未来予想図
布団に入って目をつむると、日中せき止められていた色んな考えが、一気になだれ込んでくる。
例えば明日の予定だったり、今日授業で習ったことだったり、ずっと先の将来のことだったり。
この中だったら一番大事なのは将来だ。
重力に引きつけられるみたいに、いつの間にか将来について頭が考え始める。
結季ちゃんとおばあちゃんになるまで一緒に過ごして、死んじゃったらおんなじお墓に入って、もし来世なんてものがあるのならそこでも当然一緒になる。
うん、間違いない。これがわたしの理想。
な、はずなんだけど、なんだかパッとしなくもあって。
「うーん」と、思わずうめいてしまう。
「なにか考え事?」
隣で寝てた結季ちゃんが横向きに体を起こして、わたしのほうを向いた。
「まあちょっとね」
パッとしなさの原因はなんとなくわかる。
それは今いる現在地と将来のゴールに対して、ゴールに向かう過程があまりにもふわっふわ過ぎるということ。
あまりにも地に足付いていなさすぎて、十年後の妄想すらできない。
代わりに思い浮かぶのはあからさまなバッドエンド。結季ちゃんとわたしがどっかの森の中で木からぶら下がってたり、サスペンスでよく見るような絶壁を飛び降りてたり、ぼろ屋の中で即身仏みたいに干からびてたり。
うーん、ろくでもない。
べったりし過ぎないようにするのを諦めたのも、この変な想像の原因だと思う。
別に結季ちゃんを信頼してないってわけじゃないんだけど、レールを外れた生き方に自信が持てないというか。
「結季ちゃん、わたしたち将来どうなってると思う?」
常夜灯の薄明かりの下で、結季ちゃんが体をもぞもぞと動かした。
「……寝る前に考えなくてもいいんじゃない?」
結季ちゃんの言うことも尤もだ。考えてたら眠れないし、そもそも明日学校あるし。
なんだけど、気になり始めたら止められないというか。
「どうしても気になっちゃって」
「そう」
短く一言相槌を打って、大きく欠伸した結季ちゃん。一瞬はぐらかされたのかもと思ったけど、単に眠たいだけかもしれない。
「ごめんね、ちゃんと寝るから」
「はーい」
間延びした声を出して、結季ちゃんが目を閉じた。
わたしも寝なきゃ。なんて思ってもう一度目をつむってみる。
『──わたしたち、死ぬときは一緒だよ。結季ちゃん』
『──麻依、今までありがとう』
『──もうどうしようもなくなっちゃったね。ねえ結季ちゃん、最期はどこがいいと思う?』
『──死んでもずっと一緒にいるから』
……寝られる気がしないんだけど。
寝る直前特有の変に澄んだ思考が、水晶玉みたいにもしもの世界を映し出している。
もういっそ、暗い作品専門の創作家になるのもいいかもしれない。なんて。
つまらない冗談は置いておいて、どうしよう本当に寝られないんだけど。
「……結季ちゃん」
睡眠のために、ヘルプコールを出す。
結季ちゃんには本当に申し訳ないと思うんだけど、このまま嫌な想像をし続けているとどうにかなっちゃいそうだった。
結季ちゃんが重そうなまぶたを持ち上げて薄く目を開く。
「ごめんね、本当に寝られなくて。ちょっと話聞いて欲しいんだけど……」
私がそう言うと、結季ちゃんはのそのそとうつ伏せに体勢を変えて、頬杖をついた。話を聞くための体勢って感じだ。
「まあいいわ、お相子だもの。私も寝られないことあるし」
そうは言われても今現在結季ちゃんの睡眠を削っているのは確かなわけで、申し訳なさが募る。
なるはやでこの袋小路みたいな思考を抜けださないと。
「人生設計が適当過ぎるなあ、って思っちゃって」
「……やっぱり昼の頭が回ってる時間に考えるべきだと思うわ、それ」
耐えきれなくなって、枕に顔を埋める。それから、覗くみたいに結季ちゃんを見た。
結季ちゃんは一つ息を吐いて。
「今気になって寝られないのだから、しょうがないのかしら。それについては、私も話し合いたいとは思ってたし」
結季ちゃんから許しを得たので、顔を上げる。
「どうやって生計立てるんだろうね。わたしたち」
「そうね。なんとかなりそうだとは思っているのだけど」
結季ちゃんの言葉に、思わず首が傾く。
なんとか……なるかなあ?
って思うのはわたしが悲観しすぎなんだろうか。
「本当に大丈夫なんだよね?」
「なんとかなるとは思うわよ。ずっと二人でいられるような……家から出ないような働き方も今どき色々あると思うし」
まあそれは確かに。ユーチューバーとか、小説書いたり……どれも難易度が高い気がするけど。
その道の人に今の会話を聞かれたら、舐めすぎだってブチ切れられるんじゃないだろうか。
「難しいんじゃない?」
「まあ、そうね。詳しく調べてないから、まだ何とも言えないけれど」
結季ちゃんは人前苦手じゃないから簡単に配信とかもこなせそうだけど、わたしには無理。
小説は……結季ちゃんは現代文得意だけど、わたしは苦手だし。
というか結季ちゃんはなんでもそつなくこなせそうな。
……バリバリ稼ぐ結季ちゃんと部屋の隅で体操座りするニートなわたしのビジョンが見えた。
さっきの心中妄想よりはなんとかはなってるけど、対等感がないからちょっといや。
結季ちゃんに負担押しつけすぎだし、なんか結季ちゃんに見限られちゃいそうだし。
わたしでもできるような、家に引きこもれる仕事とかないのかなあ。
って言う思考がすでにニートに片足突っ込んでるかもしれない。真面目に考えないと。
でも、今から更生できるかって言ったら……無理なんだろうなあ、とも思う。まず結季ちゃんがいないとこに行きたくないし、結季ちゃん以外と関わりたくないし。
かと言って、結季ちゃんがいたら今度は集中できなさそうだった。
今更気付いたけど、結季ちゃんが諦めるのも 当然な毒され具合だ。
手遅れにならないように、普通の将来が過ごせるように、って思ってたけどもう手遅れだったなんて。
普通に学校通えてるのが奇跡みたいに思えてきた。そんなんじゃダメだとは思うけど。
「わたしでも家でなにか仕事できるかな」
「できると思うけれど」
「例えばどんな仕事?」
「それはやってみなくちゃ分からないんじゃない?」
「それもそっか」
まずどんな仕事があるかもよくわかってないし。わかってない内からあれこれ考えるのも無駄でしかない。
「最悪、本当に切羽詰まったら普通に働き出すんじゃないかしら」
「そうなるかな?」
「なるわよ。きっと。私も麻依も考え無しというわけじゃないし」
……確かに、なんとかなるのかも。想像はまだ固まらないけど、将来が真っ暗闇じゃなくなった気がした。
「もういいかしら? 流石に眠たくて」
「うん。大丈夫。ちょっと安心できたから」
答えて少ししても、返事がこない。
あれ? と思って結季ちゃんをじっと見てみると、簡単には開きそうにないぐらい、二つの目が固く閉まっていた。
もう解決したとわかって、一瞬で寝落ちしたみたい。
「付き合ってもらってごめんね結季ちゃん、おやすみ」
呟いて、目を閉じる。
嫌な終わり方はもう頭に浮かんでこない。
可能性が無いわけじゃないんだろうけど、過剰に恐れなくてもよさそうだから。
代わりに浮かんでくるのは、不確かな、けれど確かに明るい未来だった。




