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第二章 孤児編

両親を失い、財産も何もかもを理不尽に奪われた私は、再び絶対的な孤独と貧困の中に放り出された。


当時、孤児や貧困層の子供たちは安価で使い捨ての労働力として扱われていたのである。


8歳の私に与えられた現実は、明日を生き延びるために、最底辺の児童労働に従事することだった。


「おい、そこのガキ! もっと集めてこい。こんな量じゃ銅貨一枚にもならねえぞ!」


「……申し訳ありません、旦那様。すぐにもっと探してきます」


私は泥水を蹴りかけてくる大人の男に対し、感情を殺して頭を下げた。


私が最初に従事したのは、街角を這いずり回り、犬の糞を拾い集めて皮革なめし工場に売る「ピュア・ファインダー」という仕事だった。


吐き気を催す悪臭の中、素手で泥や糞を漁る日々。


前世では一企業の取締役として清潔なオフィスでキーボードを叩いていた私が、今は這いつくばって小銭を稼いでいる。


だが、立ち止まれば飢え死にするだけだった。


少しでも稼ぎを増やすため、私は有毒ガスや崩落の危険が伴う地下下水道で有価物を探す「トッシャー」の仕事にも手を出した。


暗闇とヘドロの中、わずかな明かりを頼りに、貴族が落としたかもしれない硬貨や金属片を探す。


足を取られればそのまま溺れ、ネズミの餌になる地獄のような環境だ。


だが、最も過酷を極めたのは綿織物工場での労働だった。


「早く拾え! 機械の回転を落とすんじゃないよ!」


監督官の怒声と鞭が空を切る音が、轟音を立てて回る工場の内に響き渡る。


私は「スカベンジャー」として、稼働中の高速機械の下に潜り込んで落ちた綿を拾い集めていた。


これは1日十数時間にも及ぶ日もあり、一歩間違えれば機械に巻き込まれて手脚や命を失う危険と隣り合わせだった。


実際に、目の前で腕を失った子供が「使い物にならない」と工場からゴミのように放り出されるのを何度も目撃した。


(……このままでは死ぬ。精神が壊れる前に、物理的に体が保たない)


工場の冷たい床に横たわりながら、私は前世の冷徹な思考をフル回転させていた。


個人の労働集約型の働き方には限界がある。


生存確率を上げるためには、リソースの集中と組織化が不可欠だ。


私は、同じ工場や路地裏で働く、似た境遇の孤児たちに目をつけた。


彼らは大人に搾取されるがまま、明日のパンにも困り、ただ無力に震えていた。


彼らを集めて、私は徒党を組むことに決めた。


「いいこと? これから私たちが生き残るためのルールを決めるわ」


私は前世の組織運営の知識を活かし、6人程度の小集団のリーダーとして立ち上がった。


「集めたパンや小銭は、一度全て私に預けなさい。私がカロリー計算とリスク配分を行って、全員が均等に餓死しないように再分配する。その代わり、怪我や病気の時は組織の蓄えでカバーするわ。分かった?」


孤児たちは戸惑いながらも、私の理路整然とした、子供らしからぬ冷徹な指示に従った。


元々大人の圧倒的な力に逆らえずにいた彼らは、同じような力を感じさせる私にも逆らえなかったのだろう。


効率的な食料調達や危険回避のルールを定めて共同生活を始めることで、私たちは生存率を劇的に向上させたのである。


そんな過酷な生存競争の中、私は別の縄張りを持つ孤児の集団を束ねる、一人の優秀な少年と出会った。


ある凍てつく冬の夜。廃墟となった小さな教会で、私たちは対峙した。


「君のやり方は間違っている」


ぼろぼろのコートを着たその少年は、暖炉の火に照らされながら、私を真っ直ぐに見据えて言った。


「効率ばかり求めて、体力のない小さな子は排除しようとしている。僕たちは、強い者も弱い者も助け合うべきだ」


彼は孤児たちを組織化して自治的な互助組織を作り、大人の工場主や元締めと交渉して、安定した賃金と安全な労働環境を確保しようと模索する理想主義者だった。


底辺の環境で育ちながらも、相互扶助と労働環境の改善を目指しているのだ。


「馬鹿ね」


私は鼻で笑い捨てた。


「交渉なんて、力関係が対等な時にしか成立しないわ。無力な私たちが大人に要求を突きつけたところで、代わりの孤児なんていくらでも補充が利く。全員の生存権なんて甘いことを言っていたら、コストが膨れ上がって組織ごと共倒れになるわよ」


私は前世のベンチャー資本主義的思考を持ち、彼は労働組合的な相互扶助を目指していた。


初期段階において、私たちは激しく対立した。


私は何よりも効率と利益の最大化を優先し、少年は全員の生存と権利を優先したからである。


「君はまるで、僕らを搾取する大人のようだ。僕たちは使い捨ての道具じゃない、人間だ」


「心や理想で腹は膨れないわ。利益を出せない組織は死ぬ。それがこの理不尽な世界のルールよ」


私たちは互いのイデオロギーを軽蔑し、決して交わることはないと思っていた。


しかし、現実は私たちが争うことすら許さないほど非情だった。


その年の冬は異常なほど寒く、飢えに苦しむ孤児たちに対する大人たちの暴力的な搾取も激しさを増していた。


ある日、少年の組織がストライキまがいの賃上げ交渉を元締めに持ちかけた結果、激怒した大人たちから凄惨な暴力と報復を受けたのだ。


「頼む……助けてくれ……! 僕たちの隠れ家が襲われた……!」


血だらけになり、足を引きずりながら、少年が私の組織の拠点に逃げ込んできた。


私の計算では、彼らを見捨てるのが最も「合理的」だった。


彼らに関われば、こちらの蓄えも底をつき、大人たちからの標的にもなる。


しかし、私の脳裏に、かつて命を懸けて私を庇い、血の海の中で微笑んで死んでいった両親の姿がフラッシュバックした。


(……合理的じゃない。でも、ここで彼らを見殺しにすれば、私は前世の『冷徹なだけの投資家』に逆戻りする。両親が愛してくれた『私』を、完全に失うことになる……!)


「全員、手持ちのナイフとこん棒を持ちなさい! 迎撃戦よ!」


私は前世の戦略的思考を駆使し、地の利を活かしたトラップと孤児たちの機動力を活かしたゲリラ戦術で、襲撃してきた大人たちを暗闇の路地裏で見事に撃退した。


大人たちの暴力的な搾取や、厳しい冬の寒さといった共通の命の危機を乗り越える過程で、私たちはついに互いの強みを認め合うようになった。


「君の指揮がなければ、僕たちは全滅していた。……ありがとう」


傷の手当てを受けながら、少年はバツが悪そうに、しかし真摯に頭を下げた。


「……あなたの求心力と仲間への優しさがなければ、誰も死地に飛び込んでまで戦おうとはしなかったわ。悪くない組織ね」


私もまた、自分には欠けている彼の「人間としての強さ」を素直に認めた。


私の持つ圧倒的な経済的戦略と、彼の持つ高い求心力と組織運営能力が融合した瞬間だった。


私たちの集団は、単なるストリートの孤児の群れから、相互の弱点を補い合う統率の取れた強力な「ビジネス・シンジケート」へと進化を遂げることになったのである。


このシンジケートの設立こそが、奪われた全てを取り戻し、腐りきった社会システムそのものを破壊するための、資本の原始的蓄積の始まりだった。






長くなってしまうので、いつくか説明を省いた部分があります。

ご質問や、道理に合わないのではないかと感じたところがあれば、ご質問ください。

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