最終話 クリスマス
「いらっしゃいませ。お客様、ご予約でしょうか?」
「予約です」
犬神との戦いからしばらくしてホテル猫柳の待ちに待ったクリスマス当日、私ナエはいつも以上に忙しく過ごしていた。
それはホテルにいるみんなも同じだった。
ただ違うのはクロがいない事だ。
ホテルのロビーではみんなと飾りつけしたツリーが立っている。
「クロ、ホテルはすごく賑わってるわよ」
あれからクロをあの後みんなで探したけれど残されたのは全て火が消えた蝋燭台だけでやっぱり、クロの姿は見つからなかった。
「クロ、今頃はカヨさんと一緒にいるかしら」
なんてと私らはツリーのてっぺんの星を見る。
宗介様も私にも変わらず笑顔で接してくれるし、仕事も今日はいつもより張り切ってるのが分かるけど
やはり、クロがいなくなって1番悲しんでいるのは宗介様だ。
目まぐるしくクリスマスディナーも終わり、ホテルはまたシンと静かになる。
私は仕事を終えて、宿泊棟の別棟に戻る前になんとなく教会に来ていた。
クリスマスのこの日ばかりはまだ教会は灯りが付いていてお客様もまだ中を見たりしているので私は近くにあるカヨさんのお墓、正確にはここにカヨさんは眠ってないけど、もしもこのホテルが屋敷だった頃に容態が変わったらここに眠る予定だった場所に来てみた。
すると先客がいた。
宗介様だ。
彼は私の声に振り向くと少し驚いていた。
「ナエさん、お疲れ様」
「宗介様、奇遇ですね」
「なんとなくクリスマスだからね。
教会の方に来てみたらお客様が多くてね。
こっちに回って来たんだ」
「全く同じです」
すると特に喋る事がなくなったのかお互いに静かになった。
私はクロがいなくなった今、もう1つ気がかりな事があった。
(クロのホテルに掛けた呪いも、犬神が宗介様に掛けた呪いもない)
つまり、私が無理して宗介様と仮初の夫婦を演じなくてもいいのだ。
(クロの戦いが終わった日、宗介様に口付けをされたけど、あれはやっぱり気持ちが高ぶったからでやっぱり気のせいという事にした方がよかったかしら)
あれから宗介様は私が倒れていたからか体調は気遣ってくれていたが甘い雰囲気にはならない。
当たり前だ。
クロもいなくなって彼は落ち込んでいる。
(と、いうか元々は仮初だからやっぱり私はお役御免よね)
遠くを見ている宗介様はクロを思っているのか切なそうな顔をしている。
「宗介様、お話があります・・・」
「ナエさんも?」
「え?」
私はそれとなく夫婦役についてもう役割が終わってどうするかを彼に聞こうとしていた。
悲しいけど、クロと一緒にいるって約束した。
クロはいなくなったけど私はホテルの一員として今までと同じ仕事をして、もしも、もしも宗介様が他の別の誰かと婚約する事になっても、宗介様が許してくれるならこのホテルに残るーーなんて身勝手だけど覚悟した。
しかし宗介様は私の話を聞く前に
「待って。俺の話を先に聞いて」
と言ってきた。
「なんでしょう?」
「ナエさん俺達って今、仮初の夫婦だよね」
「はい」
(来た!
宗介様も同じ事を話そうとしてるのだわ!)
私は振られると身構えた。
「だから今から仮初から本物の夫婦になるのはどうだろう?」
「はい!・・・はい!?」
私の頭は混乱した。
宗介様も私の返事にどっち?と困惑してる。
「宗介様、今何て?」
あまりに取り乱す私に宗介様はもう一度言った。
「ナエさんさえよかったら、俺のお嫁さんになって下さい」
そう言われて私はその場にへなへな~と座りこんだ。
「ナエさん、大丈夫?」
宗介様が私を支える。
「てっきり、仮初だから私振られると思って・・・」
本音を言うと宗介様は
「だからナエさんが緊張して見えたのか」
と笑った。
「考え過ぎだよ。
最初からなんとも思ってなかったらそもそも仮初でも夫婦になってくれなんて言わないから」
「確かにそうですよね。
あれ?でもそうしたらーー」
(宗介様はいつから私の事を想っていてくれたのかしら?)
そんな考えが頭をよぎってると茂みからか細い声が聞こえた。
「に、にゃ~」
静かな場所に確かに聞こえたので私達は顔を見合わせた。
「大丈夫かしら?」
茂みに割って入る。
「ナエさん、見える?俺が見てみるから」
宗介様に言われて2人で茂みを探すとそこにはクロみたいな黒い、だけど痩せ細った子猫が現れて私達はまた顔を見合わせた。
「驚いた。クロ2号じゃないか」
「本当に!」
私達は笑い合うとすぐクシャミをした小さな黒猫を抱いてホテルに戻ると庵さんや草さん達がすぐにミルクを用意してくれた。
「中々悪くないクリスマスだね」
笑顔の宗介様に
「ですね」と私も笑う。
**********
ホテルの前、拾われた1匹の黒猫はナエの膝の上によく寝ていた。
「おかしいわ。
なんだかこの子尻尾が2つに割れてるように見えるわ」
見間違いかしらとナエは必死に目をこらす。
エサを持ってくる宗介は
「ナエさんは霊感があるからなあ。それか疲れているとか。どれどれ~」
と俺が見てみるよと子猫を抱っこする。
しかし、黒猫は誰かに似て生意気だ。
ガリガリで子猫のくせにどこにそんな力があるのか宗介が抱っこをすると気に食わないのかお前じゃない!と言わんばかりにそっぽを向く。
「こら、クロ2号!こんなとこまでアイツに似上がってーー」
生意気だと宗介は言うが黒猫はお構いなしだ。
すると誰かさんみたいに黒猫は「な~ん♪」と鳴いた。
驚いてナエと宗介はまた顔を見合わせた。
「久しぶりだな。ナエと小僧」
驚きすぎて口を開ける2人にクロ2号は呆れた。
「小僧って、お前は子猫のくせに可愛げが全くないのな」
やっと宗介なクロ2号に切り替えしたがまだ信じられない。
中身がどうしたってこの子猫はクロそのものなのだ。
「どういう事だ!?説明してもらうからな」
そういうと子猫は笑い
「化け猫が猫又に転生したって言えば分かるかよ」
と憎まれ口を叩く。
「全くお前は!」
「なんだ!やるのか!?」
また宗介とクロの喧嘩が始まりそうだとナエは仲裁しようとしたーー
「大歓迎だ!」
宗介はそう言ってクロの頭にぽんっと手を置く。
これにはクロもナエも目が点になった。
「お帰り。クロ」
「ただいま、ナエ」
久しぶりの再会に1人と1匹は宗介そっちのけで抱擁を交わした。
が、宗介はそれを引き離す。
「こら小僧、邪魔するな。俺とナエはずっと一緒にいるって約束したんだ」
「はあ?俺だってナエさんにプロポーズしたんだ。ねえ、ナエさん」
「はい」
幸せそうに笑うナエにクロはまたヤキモチを焼く。
「小僧ーーーー!貴様、また呪ってやる!」
「お前、猫又になったんだろ」
「あ」
こうしてホテル猫柳、初めてのクリスマスは騒がしくふけていき思い出深い聖なる夜になった。
そうして、麓のナエがいた村や遠くには新たな噂が流れた。
**********
ねえ、知ってる?
山にあるホテルの話。
その昔、そこには化け猫がいて迷いこんだ人間を化かしては食べようとしていたんだって。
まあ、怖いわ。
でも、今は賑わっているし猫又を見た事があるって人がいるって聞いた事があるわよ。
猫又?じゃあ神様がいるホテルって事?
そうみたい。
ねえ、そのホテルの名前を教えてちょうだい。
いいわよ。そのホテルの名前はね
ホテル猫柳。
若い夫婦がやっていてたまに黒い猫又が現れるんですって。
【番外編に続く】




