第一章②
『えへへ、お母さんの腕が良かったからだよ!』
私は子供らしく満面の笑みを浮かべながら、内面では冷徹に次の事業拡大のロードマップを引いていた。
(次はターゲット層を広げ、カタログ通販の仕組みを構築する。資金がショートしないよう、利益の六割は再投資に回し……)
☆
それから三年。
私の現代的なマーケティング戦略と、両親の献身的な働きにより、私たちの事業は急速に拡大した。「メアリーの店」というブランド名は、手の届く贅沢を求める平民や中産階級の間で大流行し、私たちはついに貧民街を抜け出した。
七歳の冬。
私たちは石造りの、煙突と暖炉のある立派な二階建ての家に引っ越していた。
『さあ、クロエ、アーサー! 今日は奮発して牛肉のシチューよ! 冷めないうちに食べましょう!』
真っ白なエプロンを着た母が、湯気を立てる鍋をテーブルに置く。
隙間風に凍えていたかつての小屋とは違う、薪がパチパチと爆ぜる暖かなリビング。
食卓には、焼きたての白パンと、肉がゴロゴロと入ったシチュー。
『美味しい……! お母さんのシチュー、世界一だよ!』
『ははは、いっぱい食べなさいクロエ。お前が大きくなるための栄養だからな』
父はすっかり商人としての風格を身につけ、質の良いウールの服を着ていた。
食後の紅茶を飲みながら、父がふと真面目な顔をして口を開いた。
『なあ、メアリー、クロエ。事業も安定してきたし、今年の夏は、少し商売を休んで……家族みんなで、南の海の方へ旅行に行かないか? クロエにも、広い世界を見せてやりたいんだ』
『まあ……旅行だなんて! 夢みたい……!』
『行く! 私、お父さんとお母さんと一緒に、綺麗な海が見たい!』
前世では、家族で食卓を囲むことすら皆無だった。
ましてや家族旅行など、テレビの中の作り話だと思っていた。
それが今、私の目の前にある。
私は間違いなく、二つの人生を合わせて最高の幸福の絶頂にいた。
『そうだ、メアリー。……実はずっと、お前に渡したかったものがあるんだ。俺とクロエを信じて、ここまで一緒に頑張ってくれたお礼だ』
父は照れくさそうに、内ポケットから小さなベルベットの箱を取り出した。
箱を開けると、そこには銀の精緻な透かし彫りと、美しい青いエナメルが施された「コンパクトミラー」が鎮座していた。
『あなた、これ……! 貴族の奥様方が持つような、とても高価な品じゃありませんか……! 私なんかが、こんな……』
『いいんだ。今の君は、どの貴族の夫人よりも美しく、立派な商会の女将なんだから』
母は両手で顔を覆い、ポロポロと嬉し涙をこぼした。
その鏡は、平民が持つには分不相応なほどの贅沢品であり、私たちが貧困を完全に脱却し、富と地位を築き上げたことの象徴だった。
『ねえ、お母さん! 私にちょっと貸して!』
私は遊び心から、書斎にあった細い彫刻刀を持ち出し、母の宝物となったその高価な鏡の裏側の目立たない隅に、カリカリと小さな傷をつけた。
『あらあら、クロエ? 何をしているの?』
『えへへ。これ、「C」って字だよ! 私のイニシャル! これで、この鏡はずっと私たち家族のものだよ!』
『ふふっ、そうね。クロエの魔法の印ね』
暖炉の火に照らされた両親の優しい笑顔。銀の鏡の冷たい感触。
私はこの幸せが、永遠に続くものだと信じて疑わなかった。
だが、私は前世の冷徹さを忘れ、あまりにも浮かれていたのだ。
情報伝達が未発達なこの時代において、後ろ盾のない平民が急速に富を蓄積することが、どれほど「既得権益層」の憎悪を煽る危険な行為であるかということを。
私たちの急速な経済的成功は、この地域の利権を独占する貴族たちの冷酷な瞳に、すでに明確な「排除すべき標的」として映っていたのである。
☆




