3話 仕事
「部屋はシングルはこんな感じ。スウィートは後で行こう」
「はい」
ホテルはどの部屋も落ち着いた家具でまとめられていて素敵だった。
聞いてはいたけど旅館とはまた違うものなんだと発見が多かった。
「旅館とは造りが違って驚くよね」
「はい」
(不思議。宗介様は私が考えてた事が分かったのかしら?)
「でもね。なんでもうちのウリは大浴場なんだ」
「ホテルにも大浴場があるんですね」
(入った事はないけれどやっぱり旅館でもホテルでも温泉はあるのかしら?)
「普通、ホテルには大浴場はないんだけどここは前誰か富裕層の静養所だったところで湯治にも興味があったのか作らせたらしい」
「え、大浴場ってホテルにはないんですか?」
「うん。基本シャワーで済ませる人が多いみたい」
「でもうちの客は日本人がほとんどだ。もちろん外国人も今から増えていくと思うけどここを買い取った俺としては良い場所を見つけたと思ってたんだけど」
その結果、ねと宗介様は言いたげだ。
「早くクロの願いを叶えなきゃですね」
「そうだね」
彼はクスッと笑うと
「ナエさん次の場所に行こう」
と私の前を歩いた。
「ここがレストラン」
中に入ると厨房にはナエよりも年下の女の子達も働いていた。
「お疲れ様」
宗介様が皆に声を掛けると
「オーナー、お疲れ様です」
と挨拶する。
「訳あって身寄りがない子達もいるからうちで雇ってるんだ」
コソッと話す彼を見て女の子達は
「オーナー、もしかしてその方は奥様ですか?」
きゃあ!そうなんですか?
と厨房にいた女の子達が集まってきた。
「そ・・・、そうだ。こちら花巻 ナエさん。
彼女はホテルマン補佐として働いてもらうから俺が今、案内しているって訳」
改めてフリなのに奥様と呼ばれると気恥ずかしい。
「じゃあ、別の場所を案内するから」
それは宗介様も一緒だったみたいですぐに退散したからか女の子達ももっと見ていっていいのにと不満そうだった。
そうして上階のスウィートルームを見終わって下の階に戻る時、スンッと誰かが啜り泣く声が聞こえて辺りを見回した。
「ナエさん、どうかした?」
「誰かの鳴き声が聞こえて」
見ると踊り場の隅で女の子が泣いている。
「大丈夫?」
女の子に声を掛けると彼女はいきなり声を掛けられびっくりしたのかボロボロ泣き出した。
「よしよし、怖くないわ。大丈夫よ」
ナエはハンカチを渡し女の子が落ち着かないか頭を捻った。
「宗介様、ハンカチをお借りしていいですか?」
「いいけど何に使うの?」
「ちょっと」
そうしてナエはハンカチでクマを折って女の子に見せると彼女は泣き止んだ。
「すごい」
「そのハンカチでも作れるわよ」
「教えて!」
「ええ。でも、どうして泣いていたの?」
「みんな私と遊んでくれないの。ここは楽しいとこって聞いていたとこなのに」
「じゃあ、私と遊んでくれないかしら?」
いいですか?と宗介様に目で聞くと
「じゃあ、休憩室にいようか」
と彼は提案すると女の子の顔はぱあっと明るくなった。
そうして手を繋いで下に降りた、はずだった。
「あれ?」
休憩室の扉を開ける時、一瞬手を離したら彼女はいなくなってしまった。
「あれ、女の子は?」
「消えたみたいだよ。満足したみたい」
宗介様の言葉にハッとする。
「幽霊だったのかも。ナエさんが遊ぼうって言ってくれたから嬉しかったんじゃないかな」
「そうだったんですね」
全然気づかなかった。
「今みたいに満足したら消える子もいればクロみたいに消えない子もいる」
「宗介様はやっぱり今みたいな事に慣れてるんですね」
「ここを買ってから毎日見てるから慣れたさ。
どうやらここにいるクロ、アイツがいるからか従業員にも霊や妖が見えてしまってね。
辞めてしまった者もいたから人手が欲しいっていうのもあったんだ。
だからナエさんが来てくれて助かる」
「いいえ。できる事をしただけで」
「いや、俺じゃ何もできない。
俺も霊が最初見えた時は驚いた。
だけど仕事上彼らにも客を驚かせないで欲しいとなんとか頼んでみた。
まあ、俺がオーナーだからか怯えていたからかそれからも出るからどうしたものかと思っていたんだ」
「さっきの子みたいに霊と遊んだり話を聞いたりできればこちらの願いも聞いてくれるかしら?」
「多分。こればかりはやってみないと分からないけど」
そうであってくれと願うように犬屋敷様は自身の手にギュっと力を込めて握ったように見えた。
(私も何か役に立ちたい!)
「あの」
下を向いた彼に話しかける。
「私、お客様のもてなしにはホテルのお仕事と比べては少しですが自信はあります。
必ずここを良い場所にしますから、だから、だから」
(よろしく?なんと言ったらいいかしら?)
と口から先に出てきた言葉をまとめようとする。
「ははっ、分かってる。ナエさんには期待しているよ」
「!はい。よろしくお願いします」
そうして猫又ホテルでの嫁入り兼ホテルの従業員補佐としての日々が始まった。




