3章 11話 旦那様の秘密
ねえ、知ってる?
山にあるホテルのオーナーの噂。
ええ。確か何か化けものに憑かれていたってきいたわ。
化けものって噂の化け猫?
違う。何かまた別のものよ。
ただでさえ化け猫ホテルって言われてるのにこの上、災難よね。
本当。災難、災難。
「うわあ!!」
ハア、ハア。
ベッドから飛び起きた宗介は呼吸を必死に整える。
「くそっ!」
着替えて出勤前に着替えをする宗介の表情は暗かった。
弥七がいなくなった事でホテルは一時、騒然として結局、警察を呼んだのだ。
しかし疑われたのは他でもない宗介だ。
「ただでさえ薄気味悪いホテルと思って来てみたが、やれやれ。
あなたの管理がなっていなかったのでは?
奥様も側にいたのに寝ていたのは不自然じゃあないですか?
どう責任を取るおつもりで?」
ナエの名前を出されて悔しくない訳ではないが何も言い返せなかった。
(弥七さんはなんで勝手にいなくなった?)
不安になり弥七が麓の村まで帰ってないかと警察に聞いたが彼を知るものは麓の村には少なかったみたいで、彼はまだ村にはいない。
「弥七さん、無事だといいんだが」
どうもナエが倒れていると庵から呼ばれ現場に来てみるが辺りからは不穏な空気が立ち込めていた。
(何かが引っかかる。
弱った。ただでさえ今、西の実家は経営が傾いたとも知らせがあったばかりだ)
宗介はこんな時まで自分の保身かと情けなくなった。
「じゃあ本日も皆、よろしく」
「はい!」
宗介が仕切る朝礼に皆が返事をするが今まで明るかった宗介は朝礼が終わってしばらくするとため息を吐いた。
(宗介様)
ナエは、いや。皆は彼の様子に気づいていた。
「クリスマスが近いのに心配ですね」
とハナちゃんもナエに話した。
化け猫ホテルの気味悪いイメージをクリスマスまでに払拭し、ホテルクリスマスを満員御礼にして成功させる!という計画は少しづつだけどハロウィンヴィッフェまでは順調に進んでると思ったが、ここ数日で現状は不穏になってきた。
「ホテルに来た人で行方が分からなくなった人がいたのよ」
「いやだ。怖い」
噂は数日で広まり、ホテルの客足はまた少なくなって来ている。
(宗介様大丈夫かしら?)
何かホテルの力になりたいと思ったナエもこれにはどう対処したらいいか分からない。
体調が悪そうな宗介にナエはお茶を差し入れる事にした。
(普段は庵さんがしてるけど)
今回は梨も添える。
気分転換になるといいけれどと思い、ナエ応接室の扉をノックする。
「どうぞ」
と宗介に言われ中に入ると彼は驚いていた。
「ナエさん?」
「お茶を持ってきました。
宗介様、少しお仕事を休憩された方が良いかと思いまして」
書類を広げたデスクを前に宗介の目の下には少しクマができている事をナエは心配していた。
「ありがとう」
宗介はナエが心配しているのに気づき、素直に休憩を取る様に横にある大きなソファに移動した。
すると扉からスルッとクロがやって言った。
「無理だよ無理。
このホテルはもうおしまい」
「そんな。そうしたら私は帰る場所がないわ」
クロにナエが言うと珍しくクロはしょげる様な表情をした。
「だっていずれそうなるよ」
負けじとクロはナエに返す。
「どうしてクロにそんな事分かるの?」
ナエが聞くとそれを宗介が遮った。
「お前がやったのか?
弥七さんに何かしただろう?」
宗介はクロを睨んで問う。
「え?」
ナエは何を言うのと宗介とクロを交互に見る。
「うん。俺が食べたよ」
「!!」
これにはナエも宗介も絶句した。
「だってアイツ悪者。
ナエを汚そうとした。
殺しもいくつもして逃げ回っていた。
俺、退治したよ」
2つの意味でナエと宗介は凍りついた。
「嘘、クロ。嘘よね」
確かにクロの正体は恐ろしい巨大な黒い化け猫だ。
でも人を脅してもそこまではしないとナエは今の今まで信じていた。
それは宗介もだ。
「そうか。
それが本当なら弥七さんは最低だ。
でもそこまでしろとは言っていない」
宗介はクロに諭す様に言う。
しかしもう遅い事だ。
『じゃあお前はなんだ奴がナエを汚しちまってもよかったのか!?』
グルルといつものドスの聞いた声をクロが出す。
「そんな訳ないだろう!・・・ゴホッ、ゴホッ」
咳をする宗介にナエが寄り添う。
「宗介様しっかり!誰か!庵さん!」
「無理だよ。ナエ。
誰もそいつを助ける事はできない。だってそいつは」
「止めろ。俺からナエさんに話す」
クロの言葉を宗介が止めた。
しかし、そのまま宗介はその場に倒れこんでしまった。
「宗介様!」
数時間後、庵に抱えられ自室のベッドに運ばれた宗介は目を覚ますと目の前にいたのは心底安堵する表情のナエだった。
「よかった。ずっとこのままだったどうしようかと思いました」
ナエの顔から1つ、ポロッと涙が落ちた。
それをナエは自身の手で押さえる。
「私、庵さんを呼んで来ます」
「待って!」
宗介がナエの手を取る。
「え?」
急に手を握られナエは驚く。
宗介は真剣な顔でナエを見る。
「宗介様・・・?」
その表情に何故かナエは緊張して心臓が高鳴る。
「聞いてほしいんだ。俺の事」
(宗介様が話したい事?)
「聞かせて下さい」
そういうと宗介は意外な事を口にした。
「俺は、いや犬屋敷の家は犬神の呪いに憑かれているんだ」




