第15話 美しい青年①
まるで城門のような立派な昇降口を潜り抜けると、大きな円形のホールに出た。床には深紅の厚いカーペットが敷かれ、壁に取り付けられた蝋燭がゆらゆらと揺れている。さすが千年も前の、古い城の城内だけあって威厳のある雰囲気が漂っている。
「ねぇ、あれってもしかしてクラス分けでも張り出されてるんじゃない?」
昇降口を抜け、しばらく歩いたホールの真ん中になにやら生徒が集まっているのが見えた。
生徒が集まっている場所からは歓声や悲鳴が上がり、友達と嬉しそうにはしゃいでいる生徒もいれば、友達とクラスが別れたのか、しょんぼりしながら散らばっていく生徒の姿が見える。
「そうみたいだな。いくつのクラスに分かれてるんだろうな」
「優しい先生のクラスがいいな〜。寝坊しても許してくれる先生」
「そんな先生いるわけないだろ。俺はおまえとは同じクラスになりたくないな」
「どうしてそんなこと言うのよ!」
「おまえと同じクラスになったらやれ宿題だの日直だのなんでもかんでも任されかねないだろ」
「わ、私がそんなことするわけないでしょ!」
ぎゃーぎゃー言い合いながら生徒が集まっている場所に行きつけば、宙に浮いた掲示板になにやら紙が張り出されているのが見えた。
A組、B組、C組、D組と大きな太文字で書かれた下にずらりと生徒一人一人の名前が並んでいる。ざっと見て一クラス、三十人はいる。
(この中から私の名前探すなんて骨が折れるわ……)
A組の最初からずらりと並んだ名前の一つ一つに目を細めて探していれば、
「あった、俺C組だ」
隣で同じように探していたウィルが声を上げた。まだA組のところを見ていた私は、
「もう見つけたの⁉︎」
と驚きのあまり素っ頓狂な声を上げる。ウィルが指差した先に視線を滑らせれば、C組の生徒の名前が並んだ真ん中あたりに〝Will Cerulean〟と名前が刻まれていた。
「見つけるの早いわね……」
「おまえもC組だぜ」
「え?」
ウィルがC組の生徒の名前が並んだ一番下の方を指さす。刻まれた名前から順々に下に下がっていけば一番最後に〝Lucas Aureus〟と刻まれていた。
「ほんとだ、私C組かー」
無事に自分の名前が見つかってふうと胸を撫で下ろした。ウィルが私の名前を見つけてくれなかったら未だに探していたところだった。
(私もC組、ウィルもC組……ていうことは、私はウィルと四年間クラスが一緒……?)
王立魔法学校は四年制。学年が上がるごとのクラス替えの制度はなく、一年生時に決められたこのクラスのメンバーで四年間過ごすのだそうだ。学校に来る前に王立魔法学校について詳しく知らない私のためにウィルがその制度を説明してくれたのを思い出した。つまり、ウィルとは城では顔を合わせるのはもちろんのこと、喧嘩しようが何しようが学校でも顔を合わせることになるのだ。一日中顔を合わせるのは今までとは大して変わらないけれど、まさか王立魔法学校に通うことになってもその生活が変わらないとは少し驚きだ。
(まあ、知り合いがクラスに一人いて安心だけど……)
そんなことを考えながらちらりと横目にウィルを見れば、ばちりと視線がぶつかってしまった。
「……なんだよ」
「まさか同じクラスになっちゃうなんてね」
「まあ、なんとなくそんな予感がしたけどな。頼むから問題は起こさないでくれよ」
ウィルがなんとも言えない表情で私の顔を見る。
「も、問題ってなによ!」
「学校の銅像壊すとか。窓を割るとか。王家の者らしく、慎ましく、行儀よくしてくれよ」
「なんで私がそんなしょっちゅう物壊してる言い方するのよ」
「なんでってそんなの日常茶飯事だろ。この前だってお菓子作りだとかでキッチン爆発させたばかりだからな。どうしてお菓子作りでキッチンが爆発するんだ? 料理長が泣き崩れてたぞ。とにかく、おまえが何かやらかしそうで毎回ひやひやするんだからな」
ウィルがはあとため息ともぼやきともつかない声で額に手を当てた。その表情からは私が起こした数々の失態を思い出して、疲れ切っているようにみえる。
「う、うるさいわね! そんなの偶然よ、偶然!」
「そんな偶然でキッチン爆破されてたまるか!」
ウィルがそう言い返した、 そのときだった。
「あれ。もしかして、君たちもC組?」
ふわりとまるで春のそよ風のようなひどく柔らかい声音が真後ろから聞こえた。突然聞こえた優しい声に言い合っていた私とウィルは一瞬ぽかんとする。
(だ、誰……?)
互いに顔を見合わせてゆっくり後ろを振り返れば、そこには一人の青年がいた。
「こんにちは。僕の名前はノエル。よろしくね」
絹のような肩まで伸びた灰色の髪に、白い肌。灰色がかった瞳に、長い睫毛。美青年という言葉がぴったりな美しい青年は、にっこりと微笑んだ。
(な、なにこの眩しすぎるオーラは……!)
普通オーラは見えないはずなのにどういうわけか、ノエルの周りはキラキラ光り輝いて見える。まるで光の粒が舞っているようだ。
「ま、眩しい……」
思わずそう呟けば、ノエルは不思議そうに首を傾げた。
「どうしたの?」
「いや、え、えっと、」
まさか心の声が漏れるとは思っていなかったので、良い言い訳が見つからずどもってしまう。
(オーラが眩しすぎて言っちゃっただなんて、出会って早々変人だと思われる…!)
「あははは」ととりあえず取り繕った笑みを浮かべて頬を掻けば、横からウィルに思いきり肘で小突かれた。
「いった……!」
「俺の名前はウィル・セルリアン。隣のこいつはルーカス・アウレウス。俺らもC組だ」
ウィルはまるで私の声を打ち消すように軽く挨拶をすませると、爽やかな笑みを浮かべた。よそ行きの顔だ。普段は見せない爽やかなその笑顔を横目に、
(こ、こいつ……! 絶対あとで仕返ししてやる!)
と静かに誓った。
「良かった。C組の人に出会えて。これから教室に向かおうと思うんだけど、一緒にいいかな?」
ノエルはそう言って暖かな笑みを浮かべると、「どうかな?」と首を傾げた。まるで小春日和のような、周りがぱっと明るくなりような笑顔にまさか、嫌だなんて言えるわけがない。それこそ学校中探しても、首を横に振る人はいないんじゃないかと思うほどだ。その笑顔に、
「もちろん!」
と大きく頷いた。横からウィルの強い視線を感じたけど、今は気づかないふりをする。
「良かった。ちょっと急がないと時間がないけど……」
そう言ってノエルは困ったように言うと、廊下の奥へと続く大階段へと歩き出した。その後ろ姿を見ながら思わずぽかんとしてしまう。容姿も雰囲気もまるでおとぎ話から出てきた王子様のようだ。
(まさか本当に王子様だったりして……)
そんなことを考えていれば、不意に横から肘で脇腹を小突かれた。
「いった! もうさっきからなんなのよ」
私が睨みつけるようにウィルに視線を送れば、ウィルは「ふん!」と言ってそっぽを向いた。その不機嫌さを露わにしている横顔にウィルの機嫌を損ねることがあっただろうかと首を傾げる。
「何? 何か怒ってるの?」
「別に」
「もうなんなのよ」
なおも私と視線を合わせないウィルに冷ややかな視線を送れば、ウィルはため息混じりに呟くように言った。
「余所見ばかりしやがって。ちょっと気にくわないだけだ」
「余所見……?」
私の問いかけには答えずウィルはそう言い残すと、すたすたと階段を上っていってしまう。
(余所見って、なに……?)
そんなウィルの言葉が理解できなかった私は、一人首を傾げた。




