↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/14

私たちどちらも謝ってるね

「……つまり、大晦日の日の出から元日の日没まで祈り続けて、その後は新年の宴があるのね?」


 私がルカに尋ねた。


「そう聞いている」


 ルカが答えた。


 ルカが二回目の当番になったときに、もうすぐ行われる「越年祭」の話題になった。


「一日半お祈りし続けるのは大変そう。でもその直後に宴会をするのは……輪を掛けて酷いのね」


 私は越年祭は、かなり危ない祭だと思った。相当な負担がかかりそうだ。


「でもそれを過ぎれば、次の日は完全に休みになるから」


 ルカが言った。私を励ますつもりなのは分かった。


「休みって何するの?」


「俺もよくは知らないが、何もしないらしい」


「ふうん」


 私にとっては興味が無い。聖女は、公式行事以外には聖女寮から出られない。休みとなると、本当に何もしないことになる。


「あと、宴の後から朝までは、この部屋で当番神官が付きっきりになるらしい」


「え?なんで?」


 いつもは夜に付きっきりになることはないので、なんとなく疑問に思った。


「疲れが貯まっているだろうから、身体に変調をきたす可能性がある。それに即応できるようにと聞いてる」


「朝になったらどうなるの?」


「次の当番神官と交代する。一月二日の朝飯は別の人になる」


「誰が当番なの?」


 私は矢継ぎ早に尋ねた。最後の質問の直後に、聖女としては考えてはいけないことを考えたと気付いた。


「希望者から選考するらしい……」


 ルカは一般論を教えてくれた。内心、ホッとした。


「……それと、俺も当番の希望は出している」


 私の息が一瞬止まった。


 他の神官ならともかく、ルカと一夜を過ごして、本当にいいのだろうか?


 私は祈りを捧げる者。私にとって、この話は、雑念でしかない。


「そうですか」


 私は努めて冷静な素振りで言った。


「……この話は終わろう」


 ルカは少し怒ってるように見えた。


 私は「待って」と言おうとした。


 でも先にルカが立ち上がった。


「では、朝のお祈りの時間です」


 何も言わせてくれない……。私は微かなため息をついてから立ち上がった。


 * * *


 しばらく後、越年祭についての正式な説明があった。


「……越年祭の翌日はお休みして頂けます」


 既にルカから聞いていた。もちろん、祈祷の具体的な内容や宴の出席者といったことは、今初めて聞いた。


「越年の祈祷の後から、翌日朝までは、当番神官が付きます」


 これも聞いた。


「今回はルカがお世話します」


 ここは初めて聞いた。


――ルカなの!?


 でも落ち着かないといけない。私の心の内を気取られたら、ルカの当番も外されるかも知れない。


――落ち着いて、私。


「やはり同郷の方が寛げますかな?」


「はい……」


 私は静かに頷いた。


 私は嘘をついている。「寛げる」ではない。もっと強い思いがある。


 私は何も言わず、愛想笑いをして乗り切った。


 祈祷室に向かう廊下でルカとすれ違った。


 ルカとは時々すれ違ってはいる。でも私には目を合わせない。恭しい態度とは違い、あからさまに他所を向いた。


「何でルカを怒らせたのかな……」


 私は一人になるとこの事ばかり考えていた。


 確か、越年祭の当番神官に応募したと聞いたときの返事が、にべもなかったから?としたら、ルカはもう選ばれたんだから、怒ることもないように思う。


 私から謝ってないのがいけないのかも。怒り始めた時から、そのまま放置してるものね。


 でも……そう簡単にルカとお話ができない。


「ああ、もう、なんなのよ……」


 私はそう言って布団を被った。


 * * *


 そのまま大晦日になってしまった。


 結局、これまでルカとは話ができなかった。一ヶ月弱この調子だったので、だんだんと不安感が溜まっていた。


 ただ、二日前が不安のピークだった。


 大晦日になったらルカが来る。「その時に話し合おう」という思いと「その時にどうとっちめようか」という思いが混ざっていた。


 いずれにしても、不安を紛らわせてくれた。


 ――大晦日の朝。ルカが私の部屋に入ってきた。


「おはようございます」


 ルカがお辞儀をした。そして私の座るソファの前に進んだ。


 私はだめだった。何を言おうとしても、言葉になり切らない。怒ってるよと言えるし、仲直りしたいよと言える。でもそうじゃない。


 ルカとの関係は壊したくない。それでも一言で壊れる可能性がある。


 私は何を話せば良いの?まったく分からない……。


 そうしていると、ルカがドアを少し開け、部屋の外の様子を伺った。すぐにドアを閉じて、私の近くに寄った。


「ごめん!」


 ルカが大きめの声で言った。


 私はポカンとしてしまった。それでもルカの顔を見た。赤くなって、私の方を真っ直ぐ見られないみたい。


 私は不意に笑ってしまった。


「どうして笑うんだ?」


 ルカは困った顔をしていた。


「ごめんなさい。でも、今までずっと不安だったんだよ?ルカが怒ってるみたいだったもの」


 私の言葉を聞いてさらにルカに謝られた。


「本当にごめん」


「いいって。大丈夫だから。……でもこの前の当番の時は怒ってたよね?」


「確かに少し怒ってたよ。越年祭の当番の希望を出しても、喜んでくれなかったから……」


 確かに私は喜んでいるのを見せなかった。希望通りになるか分からなかったから。


「ごめんなさい……」


「大丈夫だから」


 ここで、二人して気付いた。


「私たち、どちらも謝ってるね」


 私とルカは顔を見合わせた。すぐに吹き出した。


「それに俺たちどっちも、大丈夫って言ってる」


 私は笑いながら二度頷いた。


――コンコンコン。


「朝食が来たな。一緒に食べよう」


 ルカは立ち上がって、ドアを開けて朝食配膳係を部屋に入れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。