年下のオトコノコ
幽霊というものは、何かやり残した事、やりきれない思いがあって成仏できずに幽霊になるという話をよく聞く。つまり、そのやり残した事を突き止め、それを叶えてあげれば成仏するのではないだろうかと思う。
そうと分かれば、無理やり塩を撒いたり念仏を唱えたりして追い払う必要はない。慈がなぜ幽霊でいるのかは全く見当もつかないが、それは旅をしながら探っていこうと思う。まだ時間はある、気長に行こう。せっかく名前もつけたのだ。すぐお別れじゃ、なんだかおかしいような気もするが少し寂しい。こうして、二人で始まった旅はすぐに一人のオトモができたのだった。
須口が走らせる車は南へと向かう。このまままっすぐ八幡の方面へ行くらしい。俺はと言うと、少しでも慈について知ろうと思い、会話をしていた。
「それで、いつごろ幽霊になったとかは覚えてないのかい。自分の死んだ場所とか。」
一つ一つ丁寧に質問していく。だが、慈は本当に何も覚えていないようで、首を横に振るだけだった。
ならばと思い慈の装いをまじまじと見つめてみる。服装から時代だけでも判別できないかと思ったからだ。だが、白いシャツとプリーツスカートなんていつの時代にもありふれているようなものだ、更に俺は女性のファッションには疎い。いつの時代にこの格好が流行った、なんていうものはわからない。雰囲気からだろうか、彼女のほうが若干俺より年上に見えるような気がするくらいだろうか。
「慈さんと会話をしているんだろうがね、国木田君。僕の目には、後部座席に向かって一人でブツブツ言っている珍奇な人間に見えるよ。」
須口がそんなことを言う。確かに、傍から見ればまともな人間には見えないだろう。事実俺にしか見えてないのだし、俺の幻覚かもしれないな。だが俺は信じたかった。ここに彼女が居るということを。何の縁かわからないが、彼女が俺と巡り合ったのも何か訳があるのかもしれないと、そう思った。なぜ幽霊に対してこんな感情を抱くのかさっぱりわからない。でもそれは、さっきの、あの蒼く深い空間での二人だけの時間が、なんだかとても愛おしく、そして切なく感じたからではないだろうか。
ファミレスを出発してから1時間経った頃合いに車は八幡のスポットへとたどり着いた。目的地はどうも神社とのことだ。竹藪のなかの神社、聞くだけでも少し恐ろしい。車をコインパーキングに駐車し、カバンを手に外に出た。
「ここで待つかい、それとも一緒に行くかい。」
そもそも後部座席から降りた所を見たことがない。降りられるのだろうか。
「一緒に行きます。でも、あなたが嫌なら待ってます。」
俺が開けたドアから慈はすっと地面へ降り立った。後部座席から出られないわけではなさそうだ。
「嫌なんて思わないよ。さあ、行こう。」
俺はもう一度確かめるように、慈がそこに本当に居ることをまた感じるために、慈の手を取って歩きだした。慈は、少し照れくさそうに、でも俺の手を握り返し、俺についてくる。それがなんだか、まるで恋人同士のようにも思えて、俺も少し照れくさくなった。
須口が言う竹藪の神社と言うのは言葉の通りだったが期待通りではなかった。確かに竹藪のなかに神社があるが、その竹藪は奥の方に広がっているだけであり、神社はとても小さく手前にきちんと柵で区分けされた部分にあった。そして神社の前には車通りの激しい大通りと、通行量の多い歩道がある。もっと秘境的なのを想像してたんだがな。
だがこれも少し異質に見えた。パン屋や薬局等が普通に立ち並ぶ街の中心地とも言える場所に、そこだけ手付かずの竹藪と神社がある。街の発展に飲み込まれぬように厳重な石の分厚い柵で覆われたその空間は、奇妙な雰囲気を醸し出していた。もう、何百年も変わらずここにあるのだろう、そう感じた。
「ここの竹藪はね、神隠しに会うと言われているんだ。まあ、実際にそこまで広い竹藪ではないがね、足の踏み場もないほどに鬱蒼と生い茂った竹で覆われている。今は、これだけ囲いがしてあれば、入れないから大丈夫なんだろうけどね。さあ、神社でお参りして行こう。」
言われたとおりに3人でお参りする。二礼二拍手一礼だったな、それを行い、祈った。
なんだか妙な感じがした。背中が熱いような、そんな感じだ。そちらの方を見てみるとカバンがあったが、中にカイロ等も入ってないし、カバンを触ってみたが熱くはなかった。気のせいだろう、そう思い神社を後にする。慈は俺たちの少し後をついてきていた。
「あの、えっと。」
慈が俺に話しかけた。なんだろう、さっきの神社で何かわかったのだろうか。俺が、何かな、と言うと彼女は赤面ししばらく経って口を開いた。
「あなたのこと、圭ちゃんって呼んでもいいですか。そのほうが、呼びやすいかなって。」
なんだ、そんなことか。そんなのどう呼んでくれてもかまわない。
「いいよ、それで。好きなように呼んでね。」
そう返事すると慈は、とても嬉しそうに微笑んだ。
「よろしくね、圭ちゃん。」
頬を少し赤く染めながらそう俺に語りかけてくる慈に釣られ、俺も少し赤面してしまった。




