208:ノーム、〔の〕。
二本の鍵を穴に差し込み回す。
カチャリという『開く』音が聞こえたかと思うと、足元がごごごごごごと振動しはじめた。
「おわっ。床が伸びてるぞっ」
誰かがそう叫ぶと、一斉にみんなが崖っぷちに集まる。
どうなっているのか俺も見たい。見たいが……
バネでも仕込んでいるのか、鍵から手を離すと元の位置に戻ってしまう。
すると――
「床が引っ込んだ?」
「おい、そこのイケメンさん。お願いだから鍵を回しててくれよ」
となる。
え、やだこれ。じゃあ俺、ここでずっと鍵番してなきゃいけないのか?
やがて、ズゴーンっという音がして「向こう側に繋がったぞ」という歓声が上がる。
え? マジ?
鍵から手を離し立ち上がると、俺が見たのは崩れ落ちる床だった。
一斉に振り返り、こちらを睨む方々。
……俺が悪いのか?
しょんぼりしながら再び鍵を回す。
地面が振動し、床が向こう側と繋がった――らしい。
「で、俺はこれからどうしろと?」
「マズいな。誰か一人がここで鍵を回してないと、床が直ぐ抜ける仕様みたいだし」
「みんな我先に向こう側に行っちゃってますね」
フラッシュとルーンは俺の隣で、他の連中の様子を見つめているようだ。セシリアも傍に居てくれる。
「にょきっと伸びた床が狭いから、みんな押し合っているな。どうしてだろう」
「そりゃあ、こんな仕掛けまで用意されてる道だ。この先に階層ボスが居ると思っているんだろうな」
鍵を握ったまま答える。
今、この瞬間。
俺がこの手を話せばどうなるのか……ど、どうなる……。
「マジ氏、その手離しちまえば?」
「え、いいの!? じゃなくって、それはマズいだろ」
一瞬本音が出てしまった。
考えれば考えるほど、この手を離したくなる衝動に駆られるんだよな。
でもそんな事をして、あとからあれこれイャモン付けられるのも嫌だ。
あいつらが全員渡り終えてから……その後はどうやって進もうか?
なんてことを考えていると、奥から悲鳴が聞こえてきた。
「ああぁぁぁぁ、リーダーが落ちたっ。おい、お前らが押すからだぞっ」
「五月蝿ぇ! 俺たちが先に渡ろうとしたのに、横入りしたからだろうっ」
「そっちこそ!」
「なんだとっ」
「今の内だ、お先に失礼」
「「させるか!!」」
顔だけ通路に向けて見てみると、セシリアの言う通り横幅の狭い通路で何人かが揉めていた。
その幅、どう見ても人一人歩くのが精いっぱいな広さだ。
慌てて走ったり、後ろからちょっとでも押されようものなら――あ、一人落とされた。
落下させられたパーティーの人たちだろうな。落とした相手を突き飛ばしている。
そしてまた一人落下、と。
おいおい、どうすんだあれ。
「無駄な争いはやめましょうよっ」
「そうだぞっ。マジック君のお陰で道が出来たっていうのに、何故お互いを蹴落としあうのだっ」
ルーンとセシリアは連中の争いを止めさせようとしているのか。
でもフラッシュだけは、
「全員落ちた後の事を考えて、どうやって進むか考えないとな」
と、冷静である。
いや、残酷である!
尚、俺は全員が落ちればいいのにとまでしか考えてない。
フラッシュと二人でどうするか話し合っていると、ついに向こう側が静かになる。
どうしたのかとフラッシュがルーンに尋ねると、
「全員落ちた」
と、小さな声で答えていた。
プレイヤー同士で協力するっていう考えはないのかよ、まったく。
「さて、じゃあ俺たちはどうする?」
一度手を離し、立ち上がってみんなと話し合う。
手を離した瞬間、すぐに床は抜け落ちてしまった。
「あの様子だと、先に三人が渡って残りの一人がダッシュってのも無理っぽいよな」
「マジックさん、さっきのスキルは?」
「あぁ、アレな。無理だ。瞬間移動できるのは十五メートルまでだから、この距離だと……」
「二十メートルはあると思うぞ」
そうなんだよなぁ。
鍵を取ってきたときみたいに、ぷぅに頼んで嘴で……咥えるまでは出来ても、回せないか。
「となるとやっぱり、誰か一人がここに残るしかないのか」
フラッシュの言葉に全員が声を失くす。
誰が残る?
セシリアは前衛だ。必要だろう。
ヒーラーとして俺も……いや、ルーンも殴り神官とはいえ、元はINT系だったんだ。『ヒール』の回復量はそこそこある。バフスキルもあるし、俺より優秀?
じ、じゃあ火力として!
全属性に対処できるし、俺の方がフラッシュよりっ……。
やめよう。
なんか心が荒んでくる。
誰かに犠牲になれと強要するより、自分が犠牲になったほうがもやもやしなくていい。
「みんな、先に行ってくれ」
「え? マジ氏、どうしたんだ」
「そんな。マジック君が残るというのか? だったら私がっ」
「いいえ、ボクが残りますよ。火力も微妙だし、マジックさんだって『ヒール』持ちですから。そもそもセシリアさんは回避高くて回復もそんなに必要ないですし」
「いやいやいや、火力というなら俺が残るべきだろ。マジ氏より劣るし、ルーンもマジ氏もヒーラーとしては中途半端なんだ。二人揃ってる方が、万が一の時にいいし」
「いや俺がっ」
「私だっ」
「ボクですよ」
「だから俺だって」
〔のっ〕
四人とも譲ろうとしない。
俺が、私が、ボクが、オイラがと……ん? オイラ?
違和感に気づいたのだろう。全員が〔のっ〕という声のほうに視線を送る。
その視線は足元に向けられ、そこには手を上げたノームが居た。
〔のっ〕




