番外編1 今昔恋物語②
(もう嫌だ)
ここは西の老舗有名旅館、犬屋敷。
大将の息子である8歳の宗介は日々、父や母に頼まれてやる旅館のお手伝いに嫌気がさしていた頃の事だ。
まだ8つの宗介はいつになく不機嫌だった。
理由はただ1つ。
こんな実家嫌だという実にシンプルなものだった。
学校に行けば周りはお金持ち、お坊ちゃまとチヤホヤするが宗介だって思い切りまわりの子と同じようにふざけて遊びたいがそれもできない。
家に帰れば手伝いが当たり前で土日は更に両親は仕事で構ってくれない。
(家は広いだけで古臭いし)
大人達はすごいね、こんなとこに住めて素晴らしいなんて言うが宗介からしたらそんな事どうだっていい。
むしろ誰か変わってくれるならそうしてほしいと思っていた。
(それにうちには犬神の呪いがあるって父上は言うけどさ)
確かに旅館の裏手に犬塚があるのは知っているが父がたまに宗介をお手伝いをサボったりする説教のお約束としてちゃんとしないと犬神の祟りが起きるぞなんて言われるくらいだ。
「まあ、本当か分かんないけどねえー」
最低限のお手伝いをし、奥の部屋の押し入れにこもりながらお客にもらった饅頭を食べる。
今日は土日で中々忙しい。
平日だったらもっとサボれるのに。
(あんまりサボると庵が探しに来るからなあ)
なるべく人が少ない場所で時間を潰したい。
「あ、そうだ!」
犬塚だ!
犬塚があるとこは客室から離れているし人の出入りもない。
あるのは通路と物置くらいだ。
「よし決まり!」
物置なら雑誌や宗介の使わなくなったおもちゃも閉まってある。
そうと決まれば宗介は物置の方向に向かおうとした。
しかし、だ。
「クスン」
誰かが啜り泣くような声がして宗介は足を止めた。
(なんだ!?)
通路に誰かいる!と壁に隠れた宗介が声のする方を見るとそこには黒髪で瞳を涙で濡らしたかわいい女の子がいた。
(掠りを着ているけど妖怪?じゃないよなあ)
お客様の子どもが迷い込んだにしてはちょっと格好がちゃんとしていないっていうか。
(お客様の子どもかも分からないか?)
たまたま旅館に入って来る事なんてあるか分からないが、そこを通らないと宗介は物置に行けない。
(しっかりしろ!相手は女の子だし、俺の方がいくつか歳上に見えるし!)
たとえ妖怪だったとしてもこんな可愛いい子だったら全然いいや!なんて考えながら宗介はその子に声を掛けた。
「ねえ、君どうしたの?」
女の子が顔を上げると宗介は更にその子に見つめられ魅入ってしまった。




