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回想

 ジュリアは、静かに目を閉じた。

 思い出す。前世。


 ――大侵攻。


 一斉に現れた魔物たち。

 最初は下級魔族の大群だった。


 海では、リヴァイアサン。クラーケン。セイレーン。

 海路は閉ざされ、港は沈黙した。


 陸では、虫系魔族が繁殖を繰り返す。

 一匹でも逃せば終わらない。

 焼いても。

 潰しても。

 また湧く。


 サンドゴーレムの群れは、城壁を押し潰した。

 剣が通らない。

 火でも止まらない。


 空では、ワイバーンやハーピーが飛び交い、大型龍種が制空権を奪った。

 補給路が消える。

 街が燃える。


 そして森。

 天を突くトレントたちが、国境そのものを書き換えていった。


 最後に現れたのは、高位貴族系、深淵系魔族達。

 高位魔術。暗黒魔術。禁忌魔術。


 そして、呪い、狂気、悪夢、幻覚。

 兵士たちは剣を捨て、民衆は互いを疑い始めた。

 国家が、内側から壊れていく。


 あれは、もはや戦争ではなかった。文明崩壊だった。

 だが。ジュリアはゆっくりと目を開く。


「……違う」


 前世より、動きが早い。

 海が早すぎる。

 黒龍も早かった。


 しかし。


「統率が無い……?」


 ぽつりと呟く。


 海。

 黒龍。

 刺客。


 それぞれの動きが、妙に噛み合っていない。


「魔族側も焦っている?」


 沈黙。


「……いえ」


 ジュリアは、自分でその考えを否定した。


「一枚岩ではない……?」


 そこで止まる。

 まだ断定はできない。

 前世でさえ、彼女は魔族の全てを知っていた訳ではない。


「……決めつけるのは危険ですね」


 小さく息を吐く。


 だが、もし本当に、魔族側が割れているのなら。

 人類には、まだ勝ち目があるかもしれなかった。


----------------------


 春の街道。


 柔らかな陽射しの中、

 馬車がゆっくりと揺れていた。


 窓の外では、雪解け水がきらきらと光っている。


 向かう先は、エリュシオン学園。


 馬車の中。

 ジュリアは静かに資料へ目を通していた。


 その隣で、ミシュリーヌが頬杖をつく。


「ねえ」

「なんです?」


「なんで急にエリュシオン学園?」


 ジュリアは、書類から目を上げた。


「少し、話がしたい人が居まして」

「ふーん」


 ミシュリーヌは窓の外を見る。


「私、退学になったから、あんまりいい思い出ないんだけど」


 その言葉に、ジュリアの視線がわずかに揺れた。


「……すみません」

「別にジュリアが悪いわけじゃないでしょ」


 ミシュリーヌは、あっさり笑う。


「それに、今となってはどうでもいいし」


 強いな、とジュリアは思った。

 いや。強くなった、のかもしれない。


「ですが、今回は貴女にも同行して欲しかった」

「なんで?」


 ジュリアは少しだけ間を置いてから答える。


「ミリーの“世界を操作する力”が、抑止力になります」


 ミシュリーヌが目を丸くした。


「えっ?そんな危険なことするの?」


「いえ。万が一への備えです」


 淡々。


 いつものジュリアだった。


「……ジュリアって、時々ものすごいこと普通に言うよね」


「そうでしょうか」

「そうだよ」


 ミシュリーヌは苦笑する。


 そして、少しだけ身体を寄せた。


「でも、こうして二人っきりなのは嬉しいな」


 ジュリアの肩がぴくりと揺れる。


「……ミリー」


「なに?」


「近いです」


「嫌?」


「そういう話ではなく」


 耳が、ほんの少しだけ赤かった。

 ミシュリーヌは、楽しそうに笑った。

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