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11.お茶会ですね

 屋敷に帰り玄関ホールに入ると、慌てたようにウィルドレッドが現れた。リュカはそこで、使用人出入り口から入るのを忘れていたのを思い出したが、ウィルドレッドは咎めない。ロランが、大事に自分で持っていたケーキの箱を渡すと、それを抱えるようにして持つ。ロランが「いつものだ。」と言ったのに、こくこく頷いて返事をするのみ。彼にしては焦っているようで珍しく。リュカとロランは顔を見合わせた。

「旦那様。急の来客がお見えです。」

 そう言い、後は主人に耳打ちした。リュカは関係ないので、先に部屋に運んでもらった荷を整理に行くことにした。客間の方から軽い足音が近づいて来た。お客様かな。と思った。リュカがいると良くないかもしれないので、さっさと立ち去ろうと、俯いたまま壁沿いにそっと歩く。

「おかえり。ロラン。」

少し高い、けれど優しい綺麗な声だと思って思わずそっちを向く。

「ふ、・・・どうして?いら、来、たんですか?!」

ロランが焦った声を出した。

 リュカは一瞬ぽかんとしてしまった。

「どうして?兄のように慕うロランに会いに来るのが何処が悪いのかな?」

コテンと首を傾けると、サラサラの金髪が揺れた。白い肌に笑みの形の赤い唇。長いまつ毛に縁どられた碧玉のような瞳が優しげに細まっている。

(美少女。)

という感想しかないリュカ。は、その人の姿を下までじっくり眺めて、印象を変えた。

(びっ美少年!!)


 少年の姿は、ロランさんが家の用事で出かける時のように、貴族らしい服を着ている。装飾も控えめで、黒を基調としていて、施された刺繍も青い色で華美でなく。なのに、なのにだ。

(キラキラしてるわ。なんだコレ。どこぞの王子様かいっ!て、ぐらい華やか。)

関わるまい。あの観葉植物の陰に隠れてやり過ごそう。

「君。」

(美形と酔っ払いに関わると碌なことがない。)

何となく、ノエさんの事を思い出した。うわ。気持ち悪くなる。人間中身だよね。うん。

「新しい使用人?」

(緑の葉っぱに癒されよう。天はニ物を与えすぎだと思うんだよね。葉っぱさん。)

「ね。」

ひょいとリュカの顔を覗き込む碧い瞳。

(ひえぇっ!)

びっくりし過ぎて後ずさったら、壁で後頭部強打。痛い。

「名前は?」

何でもない事の様に聞いてくる。キラキラ君。多分年下。

彼の背後を窺うと、ロランさんが困った顔をしていた。すみません。無様な事しました。

 ロランは、伸ばしかけた手をさまよわせて、結局降ろした。リュカは立ち去った方が良いだとうと感じた。まあ。目の前のキラキラが退かないと、移動できないのだが。その前に名乗って、愛想よくしなければ、と背筋を正した。聞かれたし。無視は駄目な筈だ。

「お初にお目にかかります。リュカと申します。」

ぺこりとお辞儀をする。これで合っているのか?頭を上げられない。


 彼の眼はリュカのつむじを見下ろしながら、冷たい青に輝いていた。


 頭を上げるタイミングの解らないリュカ。少年の磨かれた黒い光沢のある靴が目に映る。

「その、・・・遊びに来たなら、今日はケーキを買って来てる、んだが。」

ロランさんの言葉は珍しくたどたどしい。頭を下げたまま考える。

(ケーキ。恋人への贈り物なんでは?違った?え?)

「ケーキ?」

少年の声が少し弾んだような気がしたのは気のせいか。

「ああ。だから、あちらに。ウィル。準備を頼む。」

「はい。リュカあなたも来なさい。」

呼ばれてしまったので、慌てて顔を上げてウィルドレッドさんの所へ、そのまえに、キラキラに軽く会釈しておく。

 二人が去ると、一応はロランと彼の二人になる。ロランは盛大なため息をついて

「なぜ、ここへ来られたんですか?」

守りの者はどうしたと言いたい。非難の口調になったのは当然だろう。

「大丈夫だ。ちゃんと(護衛は)居るし。それより。」

彼はリュカの去った方を見た。

「たいした娘じゃないじゃないか。」

この人は、好奇心に勝てなかったらしい。心底がっかりしたような声音をしていた。

 ロランが主の要件をこなしている時に出会い、疑いもし、関わって、結局面倒を見るはめになった娘。ロランにしては自分から女性に構うのは珍しい、と思ったから見に来てみれば。

「つまらないな。チビで凡庸。」

彼の辛辣な言葉を聞いて、ロランは少しほっとした。こういう所は年相応に好奇心旺盛で正直困る。つまらない。と言うなら、もう、勝手にこうやって来ることは無くなるだろう。

「とりあえず、行きましょうか。」

いつまでも、ここでこうしていると、使用人。特に女性が彼を見にやってきてしまう。前にも一度だけ突然やって来て、侍女らの噂になり、何人か辞めさせる羽目になった。

「さあ。貴女の好きな物を買って来ましたから。」

碧い瞳が嬉しそうに瞬いたのを、ロランは見逃さなかった。ほんの少しだけ息抜きが出来るといい。心からそう思う。


 手際よく用意をするのは、ウィルドレッドさん一人。何故か他の使用人を入れない。料理人まで出してしまった。リュカが居てもいいのだろうか。

「ウィルさん。私。出ます?」

「あぁ。いて下さい。そこに。」

彼は優雅に手慣れた様子で、白く長い皿にケーキを置く。三つ。四角いチーズケーキ、リュカも食べたタルト、丸いドーム型の茶色いケーキ。ウィルドレッドが棚から瓶を出し、ベリーのソースをチーズケーキにたらす。本当に職人さんのように綺麗に出来上がる。おいしそう。

「え。」

なのにウィルドレッドは、ケーキを全て少しずつ削ってしまう。衝撃である。それを彼が食べてしまった。

「あの。」

続いて用意された飲み物。それも味見するが如く彼は口に含む。それから、彼はリュカの方を向いて、不思議な笑みを浮かべた。

「すみませんね。」

後戻りできない所まで巻き込みました。と、言外の思いは伝わらないだろうから、何事も無かったようにする。ウィルドレッドは、先ほどのリュカの彼への態度を見、大丈夫だと判断した。

「行きましょうか。旦那様とお客人の所へ。」

「私もですか?」

「ええ。一人は良くないので。」

リュカが解らないという顔をしたが、気づかない振りをしてトレーに乗せたケーキを、来客用の装飾された台車に乗せる。リュカがポットと茶器をを乗せてくれる。

 黙ったまま、客のいる部屋へ。大人数を招く部屋とは別の、リュカの入ったことの無い部屋だった。


 ノックに、入れという返事に答える。

「失礼します。」

リュカも後ろへ続いた。

 内装は女性の部屋のように華やかな花柄の壁紙。窓は、彩光を取り入れるためはめ殺しの横長い物が右手、高い所についていて、十分に光が入り込む。装飾はあまりなく、中央にテーブルと三脚の椅子。部屋の端にソファ。壁の左側にはドアがあり、まだ部屋が続いているようだ。

 その椅子。入口から見て、中央に足を組んで座っている少年が、やたら景色に馴染んでいた。差し込む光にその金髪が輝いている。

(眩しいわ~。)

ちょっと別世界の人ですね。

 ロランさんは一緒に入って来たリュカを見て、わずかに目を見開いていた。と思う。が、入口付近で大人しく控える。

 カチャカチャという小さな音が響く部屋。少年も、彼の右手に座るロランも何も言わない。

(欠けたケーキ。気にならないみたいだね。)

少年も貴族なのだろうから、使用人として節度を持って(関わりたくないし)視線を合わせないようにする。

「どうぞ。」

ロランが沈黙の中つぶやいた。

「ああ。」

またも沈黙。

気になってちょっと視線を上げると、碧い目とかち合った。一瞬。吸い込まれるようなその青に、怖いと思ったのだが、彼はすぐにっこりと天の御使いのような笑みを浮かべた。

「ウィル。リュカは退席させろ。」

ウィルドレッドはその主人の言葉に、申し訳なさそうな顔をする。そして、壁に埋め込んだ水時計を見る。

彼は屋敷の統括をしているので大変忙しい。気付いたロランが困惑の表情。来客の時間も悪かったのだ。

「申し訳ありません。私は失礼させて頂きますので、代わりにリュカを置いていきます。用事がありましたら、この者にお言いつけ下さい。」

ウィルドレッドは振り返り「頼みましたよ。」とリュカに言う。かなり真剣な表情で。だからリュカは、真面目な顔で頷いておいた。

 決して私が暇なわけでは無いのですよ。と自分の心に言い訳する。来たばかりだし、あまり役に立たないからこのぐらいやれとか、そういう意味じゃあないと信じたい。

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