また会えるよ
次の日、ルカのお父さんの講義を受けた後で、ルカと一緒に僕の家まで歩いた。
いつもの道。いつもと同じ夕方。買い物客が露店を見ている様子もいつも通り。何も変わらないけど、ルカとおしゃべりしながら歩くといつも楽しい。
昨日の別れ際は、ルカが少し変な感じになってたけど、今日のルカは、落ち着いていた。ただ、落ち着いているように作ってるのかも知れないとも思った。
「ルカは今は神官学校に入ってるけど、卒業したらどうなるの?」
僕は歩きながら一般的な話を聞こうとした。
「あ、それは、首都の大神殿とか地方の神殿とかに勤めることになる。あと聖女寮の手伝いとかだな」
実はちょっと驚いた。聖女寮に入ってるのは女官だけだと思ってた。
「女官が多いけど、男手が要る部署は男性神官が勤めてるらしいよ」
ルカが説明してくれた。見えないところで男性の神官が働いていたんだと知った。
「それと、次の聖女が男性だから、聖女のお世話をするのも男性神官になりそうなんだよね」
「そうなんだ……僕のせいで……」
申し訳ない気分になった。自分が聖女になるせいで、担当者が大幅に交代することになりそうだから。
「気にするな。この国が、お前こそ聖女に最もふさわしいと判断したんだから、悪いとしたら、この国だ」
急に「国」という言葉が出てきて、おかしなかんじがした。
「『僕』対『国』になってるね」
ルカが真剣な表情で僕の方を見た。
「何を呑気なこと言ってる?」
「え?」
僕は聞き返した。ルカの表情は崩れない。
「聖女はこの国に一人。ノエルと国は対等だ」
僕はこの時、これまで以上に聖女の大きさと重さを感じた。
「重いね。怖くなってきそう……」
僕は呟いて立ち止まった。ルカも止まった。僕とルカは動かなくて、僕たちの周りでは買い物客が流れていった。
ルカは僕の方を向いて微笑んで見せてくれた。
「ノエルは聖女の素質があるって皆が認めたんだ。そこは自信をもっていい。あとは、どれだけ向き合えるかだ。しっかり祈りを捧げたら十分だと思う」
僕は頷いた。でもぎこちなかったと思う。
「うん。そうだね。そうする」
僕は前向きに言ったけど、聖女の職務に向き合えるかは不安だった。
その後、僕は黙ってしまった。
そうして、僕の家に着いた。ここでルカとはお別れだ。
僕から話しかけた。
「ルカ、昨日の帰り際よりもしゃべってくれてるね?」
「あ、ああ……」
ルカは前を向いてこちらを見ずに答えた。
まだぎこちないけど、昨日よりはルカらしくなってた。
僕は、少しほっとした。
「また明日ね」
僕はいつも通り、ルカが見えなくなるまで見送ってから、家に入った。
* * *
それから後も、ルカの長期休暇が終わるまで、僕はルカに並んで送ってもらっていた。
最終日も、僕はいつも通りにルカと並んで歩いていた。
僕はなかなか話しかけられなかった。友達と離れるのが寂しいとか言うのは子どもだと思っていた。それに、神官学校に通う人に里心をつけさせてはいけない。だいたい、自分だってもうしばらくしたら聖女修行に入って会えなくなる。
でも僕が寂しくなるのは間違いない。
ここで何か二人が元気になれそうな、気の利いた一言でも言えたらいいと思ったけど、なかなか出てこない。
そうしているうちに、僕の家のすぐ近くまで来た。
「お家についたね……」
僕は立ち止まった。もう本当にさようならを言わないといけない。
ルカは立ち止まるとすぐに、僕の方を見た。ドキッとした。優しい目……僕は見入りそうになった。
「元気になるおまじない……してやろうか?」
ルカが言った。
「う……ん……」
でも身体はルカを避けるような方向に向けた。
「嫌かな?」
ルカが聞いた。ルカの顔が曇っている。
嫌だなんて、そんなことない。
「街の人が気になる?」
気になるのは気になる。でもそれよりも、これをすると本当にさようならを言わないといけないから迷ってるだけだ。
少しして、僕は意を決した。
「ルカ……」
僕はルカに手を差し出した。
身体はルカの方を向けたけど、顔はうつむいていた。
「うん……」
ルカの声が聞こえた。
ルカは僕の手を取った。
僕は胸がキュッとなるのを感じた。
そしてルカは僕の手を軽く揺らした。
「ノエルは元気になる。ノエルは元気になる」
おまじないの間、これだけ僕のことを気遣ってくれる友達と離れたくないと、後先を考えずに真剣に思った。
「ノエル、顔を上げて」
ルカが言った。
僕は顔を上げた。たぶん涙でドロドロになってる顔をルカに見せてるはずだ。
「ありがとう……元気出た……」
僕は一生懸命言った。
「また会えるよ。そんなに泣くなよ。泣き虫だな」
ルカが言った。でもルカだって涙ぐんでた。
「さて、じゃあ今日のところはこれまでだ。俺もおまじないで元気出たし」
「ん?なんか変なの」
僕が言った。だって、僕に元気をくれるおまじないなのに、ルカまで元気になるのだから。
「変じゃないよ。俺は本当に元気出た。ノエルのおかげだ」
そういって満面の笑みを見せてくれた。僕もつられて笑顔になった。
「じゃあそろそろ行く」
ルカはそう言うと、すぐに背中を向けた。
「またな!」
ルカは僕の方を見ずに言った。
「またね!」
僕はルカの背中に精一杯の声をかけた。
しばらくは会わない。でも僕は忘れない、今日のおまじないを。




