私たちどちらも謝ってるね
「……つまり、大晦日の日の出から元日の日没まで祈り続けて、その後は新年の宴があるのね?」
私がルカに尋ねた。
「そう聞いている」
ルカが答えた。
ルカが二回目の当番になったときに、もうすぐ行われる「越年祭」の話題になった。
「一日半お祈りし続けるのは大変そう。でもその直後に宴会をするのは……輪を掛けて酷いのね」
私は越年祭は、かなり危ない祭だと思った。相当な負担がかかりそうだ。
「でもそれを過ぎれば、次の日は完全に休みになるから」
ルカが言った。私を励ますつもりなのは分かった。
「休みって何するの?」
「俺もよくは知らないが、何もしないらしい」
「ふうん」
私にとっては興味が無い。聖女は、公式行事以外には聖女寮から出られない。休みとなると、本当に何もしないことになる。
「あと、宴の後から朝までは、この部屋で当番神官が付きっきりになるらしい」
「え?なんで?」
いつもは夜に付きっきりになることはないので、なんとなく疑問に思った。
「疲れが貯まっているだろうから、身体に変調をきたす可能性がある。それに即応できるようにと聞いてる」
「朝になったらどうなるの?」
「次の当番神官と交代する。一月二日の朝飯は別の人になる」
「誰が当番なの?」
私は矢継ぎ早に尋ねた。最後の質問の直後に、聖女としては考えてはいけないことを考えたと気付いた。
「希望者から選考するらしい……」
ルカは一般論を教えてくれた。内心、ホッとした。
「……それと、俺も当番の希望は出している」
私の息が一瞬止まった。
他の神官ならともかく、ルカと一夜を過ごして、本当にいいのだろうか?
私は祈りを捧げる者。私にとって、この話は、雑念でしかない。
「そうですか」
私は努めて冷静な素振りで言った。
「……この話は終わろう」
ルカは少し怒ってるように見えた。
私は「待って」と言おうとした。
でも先にルカが立ち上がった。
「では、朝のお祈りの時間です」
何も言わせてくれない……。私は微かなため息をついてから立ち上がった。
* * *
しばらく後、越年祭についての正式な説明があった。
「……越年祭の翌日はお休みして頂けます」
既にルカから聞いていた。もちろん、祈祷の具体的な内容や宴の出席者といったことは、今初めて聞いた。
「越年の祈祷の後から、翌日朝までは、当番神官が付きます」
これも聞いた。
「今回はルカがお世話します」
ここは初めて聞いた。
――ルカなの!?
でも落ち着かないといけない。私の心の内を気取られたら、ルカの当番も外されるかも知れない。
――落ち着いて、私。
「やはり同郷の方が寛げますかな?」
「はい……」
私は静かに頷いた。
私は嘘をついている。「寛げる」ではない。もっと強い思いがある。
私は何も言わず、愛想笑いをして乗り切った。
祈祷室に向かう廊下でルカとすれ違った。
ルカとは時々すれ違ってはいる。でも私には目を合わせない。恭しい態度とは違い、あからさまに他所を向いた。
「何でルカを怒らせたのかな……」
私は一人になるとこの事ばかり考えていた。
確か、越年祭の当番神官に応募したと聞いたときの返事が、にべもなかったから?としたら、ルカはもう選ばれたんだから、怒ることもないように思う。
私から謝ってないのがいけないのかも。怒り始めた時から、そのまま放置してるものね。
でも……そう簡単にルカとお話ができない。
「ああ、もう、なんなのよ……」
私はそう言って布団を被った。
* * *
そのまま大晦日になってしまった。
結局、これまでルカとは話ができなかった。一ヶ月弱この調子だったので、だんだんと不安感が溜まっていた。
ただ、二日前が不安のピークだった。
大晦日になったらルカが来る。「その時に話し合おう」という思いと「その時にどうとっちめようか」という思いが混ざっていた。
いずれにしても、不安を紛らわせてくれた。
――大晦日の朝。ルカが私の部屋に入ってきた。
「おはようございます」
ルカがお辞儀をした。そして私の座るソファの前に進んだ。
私はだめだった。何を言おうとしても、言葉になり切らない。怒ってるよと言えるし、仲直りしたいよと言える。でもそうじゃない。
ルカとの関係は壊したくない。それでも一言で壊れる可能性がある。
私は何を話せば良いの?まったく分からない……。
そうしていると、ルカがドアを少し開け、部屋の外の様子を伺った。すぐにドアを閉じて、私の近くに寄った。
「ごめん!」
ルカが大きめの声で言った。
私はポカンとしてしまった。それでもルカの顔を見た。赤くなって、私の方を真っ直ぐ見られないみたい。
私は不意に笑ってしまった。
「どうして笑うんだ?」
ルカは困った顔をしていた。
「ごめんなさい。でも、今までずっと不安だったんだよ?ルカが怒ってるみたいだったもの」
私の言葉を聞いてさらにルカに謝られた。
「本当にごめん」
「いいって。大丈夫だから。……でもこの前の当番の時は怒ってたよね?」
「確かに少し怒ってたよ。越年祭の当番の希望を出しても、喜んでくれなかったから……」
確かに私は喜んでいるのを見せなかった。希望通りになるか分からなかったから。
「ごめんなさい……」
「大丈夫だから」
ここで、二人して気付いた。
「私たち、どちらも謝ってるね」
私とルカは顔を見合わせた。すぐに吹き出した。
「それに俺たちどっちも、大丈夫って言ってる」
私は笑いながら二度頷いた。
――コンコンコン。
「朝食が来たな。一緒に食べよう」
ルカは立ち上がって、ドアを開けて朝食配膳係を部屋に入れた。




