7話 ハロウィンパーティー
新聞を通しての反響があったのかホテルの客足は以前よりも増えていった。
そうしてハロウィン当日
ランチヴィッフェでこの日は料金を払えばヴィッフェだけを誰でも食べれるのでいつもよりもロビーには沢山人が集まっていた。
「よし、ナエさんハナちゃん受付をお願いするよ」
「はい」
宗介様の一声でヴィッフェ会場の受付が始まって私はいつもは客室のお掃除をしているハナちゃんと受付に立った。
「奥様も今日は黒猫なんですね」
黒猫のカチューシャを頭に付けた私は同じカチューシャを付けたハナちゃんに言われる。
「ええ。クロみたいだからしてみたの。でも付けてみると少し気恥ずかしいわね」
「よく似合ってますよ」
「ありがとう。ハナちゃんも」
ハナちゃんと話しながらお客様に仮装するカチューシャを渡すと最初は馴染みがないからか戸惑っていたけど私達が付けてるのを見るとせっかくだからと付けてくれた。
するとどこからともなくズンズンとこちらにやってくるお客がいた。
鈴香とその友人。いや取り巻きだ。
「あら、アンタここでもこき使われてるじゃない」
「鈴香!?」
なぜここにと思ったが事情は鈴香が喋り出した。
「私はこんなとこ行きたくなかったけどこの子達がどうしてもパーティに参加したいらしいから来てみたの。そうそう、お母様達も一緒よ」
「え」
(まさかお母様や友達も連れてくるなんて)
鈴香の友達がパーティや催し事が好きなのは知っていたけどここまで来るとは思っていなかった。
鈴香は私を上から下まで見る。
「嫁いでも働かせるなんていい気味よね。
まあ私は無理だけど」
とりまき達とクスクス笑いながら皮肉たっぷりの捨て台詞を吐いたかと思ったら鈴香は勝手に会場に入っていってしまった。
後ろから母達も続いて入っていった。
「なんなんですか。あのお方!」
よほど憤慨したのかハナちゃんは小声で私に激昂する。
「まあ、ああいう子なの」
と言うしかない。
(まあ、ヴィッフェパーティだからそれまでの我慢よ)
まあ彼らが宿泊してなければの話だ。
しかし、だ。
「ちょっと、飲み物が足りてないわよ」
「ねえこのデザートはもう切れてるわよ。新しいのを持ってきてちょうだい」
「なんだかこの会場暑くなくて?」
彼らはなぜか全て私に言う。
席に座って素直に飲み食いしてたと思ったらこうだ。
(分かっていた。
あの人達がただヴィッフェに来たわけじゃないって事を)
あまりの忙しくさに目が回る。
「奥様どうしましょう」
ビッフェが始まって30分ほど。
ホテル猫柳開館以来の満員御礼で猫の手でも借りたいのは正にこの事だ。
「会場はまだ給仕の方もいるから大丈夫よ。
ハナちゃん私が会場にいるからキッチンからデザートを取って来れるかしら?」
「分かりました」
すると奥のステージにパッと明かりが付いた。
「皆様、お食事の途中ですが失礼します。
箸は、いえスプーンは進んでいますでしょうか?」
客から笑いが一瞬起こった。
(宗介様、始めるのね)
「私、このホテルのオーナーの犬屋敷と申します」
今度はへえ、ほうとざわつきが起こる。
もれなく花巻の家の席も同じように反応した。
鈴香は宗介様が名乗ると私の相手だからだろうか。
フンっとした様子で視線を変えた。
「パーティですから出し物と用意しました。豪華景品!」
まわりからはわっ!と声があがる。
「いいですか。皆さん、席から立って私とジャンケンしましょう。
負けとあいこはそこまで。ゲーム終了。
残った人が今日の勝者です。
1位の景品はなんとホテル猫柳、クリスマスディナー、宿泊無料券!」
おお!と席は湧いた。
が花巻の家は違った。
「ハッ、くだらん」「本当よね」と父様、母様。
「こんなとこに泊まりたい人なんかいるのかしら?」
鈴香の声が少々響いたからか周りの席の人は戸惑う人がいた。
(やめて。
泊まりにきてくれた人もいるのよ!)
宗介様大丈夫かしらとも思ったが彼はノーダメージだからか次の3位までの景品の紹介をしている。
「ああ、さっきから言ってるけど暑いわね。
あんたはボーッとしてないでそこのジュース持って来て」
鈴香はさっきの一言にお客が便乗して怖い、帰ろうと言わなかったからか不機嫌なままだ。
「え?」
(今日はヴィッフェだから、それは無理よ)
「あの、ここはホテルで今日はヴィッフェです。
メニュー表にある他のドリンクなら」
持って来れますと言おうとする。
「え、何?客の注文を断るの。あ~あ、後でオーナーに伝えなきゃ。おたくのホテルのスタッフのサービスは災厄よって。暑くて体調が悪くなったらどうするのよ?」
仕方ない。
ジュースを注いで鈴香のテーブルに置くーーはずだった。
バシャ!
きゃあ!と上がる悲鳴。鈴香のものだ。
「ちょっとかかったじゃない!」
と言われたが私は彼女にグラスを持ってた方の手を引っ張っられたのだ。
他の客は宗介様のステージに夢中だが流石に鈴香の声に一同バッとこっちを向いた。
「着物も髪も濡れてどうしてくれるの!」
「申し訳ありません。タオルお持ちします」
(宗介様には見られたくなかった)
確か庵さんに聞けばタオルの場所が分かる。
急がなきゃと回れ右したらまた鈴香は言った。
「ねえ、この着物弁償してくれるのかしら?」
その言葉に
大丈夫かとまわりはザワザワし、ステージにいる宗介様もゲームを中断した。
私に弁償は無理だろうと思ったのか鈴香は今度は宗介様に聞く。
「この着物それなりに値が張ったのよ。
宿泊券とディナーが何回分かしら?
ねえオーナー、弁償して頂けますよね」
「わ、私がします」
(頂いてるお給料をずっと返したらいつかはかえせるかも)
と鈴香に言うが
「アンタが、それこそ待ってるだけで私おばあさんになっちゃうわ」
と笑われて終わりだ。
「私はオーナーに聞いているの」
「分かりました」
マイクを通して宗介様は答える。
その回答に会場はおおっと声が湧く。
「では応接室へ行きましょう。
じゃあ仕切り直して私の役はこの者が」
宗介様はいつの間にか隣に来ていた庵さんにマイクを渡す。
「ではオーナーに変わり私がじゃんけんをいたします」
宗介様はと言うとステージを降り、鈴香の前にやって来た。
「お騒がせしました。
場所を変えてお話ししましょうか」
宗介様はこんな時もスマートに対応する。
「仕方ないわね」
「よかったらご家族やお友達も。
ナエさん、よかったらデザートと飲み物をカートで応接室に皆様の人数分持ってきて」
「ちょっと、このスタッフも一緒じゃないの!?」
私、こっちにも文句があるのと鈴香は吠えている。
「ええ。でも喋るとお腹も空きますし喉も乾くでしょう。ですので彼女には後で来てもらいますからまずは私に話して頂いても?」
「ー仕方ないわね」
行くわよ!とその場にいた家族や友人に目配せし彼女達は渋々応接室に向かった。
しかしこの者達は知らなかった。
招かれざるのは自分達じゃないという事をこれから得と味わう事になるのだ。




