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2章 9話 逃亡者

ねえ、知ってる?

山にあるお屋敷の話。

ええ。知っているわ。確か誰か大金持ちのお嬢様の病気を静養する為に建てたハイカラなお屋敷の事でしょう。

そうそう!確かそのお嬢様の名前はーー


「カヨお嬢様、猫を部屋に入れてはなりません」


「でも私が見つけた子だもの。少しくらいお世話をしたいのよ。ねえクロ?」

お前もその方が嬉しいわよねとカヨが頭を撫でるとクロと名付けられた猫はなーん♪と目を細め満足そうになるがカヨはクロの毛が舞ったのかケホケホと咳をした。


「ほら、言った側から。猫は私達が見ておきますからお渡し下さい」

そうして使いはカヨからクロを引き離し部屋を出て行ってしまった。


「クロ。私がもっと健康だったらよかったのに」

(都会にある実家から山の中で静養すれば病気は治るかもと父様は言っていたけど)


カヨの病気は治る兆しがない。


寝ている時に猫が鳴く声がしたからクロを保護したから自分で世話もできないのが詳しい。


「仕方ないわ」


(ここ数日、体調がさらに悪くてクロに構(かま)ってやれなかったから張り切って遊ぶつもりだったけどそれもおじゃんになってしまった)


「何かできる事はないかしら?」


(世話ができないなら差し入れくらいわしたいわ)


「そうだわ!私が何かクロに作ればあの子は喜んでくれるんじゃないかしら?」


カヨは手芸が上手い。


「おくるみとかどうかしら?」

思い立ったが吉とばかり早速作業に取り掛かる。


しばらくしてーー

「ふあー、あら?」

寝ていたらしい。


気がつくとそこにはクロが側で寝ていた。

「ふふっ」

編みかけのおくるみをクロ合わせようとしたがそれは完成するまでにとっておこうとし、代わりに側にあった自分のブランケットをクロに掛けた。


クロの口角は確かに幸せそうに上を向いていた。




「あら、クロ。おはよう」

気づけばクロは私、ナエのベッドに入り込んでいたようだ。


目を覚ましたクロはあくびと伸びをしまだ眠そうだ。

「おはよう。ナエ、まだ朝から早いよ。寝てよねてよ」

フロントに私が立つまで時間がありすぎるせいかクロは必死に上目遣いをするがそれには頑(がん)と断る。


「ダメよ。最近落ち葉が酷いからホテルの照明玄関のはわきを手伝う話をハナちゃんとしたのよ」

「ちぇっ」


拗ねるクロを見て私は改めて考える。

(不思議)

数日前のハロウィンパーティの日、私は確かにクロの獰猛な

姿を目撃した。


今は拗(す)ねた甘えたい盛りの男の子に見えて改めてすごい場所に嫁いでしまったのだと我ながら思っていると

「どうしたの?」

とクロが声を掛けた。


「なんでもないわ。さあ朝食は今日は部屋で取るからクロの分ももらってくるわ。

一緒に食べましょう」


「うん!」

ピンとしてキラキラした目をしたクロを見るとなんだかこの間のクロの事はどうでもよくなった。


(あれから蝋燭(ろうそく)の火が1つ消えたって宗介様喜んでいたし、クロの事もだけど今はクリスマスに向けて張り切らなきゃよね)


そうしてクロと朝食を食べて私はハナちゃんが待っている正面玄関に向かった。


すると

「あの、困ります」

とハナちゃんの声が聞こえた。


(どうしたのかしら?)

ハナちゃんの側にボロを着た男性が慌てた様子で彼女に話していると彼女は私が来たのに気がついた。


「奥様よかった。すみません。

この男性が困っていらっしゃって」

「ええ、見ていたわ」

(私が解決できる事だといいけど)


男性の方をチラッと見ると彼の顔は意外にも整っていた。


「あなたがこのホテルの奥様?」

「はい」


「お願いです。ここで少しの間ここで休ませて下さい!」




「驚いたよ。そんな事ならここでしばらく休むといい」

応接室、私と男性を向かいに座った宗介(そうすけ)様は快諾した。


「災難だったねえ。えっと名前はー」

「長居 弥七(ながい やしち)といいます。」

「弥七さん、しばらく休んだら馬車を出させて送らせるから」


話によると彼は山の麓麓(ふもと)の花巻の屋敷の街で職を求めて転々としていた。


「ありがとうございます。

しかし、手持ちの金もない。

何かお困りな事はありますか?俺なんでもします」

「頼もしいな。じゃあいくつか雑用を頼むから昼まで手伝ってもらおうかな」

「はい。俺力仕事なら得意ですのでなんでも使って下さい」


弥七さんは素直な青年だ。


宗介様が彼について聞くと

弥七さんの家は貧しく、その為に日々高い給料を貰える仕事を紹介される度に日雇いの仕事を受けていた。


そんな中、屋敷の警護中何やら隣の屋敷からガシャーンと物音がした。


「茶々(ちゃちゃ)、戻ってきて!」

(なんだ?)

弥七さんはそう思っていると何やら隣の屋敷の飼い猫が逃げたらしい。

「お願い!追いかけて。捕まえてきたらお金はいくらだってあげる」


「断る訳にもいかず、そのまま隣のお嬢様に言われるがまま猫を追って山まで入ったらすぐに陽が落ちて」

遭難(そうなん)しかけ朝になりこのホテルを見かけたそうだ。


「見つけた時はもう天が味方してくれたかと思いました」

「大袈裟(おおげさ)だなあ」

「大袈裟じゃないですよ。寒いし前は見えないし大の男が情け無いが心細いったらなかったんですから」

「すまない。そうだったな。

弥七さん、そうだ。雑用を任せるから着替えも貸そう」

そうして宗介様は彼にシャツやズボン、上着や帽子を渡した。


「なんだか洋服なんか初めて着たから変な感じだ」

「似合っているよ。まるで俳優みたいだ。なあナエさん」

「はい」


「じゃあ着てもらってなんだけどここには暖炉もソファもあるし昨日も遭難しかけたらなら寝なきゃだな。起きたら昼食を用意してるからそれから1つ雑用をお願いするよ」


「何から何までありがとうございます」

「困った時はお互い様だ。さあナエさん俺も今日はフロントに立つよ。表に出ようか」

「宗介様が?なんだか緊張します」

「まあ、たまにはね」

そうして私達は弥七さんを休ませる為1人部屋に残し仕事を開始した。


しーん。

彼を残した一室は急に静かになった。


「やっと行ったか。よし、金庫はやっぱりこの部屋だな。くそっ、生意気に床に錠(じょう)なんていくつも付けやがって」


そう言い放ったのは他でもない弥七だ。

素直でお人好しな弥七の正体は実にろくでもない犯罪を犯しては逃げつつけている卑劣な輩だった。


もちろん宗介に話した身の上話も真っ赤な嘘だ。


「マッポに見つかったかと思って逃げたけどよう、その先も金がある場所だったとは天は俺に味方してくれているよなっ」


(さて、ダイヤル式の鍵だからこいつを開けるにはは1分もかからねえ)


数桁の番号が任意で数字が振る事が出来るタイプの鍵がかかっている。


そういったタイプの鍵は鍵の蓋を開ける方向に引っ張っり1桁づつ数字を探っていくと正解の数字の時に鍵が緩(ゆる)くなる。


開錠するにはそれを何回か試すだけだ。


しかしそれを制すように黒い塊が彼の前に現れ威嚇(いかく)した。


「フーーー!!」

クロだ。

「なんだ糞猫(くそねこ)」

弥七はツバをクロに掛けると怒り暴れ出した。


『許さない。許さないぞ畜生(ちくしょう)が』

ムクムクッとクロの中にいるもう一つの顔を覗(のぞ)かせた。


「ひっ、なんだお前!?」

しかしクロは弥七を睨むだけで何もしてこない。


しかしなんだかその顔は凄みがある。

(今、こいつの声がしたのか。

嫌、馬鹿な)


「気のせいだな。じゃあ続きをーーって痛え!!」

バリバリ!!


容赦(ようしゃ)なしにクロが弥七の顔に爪を立てる。

しっかり痛々しい顔になった弥七がフラフラになりバタンと倒れたからか宗介とナエはそれに気づき応接室の扉を開けた。


「弥七さん!?って馬鹿猫!何してるんだ。

ナエさん、お願い。彼を手当てして」

「はい!」

そうして宗介はクロを弥七から引き離す。

「馬鹿猫だと。こっちのセリフだ馬鹿者!」

「なんだと!?」


「クロ、宗介様!」

喋りだしたクロが弥七にバレると思いナエが手を身振り手振り振ったがもう遅い。


「これはどういう事だ!?」

目を白黒させた弥七に宗介達はあちゃーと頭を悩ませた。


そうしてクロは夕方前に弥七が帰るまでナエの部屋で謹慎(きんしん)になった。


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