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第2話 国境のファッショニスタ(2)

「――お待たせ」


金の装飾がジャラリと涼やかな音を立て、わたしは衝立の向こう側から姿を現した。


その瞬間、テント内の空気がピタリと凍りつき、次の瞬間に爆発的な熱を帯びたのが肌で分かった。

カミラが「砂漠ではこれくらい開放感があった方がいいのよォ」と差し出した、最後のとっておき。


豪奢な金糸の刺繍が入った真紅のビキニ・トップ。その上から羽織るのは、向こう側が透けて見えるほど薄いシースルーのボレロ。


下はゆったりとしたハーレムパンツだが、両サイドには腰の付け根から足首まで大胆なスリットが入っており、動くたびに白い太ももが露わになる構造になっている。


ブレイズの空色の瞳が大きく見開かれ、アズールの夜空のような瞳に、ドロリとした暗い炎が宿るのが見えた。


「どうかしら?涼しそうでしょ?」


わざとらしくくるりと回って見せる。

遠心力でハーレムパンツのスリットが大きく開き、太ももの付け根あたりまでが露わになった。


「涼しそう、じゃねえよ……!」


ブレイズが呻くように声を絞り出した。その瞳には、隠しきれない情欲の炎が灯っている。


「……機能的、とは言い難いですね。防御力は皆無に等しい」


アズールは冷静な口調を装っているが、その視線はわたしの露出したくびれに釘付けだ。


「ふふ、そうかしら?動きやすさは抜群よ」


わたしはわざとらしく腰をくねらせ、二人の目の前まで歩み寄る。

透けるボレロ越しに見え隠れする肌を強調するように、少しだけ前屈みになって上目遣いを送った。


「ねえ、似合う?」


それが、最後の引き金だった。

二人の理性が、音を立てて粉砕される。


「……耐久性の確認が必要だな」

「ええ、縫製の強度テストは不可欠です。こちらへ」


次の瞬間、ブレイズとアズールが左右からわたしの腕を掴み、強引に衝立の裏側──たった今出てきたばかりの狭い空間へと、わたしを引きずり込んだ。


「えっ?何っ!?」


「暴れるなミリア。この布、薄すぎて破けちまいそうだ……実際に触って確かめねえと」


「まったく、その通りです。特にこのスリットの構造……どれほどの運用に耐えるか、検証が不可欠ですね」


もっともらしい理由を並べ立てているが、その声は熱を帯びて震えている。

狭い空間に押し込められ、逃げ場はない。

背後からブレイズの岩のように硬く逞しい腕が伸び、わたしを抱きすくめる。

彼の高い体温が、薄いボレロ越しに背中を焼くように伝わってきた。


「こんな格好……他の男に見せる気じゃねえだろうな?」


低く掠れた、独占欲を孕んだ声が耳元を震わせる。同時に、ブレイズの唇がわたしのうなじに深く吸い付いた。

ちゅ、と小さな音が響き、首筋に花びらのような赤い印が刻み付けられる。わたしを彼のものだと主張する、熱く甘い所有の証。


「ちょっ……!」


カミラに聞こえちゃう!

声を漏らさないよう、わたしは必死に自分の唇を固く噛みしめる。


「……ダメですよ、ミリアさん。こんな扇情的な姿、ボクたちの前以外では禁止です」


正面に跪いたアズールが、恨めしげに、けれど陶酔した声で呟く。

彼の手がわたしの腰を引き寄せ、そのまま、祈るようにわたしの指先に口づけを落とす。


「ああ、ミリアさん。あなたの肌が、こんなに熱くなっている」


アズールの吐息が指先を痺れさせる。

ふたつの熱源に挟まれる幸福と、逃げ場のない愛の奔流の中で、思考が溶けてしまいそう――。


その時だった。


「――あんたたちィ!!商品になんてことしてんのよッ!!」


カミラの怒声が、甘く染まった空気を切り裂いた。

シャッ!!と勢いよく衝立が引かれ、仁王立ちしたカミラが現れる。


「試着室は愛の巣じゃないのよ!シミでもついたら買い取りだからねッ!!ほら、離れなさい!」


カミラは腰に手を当ててプリプリと怒っているが、その目は「若いっていいわねェ」と言いたげに笑っている。


これからというところでの強制終了。


ブレイズとアズールは、獲物を取り上げられた獣のように、のろのろとわたしから離れた。


「……ッッッくそが!!あと数秒あれば……ッ!!」


ブレイズはギリギリと奥歯を噛み締め拳を握りしめている。その瞳は未練たらしく、わたしの胸元に釘付けだ。


「……これほどお膳立てしておいて……これでは拷問ですよ」


アズールもまた、深いため息をつきながら唇を噛んでいる。指先を名残惜しそうに見つめるその目は、恨めしさと欲求不満で揺れていた。


心底悔しそうな二頭の獣たち。

けれど、その瞳にはまだ消えない熱が燻っている。

わたしは乱れた呼吸を整え、熱く火照った頬を隠すように、二人にウィンクを投げた。


「ふふ……残念。この続きは、アクア・アルタールに着いてからね?」


お預けを告げると、二人は「覚えてろよ」「倍にして返してもらいますからね」と、捨て台詞のように唸る。


結局、わたしは「サリー風の衣装」と、『夜用』にこの「踊り子風の衣装」の両方を購入することにした。



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