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剣と魔法の王国戦争 仮  作者: マイノス
3/5

初めての戦争とギルド設立

<< バー バッカス >>


<バー バッカス>の最初の客は、若い地方銀行員だった。

カウンターに座ったその男は、ひと仕事終えて、開店準備をしていたこの店を見つけ、何か軽食ありますかと話しかけてきたので、開店前だったがオーナーが受け入れて、サンドイッチとコーヒーを出していた。

話を聞くと、銀行員といっても、彼は一般的な融資を担当する業務の男ではなかった。

小金持ちの人にアパートを建設させ、そこに融資をする業務だった。

よくよく調べると、アパートを建設する業者は、その銀行の重役と資本関係を持っていたので、二重に銀行は利益を得る仕組みだった。

もちろん、若い銀行員はまだそういう社会の仕組みは知らない。

彼は銀行員をなれたことを誇りに思っていたが、その競争の激しさに、とても疲れているようだった。

「へぇ、今日オープンするんですね。てことは、俺が最初の客ですか?」

男はびっくりしたように、オーナーに話しかけた。

「そうなの。開店して、最初のお客さんが来るまで待つ時間が怖かったから、あなたを店に入れちゃった。バーだから、本来は17時に店を開ける予定だったの」

男はサンドイッチを一気に食べ終えて、

「そうなんだ。ありがとうございます。最初の客はうれしいな」

男はアイスコーヒーを飲む。

「でも俺、この地域を担当エリアにしているんだけど、会社は隣町にあるし、家もそこにあるんで、時間的にあんまり来れないです。車移動で、勤務時間中にこの街にいるんで、アルコールも飲めないし。昼時なら飯食いに寄れるけど」

若い男は、若いなりに人付き合いは出来て、誠実さもあるようだった。

「このお店、あなたのお客さんに紹介してくれたら、嬉しいな」

オーナーは、人生経験が多いのだろう。

小さな縁を逃したりはしなかった。

「ええ、いいですよ。私もたまに来ます。土日でしたら、月に一度くらいは寄ること出来ます。休日しか会えないお客さんもいるんで。その時は車も使わないし」

若い男は少し考えてから答えた。


その時、カズが店に出勤してきた。

年配の男を連れて来ていた。

その初老の男は、オーナーとは知り合いのようで、あら?とオーナーは驚いたが、すぐに二人に話しかけた。

「初めてのお客様なの。開店準備中だったけど、たまたま準備中に話しかけて来てくれたから、開店させちゃった」

オーナーは、綺麗に包装されたボトルを持ってきた初老の男性を、若い男とは一つ離れたカウンターの席に座らせて、カズにボトルを棚に並べるように指示した。

初老の男は、若い男にどうもと少し緊張した面持ちで挨拶した。

若い男は何かを察したのか、

「ごちそうさまでした、無理に食事取らせてもらってすみませんでした」

と、オーナーと初老の男性に聞こえるように挨拶して、お金を置いて店を出ようとしたので、オーナーが慌てて話を変えるように、扉の隣に賭けているタペストリーを指さして、

「ね、それ知ってる?」

と声をかけた。

「剣と魔法の王国戦争?漫画ですか?」

若い男は、ぽかんとした顔で、オーナーと初老の男性を見返した。

「検索してみて、妹の勤める会社で取引しているスマホゲームなの。広告出さないから、あまり知名度ないね」

と笑って、また来てねと笑顔を見せた。


カズはオーナーに、おはようございますと挨拶した後に、

「マチムラさんと、たまたま駅で会いましたので、一緒に来ました。オープンしていたのでちょっとびっくりしました」

と話したので、オーナーは理由をもう一度話した。

マチムラは柔和な笑顔を作り、

「幸先いいね。私は邪魔になってはいけないので、今日はこれで帰ります」

と言ったので、オーナーもカズもびっくりして、そんなことを言わないでと引き止めたが、

「繁盛しないと私も困るから」

と言って、店を出てしまった。

店内は急に寂しくなり、オーナーは参ったなぁと呟いて、愚痴をこぼした。

「マチムラさんは、そういうところがあるのよ。引きが悪いみたいな」

カズは聞こえているのだけれど、聞こえない振りをして、

「スマホのそのゲーム、俺は課金しちゃいました」

といったので、オーナーはぎょっとして、いくら?と聞き、

「バイト代、全部課金しちゃうの?」

と心配そうに続けた。

「微課金です。ゼロと微課金だと、結局、全然強さ違うから」

オーナーは呆れた顔をして、

「格闘技やってるのに、それでもゲームの中で強くなりたいの?」

と手のひらを上に向けて、オーマイゴットと首を振った。

カズは笑って、

「ジムの人は、みんな強いし、私は雑魚です」

と自分の顔をパンチする振りをした。

「雑魚でもいいよ。私の騎士になってくれるなら」

と、パンチをさらに浴びせたのだが、その時、扉が開いたので、二人は反射的に

「いらっしゃいませ」

と声を揃えた。

入ってきたのは、小柄で腹の出た、中年の男だった。

しばらくして、右足の不自由な、頭のぼさっとした中年男性も来店した。

店にはその後、ぽつぽつと人が入り、その日はミワさんとサトミは来なかったが、初日にしては忙しく、オーナーとカズは良く働いた。



<< 主人公 マイノス >>


人は誰でも英雄になりたい。

しかし、誰もが英雄になれるわけではない。

誰の親の元で生まれ、どういう教育を受け、どれだけの資金のバックアップがあるか、これは現実問題として、欠かせない要素だ。

貧弱な体格を受け継ぎ、親の支援も少なく、勉学も好きになれなかった私。

私には、英雄になれる要素は、一つしかなかった。

それは、鏡を見ない性質だった。

そして、夢を膨らませて、能力を超えた挑戦を繰り返した私が得た結果は、度重なる敗北と失敗の繰り返しだった。

現実世界では、私は英雄どころか、人並みの暮らしすらも手に入らないと、諦めた。

そして、最後にたどり着いた先が、バーチャルな世界、いわゆるゲームの世界だった。


しかし、子供の頃と違い、大人になった私は、誰かの作った物語の中で勇者になることには飽きてきていた。

誰かの作ったストーリーを追いかけるために、何時間もレベル上げの作業をしたくはなかった。

いわゆる家庭用ゲームに飽きていた私にとって、ネットゲームは魅力的だった。

そこには確かに多くの人がいて、もう一つの現実があった。

最近では、AIを使った人工的なプレイヤーを稼働させて、ゲーム内の活性化や調整を図る仕組みも仕組まれてはいたが、収益化の関係上、全てAIプレイヤーで構成することはありえず、多くのプレイヤーがそこには現実的に存在した。

そこは、一つの社会だった。

私はここでなら、英雄になることが出来るかも知れない。

幸いに、私は仕事が絶望的に忙しいものではなく、家庭もないことから、人並み以上にゲームをするくらいの時間はあったからだ。

自由な時間は、強さだからだ。

より多くの時間を使った人が強くなる。

それはゲームの原理原則の一つだからだ。


そして、その原理原則は、半分だけ正しかった。

確かに、ある程度は、費やす時間によって強くなった。

しかしある程度強くなると、そのプレイヤーは、重課金者のカモになった。

重課金者に潰されるために、無課金者が存在するようなゲームが増えた。

私はだから、ゲーム評価の無課金者にも優しいゲームを探し、「剣と魔法の王国戦争」を見つけて、プレイした。


オープニングデモの後、ゲームは小さな川の畔で始まった。

近くに集落があり、酒場を訪ねた。

将校ガチャを回して、最初に獲得した将校は、ラドという人物で、他にパルマー、クルーズ、マールという3人の将校を獲得した。

ラド(武力6、知力6、運5)という人物には、建設適正があったので、大工に任命した。

そして、最初は自分の家を建築した。

パルマー(武力6、知力7、運3)は知力が高かったので、酒場の店主に任命し、クルーズ(武力6、知力5、運6)は武力が高かったので、部隊長にした。

マール(武力3、知力3、運9)は、運の数値が高かったが、年齢が13歳と若く、他の能力が低かったので、使い方に困り、しばらく放置した。

放置すると、その人物は自分で学び、能力値を上げる。

私は初期設定で、自分を武力1、知力1、魔力7、運1と設定したが、開始してみたら、武力6、知力7、魔力13、運3だった。

魔力は、プレイヤーキャラクターにしか備わらない能力のようだった。

また初期に設定した数値は、加算されるのかも知れない。

初期の数値を引くと、私の平均値は5に足りず、一般的に考えて、能力は平等ではないと思われた。

これはリセットマラソンが有効で、もっと強いプレイヤーを獲得出来るかも知れない、そう思わせた。

ただ、持ち物を見たとき、A級武器の「魔力を帯びた鋼の剣」があったことから、私はゲームを続けることにした。

自分は魔力重視で、その剣を扱うには向いていないと気づいていたら、その場でやり直していたが、それも運命なのだろう。

自分の家の次に、ラドに公共施設を自分の家の隣に作らせたら、私は村長になり、その集落が自分の領土になった。

このことは、私を少なからず興奮させた。

私は課金をするつもりはなかったが、しても良いかなと思わせるゲーム展開だった。


ラドの持つ建設適正は、大工として使い始めてわかったことだが、希少で優れた能力だった。

建設速度が速いか遅いかを比較する対象はまだなかったが、頻繁にその人物からやる気あるメッセージが発せられたり、他の人物に適正が一切なかったことからも、それは理解できた。

最大人口の増やせる「住宅地」や、人口増加率を高める「宿屋」、人物の登用や情報の獲得が出来る「酒場」は、村に初めから存在したが、この村には他には何もなかった。

自宅、公共施設を建設した後は、農場や牧場、病院や市場を作った。

このゲームでは、建設場所はほぼ無限にあり、自由に村を作ることが出来たが、自宅から離れた場所は、その効果が弱まった。

そのため、同じ施設を複数作るよりは、まずは各施設を一つずつ作ることが最善とされた。

施設の建設にはその建物を作る技術が必要とされた。

酒場は増築して、レベル2にした。

人口が少しずつ増えてきて、酒場には新たな人物がやってきていた。

ラバル(武力5、知力5、運3)という人物で、この人物も建設適正があったので、私はこのプレイヤーを二人目の大工として登用した。

人口が100人ほどの村が、300人を超えた辺りから、村に盗賊が発生するようになった。

これは村の施設の機能を停止させるだけでなく、一定期間放置してしまうと、破壊して、施設のレベルを下げた。

この手のゲームで、建造物のレベルが下るゲームは珍しく、私はこれも嫌いではないなと思った。

盗賊は、軍団を1部隊、村に駐屯させると発生しないということがわかり、私は兵舎を建設した。

軍団は、自分が所属する1軍団があったが、それはクルーズを軍団長に任命して、採集に出していたので、実質的にはいなかった。

兵舎を作ったことで、さらに1部隊保有することが出来るようになり、私はそれを自分の軍団として、村の防衛に使用した。


このゲームは探索的な楽しみがあることは、事前調査で知っていたが、それは思った以上に面白いシステムだった。

採集でクルーズを稼働させていたが、1ヘックスずつ新しい地形が発見されて、初めてアキレスという他のプレイヤーに接したときは、とても感動した。

王国チャットの参加者にアキレスが表示され、その発言が見れるようになったのだ。

ただ、それはまだ私の会ったことのないプレイヤーとの会話の一部だったので、理解出来なかったものの、それはそれで、また趣があった。

そしてアキレスとの遭遇は、交易や技術交流を可能にして、今までは比較にならないペースで、技術経験値が蓄積され、収益も増えた。

もちろん、レベルアップに必要とされる数値も増えるので、チートレベルで強くなることはなかったが、オンラインゲームは他のプレイヤーとの交流なしに成長することは出来ない仕組みが一般的なので、その最初のハードルは乗り越えたと、私は確信した。


次第に村は発展し、役所、学校も建設した。

採集では、木材だけでなく、石も運ぶようになり、3つ目の部隊も作れるようになった。

私はそれをマールに任せることにした。

マールは放置している間に、馬術特性を獲得したからだ。

私は、魔力の帯びた鋼の剣を、マールに装備させ、交易で手に入れた馬を、その軍団に配備した。

それは戦闘するまでわからなかったが、極めて強い部隊になった。



<< バー バッカス >>


店は一週間ほど営業して、順調に客は入っていた。

最初の週は、初日営業して、定休日の火曜日と水曜日に、足りない対応を行う予定でいたが、初日は特に問題なく終え、木曜日からの営業も、新規の客が入り続けた。

リピートする客も何名かいた。

その中のひとりが、新装開店で飾っていた花について話しかけてきたので、オーナーは答えた。

「以前に務めていたお店からなんですよ。飲食店にいました」

ミワさんはお客様に呼ばれて注文を聞いていて、バックヤードではカズが調理をしているのだろう、カウンターにはオーナーしかいなかった。

聞いてきた男は、スーツ姿の中年の男だったが、そのガタイの良さは隠せなかった。

「いやね。飲み屋だから、たちの悪い人もくるかなと思いまして」

とニヤけて言い始めたので、オーナーの顔に緊張が走ったのが見て取れた。

「ここは警備会社と契約しているんです」

オーナーは店の天井中央にある防犯カメラを指さした。

「それはダミーですよね。警備会社が付ける場所は、そこじゃない」

と男は、さらにニヤリと笑った。

「さぁ?全部お任せしたので、私はわかりません」

とうつむき、

「今はみかじめ料払うと、私たちも罰せられますから」

と続けて答えた。

男はそれ以上は話を続けずに、静かにジャックダニエルを飲んで帰ったが、翌日もその男は来た。

その男が連日来たのは、その日が初めてだった。


その日、オーナーは、ミワさんにバックヤードで主に調理をさせ、カズに接客を担当するように指示をした。

昨日の男は、カウンターで静かに飲んでいたが、この日はいつも以上に客が増えて、高価な酒や料理の注文が多かった。

入り口付近の立席まで客が増えた頃、二人組の男が入ってきた。

「お客様、申し訳ありません。今日は満席で、そちらの立席しか、今は空いていないのですが」

と、オーナーがカウンターから出て入り口に行き謝罪したら、二人組は昨日の男の席まで入って行って、男とその隣りにいた女性をはじき飛ばして、席に座ってしまった。

店内は一瞬にして静まり返ったが、弾き飛ばされた女性が大声を上げて、二人組に食って掛かり、店内は強い緊張に包まれた。

昨日の男は、オーナーに近づき、

「警察呼びますか?」

と少し大きな声を出して聞いた。

その時です。

別の客が、大声で言った。

「おいおい、ここは安心して飲めねえなぁ。何だよ、警察くるまで、この恐ろしい二人と一緒にいなきゃいけねえのかよ」

その声に応えるように、別の若い客が、静かだがよく通る声で言った。

「避難指示を出すべきですね。実際の災害時には、避難指示が出てから逃げては遅いようですけど」

と言うと、また別の客が言った。

「会計するにも、この人数だとすぐには終わらないだろう。その間、ずっとここにいなきゃいけないのかな」

というやいなや、怖いだの、助けてだの声が店内に響き始めた。

カズは、オーナーのところに行き、耳元で言った。

「客の多くはグルです。今日の客は変でした。警備会社が入り口ですでに待機しています。呼びます」

といって、ナースコールのようなボタンを押した。

2分ほどして、入り口の方から何か声が聞こえ、扉が開いた。

店の外には、屈強な男がいたようで、扉を開けて入ってきた二人の警備会社の人を止めようとしていたが、売上金の回収に来ましたという言い分は、止めきれないようだった。

「あれ、どうされましたか?」

と店内に入った警備会社の二人は、完全武装で警棒を構え、一人は電話で誰かとやり取りしているような素振りを見せたので、店内は静かになった。

オーナーは毅然とした態度で、昨日の男に近づき言った。

「警察も来るようです。連絡してあるみたいです」

男は驚きを隠せない顔をしていたが、

「そうですか」

と言ったあとは、静かにしていた。


結局、30分後、警察が来た時には、昨日の男も、隣で突き飛ばされた女も、被害届は出さなかった。

その日の会計は、オーナーは、昨日の男と突き飛ばされた女からは貰わずに、他の客からはきちんと頂いた。

二人は別々に帰ったが、その際、カズは昨日の男の前に行き、目を合わせていった。「もう来ないでもらえますか?」

「どうして?」

昨日の男は、冷静さを取り戻し、反撃の機会を待っているのが見て取れた。

カズは、目をそらさずに言った。

「お代を頂いていません。ご縁がなかったんです」

昨日の男は、財布に手をかけ、

「そうかな?払わないのは気が進まなかったんだ」

と言ったので、カズはその手を掴んだ。

昨日の男は力比べをするように手を緊張させたが、カズはその力を上手にいなして、笑顔で言った。

「お代は結構です。もう来ないでください」

昨日の男は、黙ってカズをにらみ続けたが、根負けしたように掴まれた手を振りほどいて、負け惜しみのように、ごちそうさまと言って、帰っていった。

それからしばらくは、店はこの種のトラブルには合わなかった。



<< 主人公 マイノス >>


このゲームは戦争ゲームの一種なので、他のプレイヤーとの戦争は避けることは出来ない。

ゲーム開始から数日して、私は他のプレイヤーに攻撃された。


この手のゲームは、大手のゲーム会社が、競合する他社の新作ゲームを潰すために、アルバイトを雇って、調査名目で、初心者刈りをして他社の新作ゲームを潰す行為がよくあった。

それを隠蔽化するために、彼らは、運営側がユーザーに課金を促すために、戦争を起こしている、この戦争は運営側の収益化には必要な行為だと発言することが多い。

現実には、この初心者刈りによって、ユーザーは☆1の評価を下して、ゲームの評価を下げ、ゲームはユーザーを減らしている。


このゲームにも、それらしき破壊プレイヤーがいた。

私を攻撃してきたプレイヤーは、ブレイクナイトというプレイヤーで、初期回避(このゲームは、ゲーム開始から24時間は自分の集落が透けるような形になり、誰からも攻撃を受けない)が切れ、初心者が内政に目覚めた頃を狙って、襲撃を繰り返していた。

私も軍団を強化する前に、そのプレイヤーに襲われた。

私は戦争を避け、貢物を差し出して、その危機を回避したが、戦争を選択して敗北すると、その集落は襲撃者の支配下に入り、最大99%の収益を上納させられる。


私が初めて接触したプレイヤーのアキレスは、ブレイクナイトと戦争し、そして負けた。

アキレスの村は、周囲のプレイヤーより発展していたが、施設は破壊され、そのいくつかは、私たちと同レベルまで下落した。

私はアキレスに「大丈夫?」とメッセージを送ってみたが、アキレスから来た返信は、戦いのスタンプだった。


ブレイクナイトが他社の破壊プレイヤーかもと疑ったのは、彼は私に対して(恐らくアキレスや他のユーザーに対しても)、とても憎々しいメッセージを送ってきたからだった。

「また来るからな。資源、俺のために集めておけよ」

と言うメッセージをくれたので、私はすぐにチャットをブロックした。


ブレイクナイトの軍団は、圧倒的な強さだった。

他のプレイヤーとの戦争は、戦争勃発して、その場所をタップすれば見ることが出来た。

彼の部隊は、複数の将校を所属させて、戦術を使用していたのだ。


私の村の軍団は、最大3つまで作ること出来て、クルーズ、マール、そして私マイノスの3部隊があったが、その各部隊には、最大3名の将校を入れることも出来た。

私は他に、ラド、パルマー、ラバルという将校を保有していたが、これを部隊に入れる気にはならなかった。

将校の中には、戦術適正を持つ者がいて、それは同じ部隊の攻防力を強化するとか、攻撃回数を増やすとか、奇襲攻撃が出来るとか、敵の攻撃を1ターン無効化するとか、色々あるが、ラド、パルマー、ラバルには、それらの適性がなかったので、部隊に入れても意味があるとは思えなかった。

クルーズには攻撃力増加、マールには先制攻撃と、魔力を帯びた鋼の剣の効果で3ターン攻撃回避、私には魔法3ターン無効化スキルがあり、実は組み合わせて一つの部隊に入れると、3ターンの間、打撃を受けること無くクルーズの攻撃力増加スキルを蓄積して、4ターン目に先制攻撃を加えるという戦術が発生したが、1つの部隊で戦うことになるので、部隊の最大兵士数の上限の関係上、その戦いは効率的ではなかった。

戦闘では、部隊の側面攻撃や一斉攻撃という戦闘効果の影響も大きく、部隊数を減らして戦うのは不利になるのだった。


しかしブレイクナイトは、戦術適正を持つ将校が多かったようだ。

彼は私と同数の将校、同数の部隊数を保有していたが、各部隊とも2名ずつ将校が配備されていた。

戦術内容までは見れなかったが、たぶん上手に組み合わせているはずだ。


一方のアキレスは、練兵場を保有していたので、兵士レベルが2になっていたが、部隊数には将校を複数入れてはいなかった。

また部隊の兵士数はブレイクナイトの1.5倍あったが、部隊数は同数の3だった。


ブレイクナイトとアキレスの戦争は、私も偶然見ていた。

王国チャットで両者が喧嘩していて、その直後に、ブレイクナイトが宣戦布告をしたからだ。


ブレイクナイトは部隊を送り出し、部隊がアキレスの村に入る前に、アキレスは迎撃部隊を繰り出した。

両者は、アキレスの村の近くで衝突して、アキレスは地形を活かして、丘の上に部隊を配置した。

一方のブレイクナイトは、それぞれの丘に陣取ったアキレスの部隊に、3部隊の戦力集中策で対抗して、各個撃破を目指した。

戦術の発動や、一斉攻撃と側面や後方からの攻撃は、兵士レベルや地形の有利さを上回った。

アキレスは1部隊が壊滅したところで、残りの2部隊を連携させて戦う方針転換をせずに、部隊を退却させた。

すると、1部隊が追撃を受けたというメッセージが流れ、壊滅したようだった。

その後、ブレイクナイトの部隊は、アキレスの村に突入して、村の施設の一部を破壊して撤収した。


私は、これはゲームを続けるかどうかの瀬戸際に、いきなり来ていると感じた。

自分の村の軍事力強化を始めたのはもちろんだが、それだけではブレイクナイトには勝てないだろうと思った。

仲間を集める必要がある。

ギルドを設立するか。

そう思い、私はギルド設立の決断をした。



<< バー バッカス >>


店は、トラブルの後も、客足は落ちずに営業が続けられた。

オーナーが、マチムラさんにその話をした時は、必ず通る道だからと、気にしないようにアドバイスを受けた。

「それにしても、警備会社が来るの早かったですね」

ミワさんは、オーナーに言った。

「不思議よね。どう思う?」

閉店した店内で、オーナーはカズに聞いた。

「あの時、電話が来たんです。店の状況を確認する電話が。それで、トラブルが起きていることを伝えたら、店の近くですでに待機しているので、必要な時は突入させますので、コールボタンを押すように言われたんです。だから、こちらが言う前に、トラブルが起きる前に、警備会社は知っていました」

ミワさんが、ハッとしたように言った。

「警備会社もグルですか?」

カズは、違うと思うと言った後に、こう続けた。

「店の外にも、見張りがいた。それを押しのけて入った警備会社の人は、グルにはみえなかった」

オーナーは、カズから聞いた話で、大方理解したようだった。

うなずきながら、これねと天井のカメラを指差した。

防犯カメラだった。

「これ、凄いらしい。バックヤードの画面の画像は、それほど鮮明ではないけど、警備会社の方には、スマホの画面まで見えるくらいの画像が飛んでいるって言ってた。超高画質のカメラなので、壊されないようにって注意されたの。そして、AIで、不審な客や店内の異常を自動検知して、事前に警備員を派遣させているみたい」

ミワさんとカズは、天井の防犯カメラを見つめた。

「それに幾ら払っているんですか?」

ミワさんは何気に聞くと、

「実は結構するのよ。たぶん彼らが要求する金額の1.5倍くらい」

とオーナーは答えた。

カズは、みかじめ料、相場と検索して、それをもとに、月15000円とはじき出した。

「初期費用入れると、1年目はそれくらいしてる。でもね、スポンサーがいるから」

オーナーは、ミワさんとカズにウインクして答えた。

カズは理解した。

「マチムラさんですね。まさにオーナーのナイトですね」

カズが少し寂しそうにしたので、オーナーは、指をくるくる回して、ところでと言った。

「それ、続けてる?同じギルドに入らない?」

オーナーが扉の横に掛けてあるタペストリーを指差した。

実はと、ミワさんは言った。

「私、ギルド作っちゃったんです。メンバーはもう満員です」

オーナーとカズは、何てギルド?とゲームを立ち上げた。

ギルド名は、ミワンチという名前だった。

「実は俺もギルド作りたいと思ってたんです。オーナー、俺のギルドに来てもらえますか?ミワさん、俺のギルドと派閥を組んでください。別ギルドでも、仲間の扱いになります。同盟関係になります」

カズが、オーナーとミワさんに真剣にお願いした。

ミワさんはいいですよと答えたが、オーナーは、やだと答えた。

「私もギルド作る。みんなで派閥組んで、仲間としてギルド運営を競い合う」

オーナーが言うと、ミワさんは賛成、面白そうと言った。

カズはわかりました、頑張りますと言って、闘志を燃やした。

<バー バッカス>の夜は、そうして終わり、翌日の日付に切り替わった。



<< 主人公 マイノス >>


「ギルド」

「設立」

「500ゴールド使用します。よろしいですか?」

「はい」


深夜、私は、時折、車の走り去る音の聞こえる部屋の中にいた。

そして明日もまた、わずかばかりの収入を得るための仕事が待っている。

そんな暮らしの中にいた。

「あと6時間もしたら、また自分を喪失する。ゲームの中でくらい、英雄になるか?」

私はゲームでは課金をしないことにしていたが、500円の課金をして、ギルドを設立し、そのリーダーになった。

このゲームは一般的な戦略ゲームで、各プレイヤーが領土や軍団を育成し、ギルドを組んで、拠点や都市を奪い、王国支配を目指すものだ。

比較的、課金相場や安いことは、ネット情報から得ていた。

私は独り者なので、金持ちではなかったが、多少のお金はあったので、私は課金してこのゲームで遊ぶことにした。

「何も楽しみもない日常に、そんな遊びがあっても良いだろう?もう私は25年以上も、社会の奴隷として、生かされてきたのだから。」

私は誰もいない部屋で、独り言をまた言ってしまっていた。



<< マール 13歳 >>


マイノスさんがギルドを設立したのは、マイノスさんが来てから、3ヶ月後のことだった。

マイノスさんは服飾屋に大きな旗を50本も発注していたことを聞き、理由を聞いたら、ギルドを設立するためだということだった。

マイノスさんは、ラドさんにギルド拠点の建設も依頼していた。

それは始めは小さな小屋でしたが、そこには武器や農具が置かれ、誰でも使えるという話でした。

共有という考え方だそうで、みんなで効率的に仕事をしたいということでした。

そして、マイノスさんは、近隣の村々にこのことを伝える手紙を書いて(それは最近広まり始めた、製紙法に作られたもので、麻のボロ布を水で溶かして乾かしたものです)、その配布を私に依頼しました。

私は初めての仕事だったので、夢中になって村々を駆け巡りました。

そして、私は一週間ほどして、小都市の「青の港」に着きました。


私は初めて町を見ました。

そこには村よりずっと多くの人がいて、びっくりするくらいたくさんの建物や大きな建物がありました。

私は役所と酒場の掲示板に、マイノスさんの手紙を掲示してもらうことにしました。

その反響は、すぐに現れ、特に酒場では

「お姉ちゃんが1杯付き合ってくれるなら、ギルドに入る」

という人が十数人もいた。

私は普段は見くびられないように、男装しているのですが、すぐに女だと見抜いた彼らに驚きました。

またマイノスさんがこうなることを予期していたのかも、私は知りたくもなりました。

ちなみに、私はお酒は飲めません。

子供だからではなく、身体に合わないみたいなのです。

お父さんもアルコールに強くないので、ほとんど飲まず、逆にお父さんは、だからみんなに信頼してもらえると言っています。

そして、翌日から、私は役所と酒場でギルド加入者を待ちましたが、前日の酒場の反響とは違い、人は全く来ませんでした。

ギルドを組むというのは、戦場で命を共にするということです。

私の姿を見て、心細くなってしまったのかも知れません。

そんな考えも浮かんでは消えましたが、3日目を過ぎた頃から、ギルドの問い合わせは増えて、加盟者もぽつぽつと出てきました。

問い合わせで多かったのが、鉄製農具が使用できるという部分でした。

お父さんの仕事の多くが、隕鉄の切り出しと輸送に切り替わっていたので、私たちの村には多くの鉄があったことから、鉄製の武器や農具が多くあり、それを更に作り出すために施設を新設していたので、ギルド拠点には、多くの共有の鉄製の武器や農具が納入されていたのです。


1週間を過ぎた頃には、個別に手紙を渡した分の村から10名加盟があったとの連絡があり、町で受け付けた40名を加えて、50名の加盟が達成できたので、私は村に帰ることにしました。

町での滞在はとても面白かった。

私は競技場にエントリーして、馬術の部で、何と優勝しました。

子供の頃から馬と暮らしていたので、負ける気はしませんでした。

闘技場の方は、マイノスさんから、まだ大きな怪我をする危険があるので、参加するのは禁じられていましたが、観戦はしました。

私にも勝てそうな人はいましたが、勝てなさそうな強い人もいましたので、参戦しなかったのは、正解だったと思います。

命は一つしかないことは、私も知っていますので。

そして私は、マイノスさんからもらった滞在費以上のお金を、競技場の賞金で稼いでいました。

私はこれを、命を守るために使いたいと思い、防具を買うことにしました。

鉄製の防具は、この町で買える防具で、最も高価なもので、複数の警備員に守られて展示されていましたが、残念ながら私の所持金では買えませんでした。

そして、その加工は私たちの村では出来ませんでした。

私は賞金を使って加工方法を知ることが出来ないかと考えましたが、店主はその防具については、入手先さえも教えてくれなかった。

私は代わりに、皮の防具一式を購入しました。

青銅の防具も何とか一式買えるだけの所持金はありましたが、まだ成長期なので、皮製のものにしました。

それでも、何もないよりは遥かに安全が保障されました。


私が村に帰ると、村の近くに建てたギルド拠点には、何人もの領主がすでに来ていました。

マイノスさんは集会場で、武具や農具の貸し出しの規則を説明していました。

ギルドの役員や、資金の寄付についても、その後に説明しました。


集まった人の中に、町で印象に残った一人の加盟者を見つけました。

その人は、とても女性らしい、素敵な装飾の付いた皮の防具を身に着け、明るくて優しい目をした女性でした。

私はこの人には勝てないと、唐突な気持ちに襲われましたが、その人はそういう私をも包みこむ優しい目で、私の説明を聞いてくれたので、印象に残っていました。

マイノスさんはその人を見て、どう思うのだろう?ふとそんなことを考えたときに、今まで感じたことのない気持ちが沸き上がったけれど、それを上回る不快な気持ちが発生したことで、それまでの気持ちを忘れました。


ロドリゲスが来ていました。

その男は、多くの人がギルドの無償の貸出備品について聞いてきた中で、その男だけは、参加者について聞いてきていたので覚えていました。

そして、

「何だよ、使えねえ奴しかが来てねえなぁ」

と、嘲笑ったので、忘れることは出来ませんでした。

ところが、数日後に、パクという人が参加したのを見て、私に参加を申し込んだのでした。

私が締め切りですと言う前に、申込用紙をひったくって記入したのです。


今日は来ていないようですが、パクのことも覚えています。

パクは青銅の鎧に身を包んだ、いかにも強そうな騎士だったからです。歳はマイノスさんと同じくらいの中年男性でしたが、マイノスさんよりずっと体格が良く、強そうな人だったからです。


私はその日の夕方、マイノスさんが仕事を終えた後に、加盟者の印象を聞きました。

マイノスさんは考えた後に

「パクは、私たちよりずっと強い」

と言いました。

パクの兵士が、みんな青銅の防具を身に着けていたからです。

私たちの村には、型を鋳造する技術がまだありませんでした。

「彼の町はきっと持っている。商人から既製品を買っている可能性もあるが、だとしたら大金持ちだ」

とマイノスさんは言いました。


私は翌日に、パクに直接に聞きました。

マイノスさんは変に奥手のところがありましたので。

パクは言いました。

「青銅を自分の村で作れたら良いけれど、そうではない。自分はただの金持ちだ」

と。

私はその日、気になった女性リーダーの印象をマイノスさんに聞くことはしませんでした。

聞きたいと思ったのに、何かが、私の声を押し留めました。

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