Killer Queen
駐車場に戻り、須口が車のロックを解除する。俺は先程の一件で少し恥ずかしいと思いつつも慈の手を握っていた。
「実に仲が良さそうだな、君たちは。国木田君の手の形から手を握っているのがよく分かるよ。宛ら恋人同士と言ったところだな。」
自分が見えないからだろうか、少し皮肉そうに須口は言う。
「いや、こうしておかないと何故か消えてしまいそうな気がしてな。」
本当は慈に多少惹かれつつあるが、照れ隠しでそう答えてしまった。
「それならそれでいいじゃないか。何故わざわざ自分に取り憑かせたままにしておくんだい、君は。」
しまった、墓穴だった。須口はなんでもお見通しと言わんばかりの目でこちらを見た後、やれやれと溜息をついた。全く、腹立たしい。
実際の所、俺はどうしたいのだろうか。彼女のやり残した事、遂げられない思いを知り、彼女を解放してあげたいと思っているのは事実だ。しかし、そうなれば彼女と別れざるを得なくなってしまうだろう。そうなれば、今、彼女に惹かれつつある俺は。
「まあいい、そろそろ出発しよう。」
須口はそう言うと右側の後部座席のドアを開けると、自分のカバンをポイと投げ込んだ。
偶然須口のカバンは後部座席に貼り付けてある右側の人形にぶつかり、その薄い紙でできた人形は、無残にも破れてしまった。その時である。俺の背負っているカバンがガタガタと震えだした。そして熱いくらいに背中を熱する。それは気のせいなどではなく、須口や慈の目からみても明らかに震えていた。俺は驚き、カバンを抑えたがその震えは止まることはなく、しょうがないのでカバンの蓋を開いてみた。
すると、俺は夢でも見ているのだろうかと思った。それはあまりにも現実離れしすぎていて、不思議で、まるでおとぎ話の、ファンタジーの様な出来事だった。俺のカバンから飛び出した白く細長い物体は弧を描き、開いていない車のドアをすり抜け、人形が壊れたばかりの席に吸い込まれるように着地した。そしてその白く細長い物体は女性の形へと変貌したのだった。
見た目は黒髪のショートボブに茶色のセーター、ミニスカートを履いた十代半ばほどの少女に見える。何故かその少女は俺のカバンから出てきた途端、車の座席に座り仏頂面をしていた。顔は、まあ主観的な意見ではあるが可愛い方だとは思う。仏頂面をしていなければ。
「やっと出てこれたわ!まったく、いつまで待たせるのかしら。というか、浮気なんて許さないんだからね!」
口を開くなりそんな言葉が飛び出し、俺を睨みつける。浮気、とは、一体何のことだ。俺に君のような恋人は、ましてや恋人そのものすらいないはずだ。
「失礼ですが、あなたはどなたでしょうか。」
恐る恐る訪ねてみる。まあ、案の定ではあるが、彼女は火を噴くかのごとく怒りながら俺を責め立てた。
「なんで!わからないの!この私を!昨日の夜にあんたが作ったんじゃない。あんたが守れって言ったんじゃない。」
その時、とある名前が頭をよぎった。
「もしかして、桐か。」
俺のその言葉にその少女は満足したように頷いた。そう、それは、その名前は俺が昨晩、自分のナイフを守り刀にした時につけた名前だった。
「そうよ、私は桐。あなたが昨日の晩祈りを込めて作ったあなたの守り刀よ。」
俺の、守り刀が、こんな少女になって、目の前に出てきた。




