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第16話 美しい青年②

それからしばらくして、私たちは教室に続く中庭に面した廊下を歩いていた。城を改築しただけあって大理石で作られた廊下はまるでどこかの宮殿のようだ。廊下の壁には細かい彫刻が施され、中庭の見える大きな窓からは日の光が差し込んでいる。

「じゃあ、ルカはずっと時の城に住んでるんだね」

ノエルは灰色の髪を揺らしながら、優雅な笑みを浮かべた。透明感のあるノエルの髪は日の光を浴びて光の輪ができている。

「そうなの。かれこれ十年くらいかなー。まあ、住んでるっていうか居候みたいなもんなんだけどっ」

私は「あはは」と曖昧な笑みを浮かべると、頬を掻いた。

(ほんとどこからどう見てもお人形さんみたい。髪なんて何? 私より絶対艶があるでしょ……)

ノエルに軽く私の自己紹介をしている間、私はノエルの横顔から目が離せなかった。前世で一体どんな徳を積んだらそんな容姿に生まれるんじゃないかと思うほど、ノエルの容姿は浮世離れしていた。

(ほんと、綺麗……)

私が穴が空くほどノエルの横顔を見ていれば、

「僕の顔に何かついてる?」

私の視線に気づいたノエルが私に顔を向けて首を傾げた。

「え、や、なんもついてないけど……! ノエルの髪、綺麗だなあって」

まさか急に私の方に顔を向けてくるなんて思いもよらず、言葉がどもり、あらぬ方向に目をやってしまう。最悪だ。

そんな挙動不審の私をノエルは特に気に留めなかったけど、代わりにウィルに思いきり足を踏まれた。

「った……!」

(もう、さっきからなんなのよ!)

私がきっとウィルを睨みつければ、ウィルはまるで足を踏んでないと言わんばかりに涼しい顔で窓から見える中庭を眺めていた。

(こいつ……!)

ノエルが隣にいる手前、ウィルに仕返しができないことが悔やまれる。でも、さすがに三回もやられっぱなしなんて限界だ。掴みかかりそうになるのを鉄壁の理性で抑え込み、代わりにふうと怒りを鎮めるように息を吐いた。

「……この髪は、風の国の王子である証なんだ」

ぎりぎりとウィルの横顔を睨みつけていれば、ノエルが呟くように言った。自分の髪を指に絡めながら、視線を落とす横顔はどこか憂いを孕んだように見える。

その横顔が気になったけど、

「風の国の王子って、やっぱり王子様だったの⁉︎」

どこか予想はしていたけどその事実に驚きが隠せなかった。私の言葉にノエルは、

「やっぱりって? 僕が風の国の王子って知ってたの?」

至極驚いたような、不思議そうな顔をした。

「知ってたってわけじゃないけど、うーん、なんとなく?」

(まさか容姿も雰囲気も王子様感がぷんぷんだなんて言えるわけ、ないよね……)

「あはは」と本音を誤魔化すように取り繕った笑みを浮かべれば、

「ルカはきっと日頃王子様に囲まれてるから、なんとなく分かっちゃうんだね」

そう言ってどこか納得した表情をした。別の理由で納得してくれて良かったと思うものの、そればかりはさすがに違うと全否定したくなる。

「いやあ、うちの王子はみんな王子様って感じじゃないけど……」

脳裏に浮かぶのは、黒衣の騎士団団長という顔を持ちながら変態丸だしの第一王子、学業を疎かにし他国に出かけては極悪集団とやりあって顔に傷を作ってくる第三王子の顔が浮かぶ。

(ま、一応隣のこいつも王子様っていうわけだけど、全然王子様感ないし……)

私が微妙な視線をどこか面白くなさそうに中庭を眺めるウィルの横顔に送っていれば、

「そうなの? 僕は全然そういうふうには見えないけどな」

ノエルはそう言って至極意外そうな顔をした。

「どうして?」

「どうしてって、ノア王子は黒衣の騎士団団長として王国中の人々に尊敬されているし、霊獣を連れて歩く姿なんて本当に神々しいよ。シャルル王子は国を守ってくれるヒーローなんだって子どもたちの憧れの的だよ」

「へ、へえー」

(あの人たちが、ねぇ……)

人々にとっては、あの二人は輝いている存在として目に映るんだろう。

(城での様子とでは天と地の差があるのね……)

私が脳裏に二人の城での様子を思い起こしていれば、

「時の城の王子様はみんな幸せだね」

ノエルはそう言って、何を思ったのか柔和な笑みを浮かべた。

「どうして?」

その言葉の意味が分からなかった私は、不思議そうな顔をしてノエルに尋ねた。

「だってこんなにも可愛い子と一緒に暮らせるんだから」

「なななな…!」

まるで当たり前のようにその台詞を言ってのけるノエルに思わずその場でカッチンコッチンに固まってしまった。そんな台詞、まるで呼吸をするように変態発言を連呼するノアにしか言われたことがない。私が次に何かを言うよりも早く、

「想像してるほど、こいつは可愛いもんじゃないぜ」

しばらく黙っていたウィルが口を開いた。

「ウィル、なんてこというのよ!」

「本当のこと言っただけだろ」

そうしれっとした顔で言ってのけるウィルにこれでもかというほど横目で睨みつける。そんな私たちのやり取りをノエルは眺めながら、

「君たちは本当に仲が良いんだね」

と楽しそうに笑いながら言った。その言葉に「そんなはずがない」と私とウィルが否定しようと口を開きかけたとき、ゴーンゴーンと学校中に鐘の音が響き渡った。

「これって……」

なんだか嫌な予感がする。私が廊下の壁に取り付けられた古時計を見るよりも早く、

「……どうやら、ちょっとおしゃべりしすぎたようだね」

腕時計に視線を落としていたノエルが困ったように眉尻を下げた。

「つまり……?」

「遅刻決定だ。走るぞ」

ウィルの言葉に私たちは一目散に走り出した。

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