15話 居場所
「ナエ様、クロをお探しで?」
私がクロを呼んでいると庵さんから声を掛けられた。
「私も一緒に探しましょうか?」
「いえ、
クロに2人になって話したい事があるんです」
「そうですか」
「庵さん、クロが行きそうなとこ知りませんか?」
私はこれまでの事を庵さんに話した。
「そうですか。ここはカヨ様というお嬢様のお屋敷だったのですね」
「はい。私もさっき知りました。
カヨさんと思い出がある場所ならそこにいると思ったんですけど」
「でしたらナエ様、ホテルの外は探しましたか?」
「いえ、まだ。なぜですか?」
「クロは野良だったなら最初にカヨ様と会った場所にあの子はいると私は思うのです」
「!、そうだわ。そこよ!庵さん、ありがとう」
そうして私は床下で丸くなったクロを見つけた。
「クロ、探したわ」
クロはさっきの大っ嫌い!と言ったのが気まずかったんだろう。
縮こまってこちらを向こうとはしない。
「ナエは、俺の番にはなってくれないんでしょ」
いいよ別にとクロはそっぽ向いたまま言う。
「ええ。ごめんなさい」
しいんとクロとの間に冷たい空気が流れる。
「でも私、番にはなれないけどクロの側にいるわ」
クロの耳がピクッと反応した。
「ナエが?」
「ええ」
「それはこの場所にずっといるって意味でしょう?
帰る場所がないから」
クロはまだ信用ならないと言う。
「確かに私に帰る場所はないわ。
宗介様とも仮初の関係だし。
でもクロは私達が願いを叶えたらクロはどうするの?
まさか消えたりしないわよね。
そんなのずるいわ。
ずっと、今度は私達と一緒にいましょう。
その、カヨさんのとこに行きたいなら無理にとは言わないけど」
カヨが別の場所で結局、病気は治らず息を引き取ったのはクロも分かっていた。
「ナエはどうするの?アイツにさよならされたら行く場所ないよ」
「それはそうね。だからさよならされないように私頑張るわ。
もし、そうなったらお給料もらっているし麓の町の長屋にクロと住むわ」
「無理だよ。俺、地縛霊みたいなもんだし」
「え、そうなの?」
「そう」
これには私もうーんと頭を悩ませる。
「じゃあ私、ホテルマンとしてずっと働くわ。
クロは私の部屋でずっと暮らすの。
どうかしら?」
私がそう言うとクロは目を細めてどこかを見ている。
(あ)
きっとあの目はカヨさんを思い出しているのだ。
『クロ、クロ・・・』
クロはカヨの声が聞こえた気がした。
「クロ、見てこれ」
ベッドに座るカヨが屋敷の見取り図を広げてクロに見せる。
「うちの屋敷って私しかいないのに広いのよ」
こんなにお部屋を作ってどういうつもりかしらねとクロを撫でながら見取り図を見てカヨは笑う。
都会の屋敷にいた頃、まだカヨは健康で女学校の友達が遊びに来たりしてまだ楽しい日々を送っていた。
「あ~あ、今も街にいたら今頃みんなとパーラーに行ったり、百貨店を見て歩いていたのかしら?」
とクロに聞くが黒猫には難しい話だ。
な~ん♪とカヨにすり寄ると彼女はクロが甘えて構って欲しいと言ってると思ったのか
「そうよね。ごめんなさい。私にはクロがいるわよね」
そう言ってクロを優しく撫でるのだ。
「見て、クロ」
見取り図を指刺しカヨは続ける。
「ここの広間がロビーで、ここは客室、ここはホール。そして私の湯治風呂は大浴場」
フフッと笑いながらカヨは笑う。
「なかなか良いアイデアだわ。
ここは喫茶店にして、友人がたまに遊びにくるの。
え、何かって?
ふふ。もしもこの館がホテルだったらって考えていたの」
カヨはたまにこうやって空想にふける子だった。
「そうね。ここは父が経営する最先端なハイカラホテルで私はたまにロビーにお花や内装を監修する仕事をしているの。
そうしてホテルでいろんな催しをすれば女学校の友人も来てくれるわよね。
ホテル1階の喫茶店でお喋りして、泊まっていけばいいじゃないってみんなに言うの。
ねえ中々楽しそうよねクロ?
あ、あなたはもちろん看板猫よ」
カヨが何を言っているかは分からないけれど嬉しそうなのはクロも分かる。
『うんそうだね。カヨ』
カヨが楽しそうなら、俺もそれを見てみたい。
あの時、確かにクロはそう思ったのだ。
皮肉だが今は宗介やナエ達とそれを見ている。
そうしてクロは私、ナエに言った。
「ナエあいつに、ソースケにさよならされてもここにいて」
クロは私と一緒でもいいがクロもこの場所が好きなのだ。
「分かったわ」
私は頷き、確かにクロの希望に了承した。
そうして墓参りをした事とクロの願いはずっとこのホテルと一緒にいたいという2つが願い事だったのか一気に2つ、蝋燭台の火は消えたのだった。




