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影の弁慶〜義経ものがたり〜  作者: 甲田太郎
下巻 第三部 栄光の空洞

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第五十八話 心の帰る場所

 六条堀川の門が見えた時、牛若の息がほんの少しだけ緩むのが見えた。


 法皇御所を辞した後も、主の肩にはまだ力が残っていた。壇ノ浦の潮も、都の歓声も、法皇の前での震えも、すべて衣の奥に染みついているように見える。だが屋敷の築地が近づき、見慣れた門の影が夕暮れに沈みかけているのを見た時、牛若の手綱を握る手はわずかにほどけていた。


 弁慶はその斜め後ろを歩いていた。


 この屋敷には留守を守っていた者たちがいる。灯を消さず、戸を閉じ、帰る者のために空気を保っていた。戦場の潮と、都人の声と、武具の重みが、門前で少しだけほどける。


「判官さま」


 最初に出てきたのは静御前だった。門の中から牛若の姿を見つけた途端、唇をかすかに震わせた。衣の裾を乱さぬまま一気に近づいてくる。


「お帰りなさいませ。……よくぞご無事で」


 その声は柔らかかった。


 牛若は馬を下りると静を見た。海の上や法皇の前で見せた目とは違う。


「そなたは、変わらず美しいな」


 ぽつりと言った。その言葉を、静はそっと温かい目で受け止めた。


「お顔を見られただけで、静はうれしく思いますわ」


 牛若は小さく笑った。


 屋敷の前の空気がふっと柔らかくなる。三郎が横で「よかったな」とつぶやき終わらないうちに、郷御前が早足で姿を現した。


「お待ち申し上げておりましたわ」


 牛若の前で丁寧に頭を下げると、すぐに顔を上げた。


「義経さま。御留守の間、屋敷に乱れはございません」


 その、気品はあるが鋭い声に、牛若は「そうか」と短く返した。


「出入りの者は改め、夜の戸締まりも二重にいたしました」


 その言葉に、牛若はまた少し笑った。


「郷は、頼もしいな」


「当然でございますわ」


 郷御前は少しも照れずに答える。


 その横から多田行綱が進み出た。


「義経さま、つつがなきご帰還、何よりでございます」


 行綱は深く頭を下げた。


「この屋敷は、郷御前殿と守っておりましたぞ」


 その声は誇らしそうだった。いかにも大役を務め上げたと言わんばかりだ。


「行綱も、よく守ってくれた」


 牛若が穏やかに言うと、行綱の顔がぱっと明るくなる。


「もったいなきお言葉にございます。この行綱、鹿ヶ谷を始めとして薄汚れた過去を持つ身でありながら、義経さまのお姿にいつも浄められ、ただ震えるばかり」


(また始まりおったか)


 弁慶は行綱に聞こえるように大きなため息を勢いよく吐いてやった。行綱の潤んだ目を見るのも面倒だ。この不潔な話は一体何度目だろう。


「そなたは優しい声だな」


 牛若は笑顔で短く答える。天界の稚児は行綱の不潔な過去話など、全く理解していないにちがいない。


「おお、戻ったか」


 酒の匂いをまとった行家がふらりと現れた。


「九郎、話は聞いておるぞ」


 今日は頬が赤く、機嫌もよい。酒の勢いもあるのだろう。門柱に片手をかけながら、牛若を見ると大きく笑った。


「ゆき……義盛殿」


 牛若の声音はこの俗物に対しても変わらない。行家の変名も覚えていたようだ。


「屋島に壇ノ浦。都中がその話で持ちきりよ」


 行家はふらつきながらも、声だけは妙によく通った。


「ここまで短い間に平家を西の果てまで追い詰めるとは、このわしも予想せなんだわ。いや、まこと派手にやったものじゃ」


 その言葉は牛若の顔を明るくした。褒められているということは伝わったのだ。


「ありがたいお言葉です」


「鎌倉の頼朝も、いい加減お前を見直すであろうよ」


 胸を張った行家は少し足を滑らせかけたが、牛若の目は一気に輝いていた。


「……兄上も……っ」


 そのうれしそうな声に、弁慶の喉の奥がわずかに重くなる。三郎と鷲尾が目を合わせ、気まずそうな笑みを浮かべる。忠信と駿河も、牛若の喜ぶ様子を直視できないようだった。弁慶は何も言わず、ただ主の斜め後ろに立ち続けていた。




 翌朝、六条堀川の屋敷にはまだ帰還の熱が残っていたが、突如法皇からの使者が現れたので皆が居住まいを正した。牛若たちの前で、口上を読み上げる。


「佐藤忠信殿を兵衛尉(ひょうえのじょう)に任ず。これから出仕の準備をするように」


「え……?」


 真っ先に忠信が驚いた声を出したが、牛若はすぐに反応した。


「忠信、よかったな。私と一緒に出仕できるぞ」


「ありがたき、お言葉にございます……!」


 感慨深い声で、忠信は牛若と使者を交互に見ながら頭を下げていた。


「よかったな!」


 三郎がいつもの軽い声で讃えると、皆が口々に忠信を褒める。使者が帰った後も、その場には陽気な幸福感が満ちていた。皆が牛若を支えているのに忠信だけが任官したということを咎める者は、この屋敷にはいない。


(おそらく、この従者たちの中で、まともな武士が忠信しかおらぬからであろう)


 弁慶は合点がいった。駿河もまともな武士には相違ないが、頼朝から遣わされた坂東武者であるから、純粋な義経の従者である忠信が朝廷では都合が良かったにちがいない。


(またあの帳面の男が怒りそうであるな)


 そんな考えも湧いてはくるが、弁慶にはどうでもよいことだった。牛若が検非違使になった時から、他の者が気づいているかは知らないが、任官の筋道など弁慶の知ったことではない。頼朝が目くじらを立てて義経を捨てるなら、それは自分が抱き止めてやる時が来たということだけにすぎない。


「忠信」


 牛若は透き通った声で穏やかにつぶやいた。


「この知らせ、継信も喜んだであろうな」


「……ええ」


 忠信の口元がわずかに震えた。兄に見せたかった喜びが、遅れて胸の内から上がってきたようだった。


「義経さま」


 忠信は膝を進める。


「それがし、この身に余る沙汰を頂きました。兄者の分まで、これよりもなお、おそばに仕えます」


 牛若の顔には爽やかな笑みが浮かんでいた。


「忠信、よかったな」


 それは久しぶりに聞く、何の曇りもない声だった。素直な喜びがそこにある。


「継信も、きっと喜んでいる」


「……はい」


 声は少しかすれていたが、忠信は力強くうなずいた。


 そこに、門の方から騒がしい足音が近づいてきた。


「義経さま!」


 景季の声だった。


 返事を待つ間もなく、景季が庭に駆け込んでくる。続いて景高も現れた。兄ほど乱れてはいないが、いつもの涼しい顔の下に、抑えきれぬ喜びが滲んでいるのが分かる。


「義経さま、聞いてくださいませ!」


 景季は息も整えず、牛若の前に膝をついた。


「私も、景高も、任官の沙汰を頂きました!」


「兄上は左衛門尉(さえもんのじょう)、私は兵衛尉(ひょうえのじょう)にございます」


 牛若は少しだけ驚いた様子だったが、すぐに明るい笑顔になった。


「それはよかったな」


「はい!」


 景季の爽やかな返事は、庭の端まで届くほど明るい。


「これで義経さまと一緒に出仕できます!」


 先日見かけた父親との言い合いを思い返すに、その一点だけなのだろう。官の名よりも、位よりも、景季と景高はただ牛若と同じ場所に上がれることだけを喜んでいる。


 景高も静かに頭を下げた。


「私も、義経さまのおそばにて宮中に上がれること、何よりの誉れに存じます」


 声は落ち着いていたが、その目は若者らしく輝いていた。


 牛若は二人を見比べ、子どものように笑った。


「そうか。二人とも、よかった」


 牛若は喜んではいるが、正気を失うほどの興味はないにちがいない。天界の稚児の笑みを受けた景季は、今にも泣き出しそうな顔で胸を張る。


「はい。これほどめでたいことはございませぬ!」


「牛若さま、こりゃあ派手になってきましたね」


 三郎は面白そうに笑う。


「忠信も、帳面じじいの息子さん二人も、そろって牛若さまと宮中ですからね」


「そうだな三郎」


 牛若が少し笑って三郎を見た。


「皆の晴れ姿、楽しみだな」


「もちろんですよ!」


 三郎は胸を張る。


「牛若さまの周りが立派になりゃ、こっちまで鼻が高いってもんです。俺の任官もいつの日か」


「元盗賊のお前は無理だろう」


 弁慶は微笑ましくも冷徹に切り捨てておく。その場に一同の笑いが落ちた。


 牛若は忠信や梶原兄弟の晴れ姿が、自分のことのように嬉しいのだろう。昨日の冷えが完全に消えたわけではない。だが今だけは、周囲の若さと熱が、主の胸に素直に触れているように見えた。


 任官の沙汰を聞きつけたのだろう。重忠、高綱、直実が相次いで庭先へやってきた。三人とも己には今回沙汰がなかったことなど、まるで気にしていない顔だった。


「めでたいことにございまする」


 重忠がまず口を開く。


「義経さまの美しい風を浴びるために宮中へ出仕できるとは、まこと羨ましい」


 それは純粋な祝いの言葉だった。


「それがしもいつの日か」


 高綱が牛若のまつ毛を見つめながら、うっとりと笑う。


「義経さまのそばに立てば、そなたらも光る。羨ましいことですな」


 景季は照れたように笑い、景高は少し得意げに目を伏せた。


「それがしもいつか宮中にて、義経さまの光を眺めたいものにございます」


 高綱はそう続けて、牛若のまつ毛のあたりを熱っぽく見つめる。


 直実は梶原兄弟と忠信を見回し、腹の底から笑った。


「誠にめでたいではないか! 義経さまを宮中でもお守りすることができるのは、羨ましい限りじゃ! 忠信殿。屋島で名誉の討死をなされたと伝え聞く継信殿も、あの世でお喜びであろう」


 忠信は唇を結び、深く頭を下げた。


「はい。兄者の分まで、義経さまのおそばにおります」


 牛若はその様子をうれしそうに眺めていた。


 庭には温かい空気が広がっていた。戦場ではこれほど場が温まることはなかった。濡れた板、矢や太刀の音はすっかり遠のき、武者たちの声ばかりが屋敷に満ちていた。


 談笑の中に別の足音が来た。景時だった。


 門のところで立ち止まった景時は、庭の騒ぎを見て顔をしかめた。


「一体何じゃ、この騒ぎは」


 その濁った声に、景季と景高の顔は一気に曇った。


「鎌倉殿の推挙なく、御家人が任官の話を受けるなど、筋違いにも程がある。聞けば今回、義経殿と宮中を共にしたいなどと申して、二十人を超える者たちが一斉に任官を受けたと聞く。正気の沙汰ではない」


 牛若はぽかんとして景時を見ていた。皆が晴れやかな顔をしているのに、この男が濁った声で水を差す理由が、天界の稚児には理解できないにちがいない。


「父上!」


 景季の声が跳ねる。


「我ら兄弟の晴れ姿さえ、父上は邪魔を続けられるか! いい加減になされよ!」


 景時はうんざりしたようにため息をつき、こめかみを押さえる。


「邪魔をしておるのではない。鎌倉殿に対する筋道の話をしておる」


「義経さまと共に出仕できるというこの喜びを、父上はまたその穢れた帳面で汚そうとしておられる!」


 景季の顔が興奮で紅潮すると、景高も静かな声を重ねた。


「我らは父上のように、義経さまのことを執拗に邪魔したり、嫌がらせを繰り返したりはいたしませんでした」


「景高もか……」


 景時が頭を抱え込みながら目をつぶるが、景高は止まらない。


「私も兄上も、義経さまに邪魔や嫌がらせをせず正しい奉公に徹した。その純粋な働きを法皇さまがお認めになったまでのこと。自身の不適切な働きを棚に上げてなじりにいらっしゃるとは、梶原の名をいたずらに辱めるのもいい加減になされませ」


「二人とも、まるで話が通じぬ……」


 景時の声には怒りよりも疲れが見えた。


「わしは、鎌倉殿の御家人として当然のことを申しておる。反抗するのもいい加減にせよ!」


「景時殿」


 背筋を伸ばした重忠が透き通った声で間に入った。


「義経さまが平家を討つという悲願を達成され、我ら下々の御家人はその美しい風をどう守るかが一番の使命にございまする。ご子息お二人が任官できたのはまさにその使命を果たすがため、天から与えられたものにございましょう。それを貴殿の濁った帳面が押しつぶすことには感心できませぬ」


「重忠殿……」


 頭痛が始まったらしい景時は、うつむきながら何とかその場に立っているようだった。


「義経さまの美しき瞳……」


 高綱がうっとりした声を重ねた。


「まばゆい光を守るためには、任官する者は多い方が良いでしょう。たった二十人など、あまりにも少なすぎるかと。光輝く瞳を我らは守らねばならないのです」


「ううむ、また訳の分からぬことばかり……」


「訳の分からぬ言いがかりばかりつけておられるのは父上ではありませぬか!」


「ええい、うるさい!」


「……帳面じじいがまた揉め事を起こしやがった」


三郎が小声で弁慶に囁いた。どこか面白がってすらいる。


 牛若は不思議そうな目で景時を見ていた。あどけない顔で首を傾げている。


「いい加減になされよ、景時殿」


 直実が低く響く声で割って入る。


「直実殿……」


「そなたは、義経さまに鬼畜生の所業を繰り返すだけでは飽き足らず、とうとう実のご子息に対しても本性をあらわしおったか! そうやって我が子の奉公する清らかな心を殺し去ろうと悪しき知恵を絞り、義経さまを何度も危険な目に遭わそうと企むその根性、随分見上げたものであるわ! 外道もここまで来れば神仏も舌を巻くであろう!」


「な、直実殿、貴殿はまた何か勘違いされておる……」


「直実殿の言う通りじゃ!」


 景季がさわやかな大声で同調すると、景時の背筋はぴくりと跳ねた。重々しいため息をつく。


「もう良い。……この件は、しかと鎌倉へ申し上げる」


 それだけを言い置いて、景時は庭の端からその場を去っていった。


「行ってしまったが、景時は兄上に何を申し上げるのだろう……?」


 牛若はそのことだけが気になったようで、子供のように不安そうな表情だ。


「義経さま。それは我ら御家人の任官のことでしょうが、義経さまは大丈夫です。父上がどんなおかしな報告を鎌倉へ送ろうと大丈夫です! 他にまともな報告は大勢の者が書き送っております」


 景季は勝ち誇ったように牛若へ向き直る。牛若はその景季を頼もしそうに見つめていた。


「父上以外に、穢れた報告を書き送る者はおりますまい」


 景高も涼しい顔で袖を直しながら力強く言う。


「帳面じじい、心配する必要はなさそうだな」


 三郎が声を立てて笑う。忠信も「安心ですね」とつぶやいた。


「私も鎌倉殿に、九郎さまのこれまでの働きは再度送っておきましょう」


 さらに安心させようと駿河が言い加えたが、牛若は「いや、それは……っ」と動揺してしまう。


「兄上が……神器の件を許してくださるか……」


 牛若の顔に怯えが宿るが、重忠が「義経さま」と透き通った声を響かせた。


「景時殿の方は存じませぬが、ほとんどの御家人は壇ノ浦の戦の全てをこの目で見ておりまする。失われた神器と帝が抗えぬ定めであったこと、それよりも義経さまの美しい風をお守り申し上げるに勝る大事な任務はなかったこと、それらは全て自明の理にございまする」


「重忠の言う通りじゃ! 義経さま、安心してください!」


 景季が大きな声で同調すると、牛若はその爽やかな笑顔だけを不安そうに見つめるだけだったが、その場は牛若の無事を喜ぶ声で溢れていた。




 任官を得て出仕を始めた忠信と梶原兄弟は、いかにも誇らしげだった。景季などは、牛若のすぐ近くに立てるだけで飛び上がりそうになっている。景高は涼しい顔ではあるが、目の奥だけが静かに輝いていた。忠信は口数こそ少ないが、兄に見せたかったであろう晴れ姿で、主の後ろに控えている。


 弁慶が護衛のため庭の後に控えていると、廊下を一人の若い公達がこちらへ歩いてきた。


 姿は整っている。都の匂いをまとった生粋の貴族だ。だが、その目は牛若を見つけた途端、妙に熱を帯びていた。


 その公達は牛若の前で足を止め、丁寧に頭を下げた。


「九郎判官義経さま。私は新しく侍従に就任いたしました、一条能成(よしなり)と申します」


 弁慶には彼が何者であるかがすぐに分かった。牛若の生母の常盤御前について、以前念入りに調べていた時に知った、再婚した貴族との間の息子の名前だ。


 牛若のまぶたは小さく動いていた。


「一条……?」


 その声は小さかった。


 常盤御前の屋敷に繋がる名。牛若が遠くから見つめることしかできなかった場所の匂いが、その二文字にまとわりついている。


 能成はもう抑えきれなくなったらしい。顔を上げた目はすでに濡れていた。


「兄上……!」


 感極まった声で、能成は牛若に駆け寄った。


 牛若は一瞬、息が止まったようだった。目の前の若い男をじっと見つめている。


 能成は熱い目で牛若を見つめていた。


「お会いしたかった。ずっと……兄上に」


 その言葉には嘘がない。能成は父の異なる兄を慕っている。ようやく見つけた存在に、まっすぐ手を伸ばしている。


 牛若はほんの少しだけ微笑んだ。


「……私も、うれしい」


 その声は確かにうれしそうだが、何もかも投げ出すような熱はなかった。


 この、半分しか血のつながらない弟は「兄上」と呼んで駆け寄ってきたのに、常盤は牛若がこれだけ都で有名になっても会いには来ないのだ。便りもなく、まるで存在を忘れてほしいかのようだった。


 牛若の目が、能成の向こうを一瞬だけ見た。誰かを探すような目だ。


 能成は、その冷えにまだ気づいていない。兄を見つけた喜びで頬を染め、また一歩近づく。


「兄上、これからは私も宮中におります。何かあれば、どうかお声をおかけください」


「ああ」


 牛若は微かな笑みを浮かべたままうなずいた。


 能成は常盤のことを全く話さない。 奥ゆかしい天界の稚児は踏み込んで聞くことができずにいる。弁慶は拳をぎゅっと握りしめ、牛若のその幼さに密かに感謝した。


 斜め後ろから、その横顔を見つめる。


 宮中の磨かれた板の上を、衣の擦れる音だけが静かに過ぎていった。

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