番外編1 今昔恋物語③
「あ、ごめんなさい」
女の子は涙を掠りの袖でゴシゴシ拭く。
「謝らなくていいよ。君、お客様?」
「はい」
どうやらその子は妖怪じゃないらしい。
女の子は事情を話す。
「厠をお借りして家族のいる部屋に戻ろうとしたけど迷ってしまって。あと、あとーー」
なるほどやっぱり迷子かと思ったが女の子の心配事は他にもあるらしい。
女の子は下を向いて窓の外に怯えているように見える。
「もしかして、犬塚が気になるの?」
そう聞くと女の子の顔はさっきよりパアッと明るくなった気がした。
不思議だ。
決して笑顔じゃないのに心を開いてくれたんだろうと思うといじらしい。
「分かるの?あれ、犬のお墓なんだ。
俺のご先祖様が犬をね虐めたからあのお墓を作ったらしいよ」
「え、じゃああなたは?」
女の子が尋ねる。
「俺?俺は犬屋敷 宗介いぬやしき そうすけ。この旅館の息子だよ」
しかし自己紹介すると
「ごめんなさい!無礼な事を言って」と女の子はまた俺に怯えてしまった。
「大丈夫だよ。俺、怒らないよ」
女の子はえ?という顔をして不思議そうだ。
「だって父上俺がちゃんとしないと毎回犬神が怒るぞーなんて言うけど全然なにも起きないし」
女の子は怪訝な顔をしている。
「ねえ、君はもしかして幽霊とか見えたりするの?」
宗介の言葉に女の子は困り気味だ。
「少しだけ」
女の子の返事には嘘が混じっていたが気づかない宗介はすげー!と尊敬の眼差しでその子を見る。
「そんな風にすごいって言われたの初めてだわ」
クスッと笑うと更に可愛らしい。
「よかった。やっと笑ってくれた」
なんて言うと女の子は少し照れくさそうに微笑んだ。
そうしていると宗介はやっと立ち話をしてないでこの子の両親を探さなきゃという事を思い出した。
「よし。もっと話したい事たくさんあるけど君のご家族が今頃心配して探しているなら俺達から会いにいってあげようよ」
きっと安心するよと何気なく宗介はその子に言うとまた笑顔が消えて宗介の気は動転した。
(え、迷子だよね)
これには宗介もどうしたら良い分からなくなった。
こういう時はいつもこのようにすればみんなこういう子達は笑顔になるはずだ。
はずなのにーー
今のこの子はとても、とても悲しげな表情をしている。
「ごめん。やっぱりやめよう」
「え?」
宗介の提案に女の子は驚いた。
「ねえ君、いい提案があるからさ。
俺の言う通りにしてくれない?」
そうして宗介は一緒に話し相手になるよう提案した。
「万が一、怒られそうになったら風邪をひいて倒れたところを君が俺を看病してくれたんだって事にするから」
「でも、大人達にバレないかしら?」
「大丈夫だよ!」
そうして宗介と女の子は物置で長い時間話していたが旅館の中では女将が行方不明になったお客様の子を探していた。




