二章第四話 尖った蝋燭
「楽しかったのぉ?パーティは」
「楽しかったよ。アンタのお陰で上手くいったところもあるわ。癪だけどありがとう。」
「よかったねぇ。さて、本題に入ろぉ」
椅子に座っているファエルが足を組み直して言う。
「今日。裏切りをするよぉ。作戦は以前話した通り、裏切ってすぐ逃げるで良いと思うんだけどぉ。問題があってぇ」
ファエルは目を細めて目を逸らした。
「私の鋭利の因果はあまり使い物にならないと思うのぉ」
「え?あれが使えないってなるとかなり裏切りが難しくなると思うし、この前の作戦立ての時は鋭利で逃げるっつう話だったじゃあねえか?」
「それなんだけどねぇ、」
ファエルはあるノートを取り出した。ファエルがノートのページをめくる。そこにはたくさんの人の名前が書いている。一番上だけが空白となっている。名前の隣には色々情報が書いてある。
「ここには私が調べあげた組織の情報が全て載ってあるのぉ」
「ふむ?この一番上は?」
「これはボスの分。私がどれだけ調べても分からなかったのぉ。これがわかれば楽だったんだけどねぇ。それで、元の話に戻るけどぉ、」
ノートを香の顔に近づけてある名前を指差す。
「タラソフォビア。組織の幹部の1人で、溺声の因子の持ち主よぉ。此奴の因果は必要なときに機械を収集しプログラムを出力するわぁ。そして、溺らせる。」
ーーーーーーーー
「溺れたものは助けを求めることができないのぉ。つまり、武器は使えずに落ちていくし魔法は発動もできないわぁ。因子とも接続ができないしぃ。身体の中で完結してないと使えないのよぉ。だから筋肉で戦ったり魔力そのものを自らに込めれば戦えはするわぁ。相手はいくらでも攻撃できるけどねぇ。」
「つまり、私たちは自らの足で逃げるしかないわけね。意地悪い能力だわ。これじゃあ戦うことすら選択肢にないわけだ。」
「しかも、此奴は組織の本部にいるわけだから、どれだけ避けても会うことになるわぁ。」
「一応言っておくわ。私はアンタを助けないし、アンタは私を助けなくていい。お互い命最優先でいきましょ。どっちも死んだらそれこそ終わりだわ。」
「生きて帰ろうなんて仲良しなつもりはなかったけどぉ、それはちょっと悲しいかなぁ。」
ホテルから出て、空を見る。既に暗く雲で星は見えない。重い空気が気持ち悪い。今日はまだ魔法を使っていなかったのもあるかもしれない。少し倦怠感がある。
「ちょっとだけ魔法を使っていい?作戦に支障は出さないし出たところで私が悲しい思いをするだけだわ。アンタの足を引っ張ってやってもいいけど。」
「別に足を引っ張ってもいいよぉ。私の無理なお願いだったわけだしぃ」
「じゃあ使わせてもらうわ」
あるポーズを取りながら「コォォォォ…」と言っている。魔力が身体から出ているも、他を不快にするものじゃあない。
「それなんの魔法ぉ?私それ知らない〜」
「これは私の好きな漫画で出てくる呼吸よ。出ているものは正反対だけど、魔力を消費するにはピッタリな感覚だわ。アンタもやってみたら?」
「無理無理ぃ。恥ずかしいわぁ。」
ーーーーーーーー
ここは組織の本部である。本部というには崖の上にある空き家で、なんとも威厳はないのだが。崖下は海でいい潮風が吹いている。ドアを開けて入る。中には一つの仏像がある。ファエルは仏像の目に指を刺すと仏像の頭が回転し始めて、壁にゲートが出てきた。
ゲートに入ると、そこは近未来的な船艇のような場所だった。光が金属製のような壁に反射して妙な光を生んでいる。香は今、水魔法で光を全反射し周りからは見えないようにしている。火魔法で温度も調整し、万が一サーモグラフィーされたときでもなんとかなるようにしている。ファエルは歩く。香もそれについてゆく。
機械兵が歩いている。自然な歩きで違和感もない。これが恐らくタラソフォビアの溺声の因子の力の一つなのだろう。
長い廊下を歩いた先。右にあるドア。それを開けると豚がいる。豚は生きているようにも見えるが目にカメラのようなものが見える。その豚のしっぽを引くと豚からゲートが現れる。
ゲートに入ると図書館のような場所についた。本棚に寄りかかっている女性がいる。此奴が例のタラソフォビアのようだ。すると、突然声が聞こえた。タラソフォビアの声じゃあない。男性の声だ。しかしこれも、どこか機械的な声だ。ボイスチェンジャーだろう。
「要件はなんだ。ファエル。」
「あらぁ、現れてはくれないのぉ?」
「要件はなんだ。」
「…」
ファエルは少し深呼吸した。震えている息だ。そして顔を上げて言った。
「私は組織を辞めるわぁ」




