第11話 慌ただしい朝
「―― おい、おい、ルカ! 起きろって!」
けたたましい声とともに、グエグエグエッと不気味に朝を知らせるカエルの目覚まし時計の音がする。カーテンの隙間から漏れた日の光が顔に当たって眩しい。思わずその眩しさに顔をしかめる私の横で、
「だーかーら、起きろってば!」
と鋭い声が飛ぶ。
日の光と声の主から逃げるように寝返りを打てば、
「いい加減起きろっつってんだろ! いつまで寝てれば気が済むんだ!」
と一際大きな声が聞こえ、勢いよく布団を剥ぎ取られた。急に押し寄せてきた寒さにぶるっと体を震える。
目を擦りながら重い体を起こせば、徐々にはっきりしていく視界の中でウィルが見慣れない服を着ていることに気がついた。
「あれ……? ウィル、その服、何……?」
ウィルが着ているのは、白のワイシャツに黒のブレザーとズボン。ブレザーの右の胸元には双頭のドラゴンが刺繍されたエンブレムが付いている。普段のウィルは無地のネクタイばかりなのに、今日はどういうわけか白のストライプが入ったお洒落な紺のネクタイだ。いつもは何かしら寝癖ではねている髪も今日は綺麗にセットされている。見たことがないエンブレムに、ウィルらしくないネクタイ。綺麗にセットされた髪に、見慣れない服。その服はまるでどこかの学校の制服のような―――。
「―― おまえ、やっぱりただの寝坊じゃなくて忘れてたんだな! ほんっと、おまえは寝たらすぐ忘れる! 今日は……!」
ウィルが思いっきり片手で私の頬を掴む。綺麗な指が頬に食い込み、思わず「い、いひゃい……!」と悲鳴を上げた。若干涙目でウィルを見上げれば、ウィルははあと息をつくと、
「王立魔法学校の入学式だ!」
そう目の前で叫ぶと、バサアと服のようなものをベットの上に置いた。
それは、ウィルと似たような作りの制服だった。
白のワイシャツに黒のブレザー。ブレザーの胸元にはウィルと同じように双頭のドラゴンのエンブレムが付けられている。そして、ズボンの代わりに可愛らしい赤いチェックのスカートが置かれていた。
「それは魔法学校の制服! さっさと着替えて飯を食え!」
ウィルはそう言い残すと、部屋から出て行った。
一人取り残された部屋の中で、まだ完全に眠りから覚めていない頭を起こそうと、ぱちんと頬を叩く。窓の外からチュンチュンチュンと小鳥のさえずりが聞こえた。
「王立魔法学校のにゅう、がく、しき……?」
ベットの上でその言葉を確認するように呟く。そしてもう一度、投げられた制服へと視線を落とした。
「ああーっ!」
昨日、眠る前に学校に行く決意表明をしたはずなのにすっかり忘れていた。眠るとすぐに宇宙の彼方だ。一人取り残された部屋に私の叫び声が響いた。




