16話 三角関係2
「見つかったって聞いたよ」
クロを見つけて自室で彼を休ませた後、少し体調が戻った宗介様に私は彼の部屋で言われた。
「宗介様、ちゃんと寝とかなきゃダメですよ」
毛布を被るよう勧めるが彼は断り
「そうだけど心配になるよ。
聞いたよ庵から。
アイツ人の姿になってナエさんに色々したって。
心配くらいするでしょう。
番になんて。
仮初であれ一応ナエさんの旦那なんだから」
宗介様の顔がジイッと私を真剣な眼差しで見た気がした。
しかし、私は中々宗介様を直視できない。
(も、もしかして宗介様、私の自惚れじゃなかったらクロに焼いているのかしら?)
彼がこんなに不機嫌な顔を見せた事はない。
確かに犬神の件で頭を抱えていて険しい顔はしていたけど。
(こんな事、今までの宗介様に言われた事なかったし、弥七さんの時はすごい剣幕だったけど今はなんというか、いつもより少年っぽくムキになっている気がして
ーーなんだか私もらしくないけどそれがたまらなく嬉しい)
「ナエさん?」
私がそっぽ向いて顔をこわばらせていたからかま宗介様は私を怒らせたかと思ったらしい。
「いえ大丈夫。
クロはカヨさんと私を重ねたんです。
きっと大事な人だったのでしょう。
でも大丈夫ですよ。
クロに少し口を付けられたけど話せばこのホテルにずっといたいって言っていたし」
「は?アイツ、ナエさんにキスしたの!?」
何やってるんだアイツはと宗介様はすごい顔をしている。
「キスっていうかクロは猫ですよ。
頬にだし、私は気にしていませんから」
「どこにしても同じだよ。
くそっ!あ~~~、ナエさんごめん話、続けて」
まだ具体的にこれから犬神の件はどうするか決めていない。
クロが何か手を貸すのが嫌だというのなら考えはないけど手がかりを探さなきゃという事を宗介様に伝えなきゃいけない。
「はい。でもその前に一旦私、外に出てもいいですか?」
「え、いいけど?」
なぜかと聞かれる前に私はいてもたってもいられず通路に出た。
(今の宗介様の絶対ヤキモチという奴よね!
そう思ってもいいのよね)
その場にしゃがみ込んでいると前から
「何してるの。ナエ、百面相?」
と誰かの声が聞こえた。
クロだ。
「クロ、違うわよ」
「ふうん」
俺にはそうとしか見えなかったけどと私の部屋から抜け出してきたのかクロは呆れながら何から話そうかとモゴモゴしている。
「どうしたの、クロ?」
さっき、ずっと一緒にいるって言ったのにすぐに戻ってこなかったからクロから私を探しに来たのかと私は思った。
「ごめんなさいね。
宗介様に簡単に話して戻るから」
と応接室のドアの前に向かうがクロが私の肩にピョンと飛び乗り
「ナエ、アイツが治ると嬉しい?」
と聞く。
「ええ。もちろん」
『ねえ中々楽しそうよねクロ?
あ、あなたはもちろん看板猫よ』
そう笑うカヨをクロは思い出す。
今、確かに過去、カヨの描いたようにこの建物はカヨを療養するための西洋屋敷からホテルへと変貌を遂げたのだ。
そうして、そうさせたのは認めたくないけれどそれはナエが恋して病まない犬屋敷 宗介。
あの男なのだ。
「ナエ、本当はね言いたくなかったけど俺のあと1つのこの願いを使えば力は出せる」
「!本当?クロ。犬神に勝てるの!?」
「分からない」
あくまでクロは化け猫でも猫だ。
勝てる見込みがあるかも分からない。
「そんな!」
クロが傷つくなんて耐えられない。
「ダメよクロ、やめて。お願いよ!」
「でも他に方法が思いつかない」
クロは私の頭を撫でるようにぽこぽこと丸い手を頭に置く。
すると応接室の扉が開いて声がした。
「俺も反対だね」
宗介様だ。
「声が聞こえたから出てみたけどいくらお前の力でもそんな事に使えなんて言えないだろ。
格好つけるな」
言わせるなと言いたいのか宗介様なりにクロを心配しているのだろう。
お互い中々素直じゃないのだ。
「言うようになって。
お前は会った頃から変わっちゃいねえ」
とクロは憎まれ口を叩く。
クロは宗介がこの場所に来た時の事を思い出しながら話していた。
これはまだ半年以上前、ホテルがカヨの屋敷だった頃に遡る。
1回目は宗介が屋敷に視察に来て、クロは姿を現さず妖仲間を使って追っ払ったが、
中々彼はしぶといのか宗介は
「新しくホテルを開けば、気味悪さはなくなるさ!」
なんてほざいて、気がつけば土地や建物を買われ我慢ならなかったクロはついに宗介の前に姿を現してこのいけすかない青年をなじった。
「おい、ボンボンめ!
金儲の為にこの場所を弄り放題しやがって、一体全体どういうつもりだ」
しかし青年、宗介は引かない。
「金儲け?まあ確かに半分は当たりだけど半分は違うよ」
「どういう事だ?」
もったいぶってイライラさせる洋服を着た西洋かぶれの事なんてクロは聞く耳を持ちたくなかった。
「俺の理想のホテルにするんだ」
「ホテル?」
(カヨが夢みていたあのホテルと確かにこいつそう言ったのか?)
意外な顔でクロは宗介を見る。
「あ、ホテルっていうのは西洋風の旅館でーー」
「知っている」
「じゃあ、話は早い」
なんだこいつはと呆れながらクロは宗介の話を聞いた。
「向こうのホテルではサービスが素晴らしいんだ。
それにヴィッフェやパーティ、結婚式もホテルでできるらしい」
すごいだろ!と宗介のホテルと旅館はこんなにも違うんだという話は夕方まで続いた。
(なんだこの男は)
物好きな変人がいたもんだ。
そうしてどこか、カヨみたいな事を言う奴だとも思った。
(危ねえ。野郎がカヨみたいな訳ねえだろ)
クロは頭を振って目の前の男を見直す。
クロは宗介が思っていた金に卑しい奴じゃないと見るとなんだか喰ってしまおうかという気も無くなった。
「お前、本当に金にはあんまり興味がないんだな」
「当たり前だろ。犬屋敷の家に生まれて生憎金に困った事はない」
試したいのは自分の手腕だけだといったとこだろう。
「待て、犬屋敷ってお前言ったか?」
「そうだよ。あ、同じ妖ならお前にも分かるか」
宗介自体は明るく生気が満ちているのに対し、その影はなぜかクロには異質なものにみう見えていた。
「お前、金儲けに興味がないって言っているのも今のうちだけだぞ」
「まあ、そうだな。そうかもしれない」
宗介は人ごとみたいに笑う。
(甘い、甘い。
これだから人間は浅はかなのだ。
そんな自分だけは守られていると思うからカヨもそうやって俺の前からいなくなってしまった)
クロにとっては実にイライラする話だ。
「やはり人間は甘い。甘くて生意気だ」
「どうしてそうなる?」
宗介は今まで大人しく話を聞いていたクロの気分を急に悪くしたらしいと感じた。
「黙れ。今はお前が余裕でもいずれお前は弱った時に保身へと金儲けに走るだろう。
俺の屋敷を使って金儲けをするなんて生意気だ」
「ここはもう俺達が買ったんだ。
確かに俺は犬神付きだが折れないからな」
そう言うがクロは首を縦に振らなかった。
そうしてクロは宗介に屋敷を呪い願いを叶えると伝えたのだった。
(相変わらず考えなしでお人好しで馬鹿な若造だ)
今、泣きそうな顔をしている宗介にクロは言う。
「なんて顔をしてるんだ。
お前の為じゃない。ナエの頼みだからな」




