくれよ」と笑顔で返す。

「も、もちろんです!」

 静かな朝の始まりだった。


    *


 城門をくぐるときジャンティは門番のタイロスに挨拶をしようとしたが彼の姿がない。

「ああ、タイロスなら弟に会いにジーナに行っているよ。」と彼の仲間が教えてくれた。

「弟が上手いこと船長の娘さんを射止めたって、タイロスのやつとても喜んでいたよ。」

 ジャンティは『もしかしたらジーナで会えるかもしれないな』と思った。


    *


 カンタラからジーナまで2日かかる。初日は途中にある村で世話になった。

 2日目はまだ暗いうちから一行はジーナへ向けて出発した。(シン)の進言で馬に乗っていたノイレンとジャンティは道中ずっと警戒していたがここまでは何事もなく進めたことで今日も無事に済むのではないかと少し安心感を覚えていた。警戒心が緩むとジャンティは背中のレッドソードが重く感じた。馬車のときは荷台に置いていられたから剣の重さを改めて実感していた。


    *


 村を早くに出たため日が傾き始める前にジーナへ着いた。正確にはジーナの町が見えてきたところで一行の足は止まった。

 町のあちこちから黒い煙が上がっている。一行に緊張が走った。

「隊長!あんたたちはここでしばらく待っていてくれ。私らで様子を見てくる。」

 ノイレンはそう言ってジャンティと(シン)を連れて馬を()かした。

 先頭を走るノイレン。ジャンティ、(シン)と続く。(シン)が叫ぶ、

「『魔』の分身です!ヤツらが暴れている!」

「上等!」とノイレンが返す。

 ジャンティは初めての本格的な戦闘になるだろうことに恐怖を覚えた。しかしもう後には引けない。カンタラの街で(シン)に説得され決意を固めたのだ。ここで逃げたらリーミンを探し出すこともできないと自らを奮起した。手綱を握る両手に力がこもる。一心に前だけを見つめて馬を走らせた。

 町の入り口まで来ると野盗の姿をした分身たちが大勢見えた。ざっと50~60人はいるだろうか。

「ノイレン、ジャンティ、矢の手持ちは30本あります。それだけは任せて下さい。」

「あいよ!」ノイレンは(シン)に返しつつ腰のネオソードを抜いて野盗に斬りかかる。

 ジャンティも背中のレッドソードを抜きノイレンに続いた。

『敵を倒すことだけに集中するんだ』そう自分に言い聞かせて野盗めがけて剣を振るった。

 斬られた野盗はあの時のように黒い霧となって消散した。

 (シン)は2人から少し離れた後方に位置し、弓を引いた。

 矢が野盗の胴体に突き刺さる。しかし霧散しない。野盗はその場に倒れただけだ。

「やはりな。」

 (シン)はそれを見て呟いた。


    *


 「どうりゃあ!!」

 結婚したばかりの弟夫婦を守ってタイロスが太い木の棒を振るっている。厳ついタイロスが振り回すのだ、まともに食らえばひとたまりも無い。野盗は吹っ飛んでいく。しかしまたすぐに立ち上がって襲いかかってくる。

「なんなんだ、こいつら?!殴っても殴って気絶すらしねえ。」

 船着き場のそばにある小屋に弟夫婦(ふたり)を隠し、その前でタイロスは必死に戦っている。その顔は険しい。

「兄さん、僕も戦うよ!」タイロスの背後から弟がそう言うが、

「お前は引っ込んでろ!人間相手の格闘はからっきしだろう。魚のようにはいかないんだぞ。」

「でも兄さんだけに戦わせるなんて、」

「俺はカンタラの街の門番だ。お前とは鍛え方が違う。」

「兄さん・・・」

「かわいい嫁さんをもらったばかりなんだ、しっかり(嫁さんを)守っていろ。」「それにな、やっとできた義妹(いもうと)をいきなり未亡人にさせちゃ義兄(あに)として申し訳ねえ。ここは俺に格好付けさせろよ。」

 吹っ飛ばしても斃れない野盗相手に全身に傷を負いながらもひるまないタイロスだった。


「タイロス!!」

 野盗どもの後方から彼を呼ぶ声が聞こえた。声のする方を見やった彼の目にジャンティの姿が映った。馬に乗ったジャンティはタイロスに吹っ飛ばされて立ち上がる野盗を次々に斬りつけながら近づいてきた。

 レッドソードに斬られた野盗は黒い霧となって消散していく。タイロスは自分の目を疑った。まるで魔法を見ているようだった。

「無事で良かった。」

「ひよっこ、今何をした?」

 自分がいくら棒でぶっ飛ばしても気絶すらしなかった野盗がジャンティの剣に斬られた途端霧散したのだ。ひどく驚いた。

「話はあとで!これを使ってください!」と鞍にくくりつけてあったワグソードを抜いてタイロスに手渡した。

 半月刀というより青竜刀に近い刀身。龍をあしらった長い柄。そこにライムガーネット(よう)の黄緑色の聖石。厳ついタイロスが持つには少々小さく見えてしまう。

「ありがてえ、」タイロスは棒を捨て、剣を両手で握った。

 さすが普段から仕事で鍛錬しているタイロスは動きに無駄がなかった。馬に跨がったままのジャンティよりも野盗を斬る。するとワグソードに斬られた野盗はジャンティがやって見せたように黒い霧となって消えていく。

「なんだかよくわからんが、こいつはいいぞ!」

 こわばっていたタイロスの顔に余裕が戻ってきた。


    *


 日もとっぷりと暮れ、闇が町を包んだ。

 ノイレンとジャンティは(シン)が倒した野盗の胴体を剣で突いて回っている。突くと身体は黒い霧となって消散した。

「これは一体どういうことだい?」ノイレンは(シン)に訊いた。

「『魔』を打ち祓えるのは聖剣だけです。私の矢はただの矢ですからヤツらの動きを封じることはできても本当の意味で息の根を止めることはできないというわけです。」

 それを聞いたタイロスは納得がいったとばかりに頷づいて返した。

「なるほどな。それで俺が棒でぶっ飛ばした野盗は死ななかったというわけか。しかし気絶もしなかったのはなぜだ?」

「それは私の矢のようにヤツらの胴体に刺さって動きを封じていないからです。ヤツらは分身ですからどこかで『魔』がそれを操っています。矢でも何でも胴体に刺さればその操りを止めることができる。けれどもそれだけでは操り糸を完全に断つことはできない。」


    *


 町に残っていた野盗の身体は全て消した。生き残った町の人々を隊商の皆が世話している。町にぽつぽつと明かりが灯り、人々の顔に笑みが戻ってきた。

 一息ついてから隊商はジーナでの定宿に馬車を留め、生き残った宿の人々と喜びを分かち合っている。

 ジャンティは宿の中庭で1人夜空を見上げていた。頭の上にはいつものように数え切れない星々が瞬いている。ノイレンがそれを見留め、静かに近づき、

「大丈夫か?ジャンティ。」「あれだけの戦闘は初めてだったろう。心が落ち着かないのかい?」そう気遣った。

 ジャンティはノイレンを見て、

「あれが全部生身の人間だったら僕は今こうして冷静に立っていられなかったかも知れません。」

 剣を握っていた右手に肉を切った時の感触が蘇ってくる。

「正直怖かった。『魔』の分身とはいえ斬ったときの感触が・・・」

「そうだな、アレが全部生身の人間だったらあんたは今頃返り血で全身まっ赤っかだ。」笑いながら返す。

「うわ、想像しちゃったじゃないですか。」

 ノイレンはそれ以上何も返さず黙ってジャンティの頭を優しく抱えた。

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