第8話 追憶の彼方
夕日が西の空へと沈み、あたりに宵闇が立ちこめ始めた城への帰り道、不意にウィルが立ち止まった。
「どうしたの?」
大通りから外れたこの細道には、私たち以外誰もいない。道の隅に立つガス灯が石畳の道を淡く照らし、ひっそりと佇む周囲の建物が濃い影を落としている。まだ肌寒い春の夜風が私たちの間を通り過ぎていった。
「ウィル……?」
私の呼びかけに返答はない。
(どうしたんだろう……)
と不思議に思って首を傾げていれば、ウィルが振り返った。ガス灯の光を背に立っているせいでウイルの顔には暗い影が差し、どんな表情をしているのか分からない。
そのいつもと違う、どことなく憂いに満ちた雰囲気に私が「どうしたのよ」と口を開きかけたとき、
「―― ごめん。一人にしてごめんな」
ウィルがそっと私を抱きしめた。
「……っ」
あまりに突然のことに驚いて言葉を失う。全身が硬直してしまったかのように動かない。
「ウィ、ル……?」
掠れた声でウィルの名前を呼べば、抱きしめる腕がさらに強くなり、グッと引き寄せられた。
(……!)
より密着した体に心臓が高鳴り、呼吸をするのが苦しくなる。
もう自分にも随分馴染んだ香りに、どことなく落ち着く体温。包み込むように背中に回された腕に、頭を優しく撫でる手。そして、どこか自分を責めるような声音に、
(……前にもこんなことが、あった気がする)
徐々に高鳴っていく心臓の音を聞きながら、ふとそんなことを思った。




