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10.

淡泊な二人。

 わーいわーいと頭の中で浮かれている。おのぼりさん丸出しだったのか、椅子に案内された後、給仕の男性(美形男子さんなので女性客が多いのだろうか?)に微かに笑われた気がする。気のせいにしておいた。

 頼んだものが届くまで堪能しようと、店内をきょろきょろしていると、今度は確実に笑い声。

「笑わないで下さい。ロランさん。」

「ふ、すまない。そういう所は女の子なんだなと思って。」

え?ちょっと失礼ですよ。言わないけど。オゴリだと言ってくれたので。

「一つで良かったか?」

「え?」

リュカが頼んだのはミルクティーとフルーツタルト。今日のおススメは、セット価格で安かった。貧乏性なのは治りそうにない。もしや、遠慮したと思われたのか。

「そんな食いしん坊に見えましたか。」

遠慮した訳じゃないですよと告げても信じないかもしれないので、そういう。ロランさんは、ちょっと口ごもる。

「いや。一つが小さいし。」

「甘い物ですし、大き過ぎても食べきれなさそうです私は。」

一度腹いっぱい食べてみたいわ~。と思いつつも言わない。女子としてどうよ?と思うので。

「そうか?毎回。三つぐらい・・食べる人物を知ってたから、そういうモノかと思ってた。」

 向かいに座るロランさんは体格が良いので、ちょっと窮屈そう。そしてその『人物』の事をいう時の歯切れの悪い事。

「来る度にですか。それは。(贅沢)」

「いや。来ない。」

 きっぱり仰った。背筋を伸ばして。

「俺が買って行く。・・・あ。」

 これは、余計なことまで言ったという顔。珍しい表情を見た。ケーキを携えてその人の所へ行くのを、誇りに思っているような顔。そして言い過ぎたと戸惑っている顔。

 人の恋路を邪魔してはいけないなと、聞かなかった振りをしよう。そう考えた筈なのに、口から出た言葉は。

「貢いでますね。大丈夫ですかロランさん。騙されてないですか?」

からかいを含むものになってしまった。

「ああ。そうか。」

何が?リュカが首を傾げると、ロランは笑った。

「俺の心配よりリュカの方がよほど危ない。」

意味深な微笑みは、勿論二人共有の過去の事だろう。恥ずかしいのでやめて下さい。

 そんな時。良いタイミングでケーキが運ばれてきたので「いただきます。」と手を合わせて食べ始める。

ロランさんは不思議そうな顔になった。ああ。この仕草ですね。故郷の礼儀です。言わないけど。

「おいしいっ!」

さくさくタルトにふんわりクリーム。そしてフルーツ絶妙!何この甘さ。至福です。

と、堪能していたらロランさんが肩を震わせて笑いを堪えていました。ケーキの為に無視します。


 ロランはお店の勘定をする時にリュカを振り向いた。

「土産を買って帰りたい。良いか?」

「もちろんいいですが?」

彼は店の人に焼き菓子を(たぶん屋敷の人用に)いくつか頼み、ケーキを別に三切れ頼んだ。そちらは厳重に包装してもらう。

 思い人に渡すのだな。とリュカは思った。二人で店を出ると、ロランさんの足の向いた先は、元来た道で、帰ろうとしているのが解る。リュカはもう少し外にいたかったので、一人で散策しようかと思った。まだ昼過ぎ日も高い。

「どうした?行くぞ。」

え?まさかの一緒に帰るですか。

「腹でも痛いのか?」

心配の方向が間違っている。

「違います。私一人でも帰れますよ。」

道は覚えたし。

「・・・帰る。悪いが、これを届けに行きたい。」

有無を言わせない声だ。なんか嫌だな。と感じたのを察したのか、ロランは苦笑いする。

「すまない。この荷も大概重いぞ。」

「あ。」

自分の買った物まで彼に持たせっぱなしでした。使用人のすることではありません。

「申し訳ありません。持ちます!」

と近寄れば、がしっと腕を掴まれた。優しい笑顔で

「帰ろう。」

と微笑まれても。やられたとしか思えなかった。馬車に大人しく乗せられたのは、リュカの荷物を最後まで持ってくれて使用人として罪悪感を感じてしまったからだ。

 ガタゴト揺れながら、ため息。

(まあ。いいか。世話になりっぱなしだし、役に立つようになったら、一人で外出させて貰おう。)

呑気に構える事にした。


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