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第26色

 一瞬、時が止まってしまったかのような感覚に陥っていた。着替え途中のまま、未だに召集連絡が鳴り続けている花盤(ディスク)をただ眺めるだけになってしまう。


「私、とアール、だけ……? どうして……」


 その間に、徐々に悪い方向へ思考が働いてしまう。先日の襲撃があったものだから、自分が足手纏いになるのを避ける為なのか。それとも、また別の理由で待機しなければならないのか。緊急の召集であるからには、どんな指示であろうと制服に着替えて待機しなければならないが、意識とは裏腹にその手の動きが鈍くなる。


(考えちゃダメ……今は指示を優先しないと……早く、早く着替えなきゃ……髪もまとめて……)


 隊の一員であるのに、ひとり取り残された感覚に侵食され始めていた。そんな焦りからか、うっすらと涙も込み上げてくる。その時、扉の向こうからいつになく息を切らして来たであろう声が聞こえた。


「エレン! いるか!?」

「……っ! アール?」


 慌てて制服を整え、部屋の扉を開き外にいる彼を出迎える。アールは、エレンが無事でいたことへの安堵と目元が若干赤くなっていたことへの驚きの表情へ変わった。制服は着ているものの、髪はそのままになっていることから、なんとなく彼女の心境を察する。


「……ごめん、不安にさせたな。今回の指示は、司令官からの提案でもある。今、ちゃんと話さないといけないから」

「そっか……大丈夫、それを聞いて安心、した」

「一旦座って。髪まとめておくから、制服もう少し整えな」

「えっ……ぁあぁあ本当だ……お願い、します」

「……いや、もう少し警戒してくれ……」

「ん?」

「〜っ、なんでもない。とにかく部屋入るからな」


 そういう状況ではないにしろ、別の意味で危機感を持って欲しいと常々思うアールだった。そんな彼の心境も知らず、ドレッサーに向かって座ったエレンの後ろに立ちつつ、彼女の金糸のような柔らかな髪を櫛と共に手に取る。適度な力で、普段の任務で見ている高さの位置まで持ち上げ一括りにしていく。


「痛くないか?」

「大丈夫、ありがとう……むしろ私より綺麗にできてる気がするんだけど」

「それはよかった。こんな風に誰かの髪を触る機会もなかなか無いからな。ここで失敗してシェリー辺りに怒られることは無さそうだ」

「シェリーでもそこまで怒らないわよ」


 冗談混じりに談笑しているうちに、手際良く彼女の身だしなみを整えていく。頭頂部より少し高い位置に括れば、少し首を振るだけで美しい金糸の束が跳ねるように波打つ。


「できた」

「わ、ありがとう。アールってやっぱり器用ね……」

「……エレン、そのままでいいから、聞いてくれ」

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