旧時代の終焉
冬空の下。
王都南方、ラーデ平原。
雪混じりの風が、無数の軍旗を揺らしていた。
マントノン公爵軍。最後の決戦。
重装騎兵。王都近衛。旧王党派貴族軍。
数だけなら、なお巨大だった。
その中央。
白銀の甲冑を纏ったヴァレリアン・マントノンが、静かに軍勢を見渡していた。
「……まだだ」
低い声。
「まだ、この国は終わっていない」
彼の周囲には、なお多くの騎士がいた。
中央貴族。旧秩序。王権。
その全てを背負って、ヴァレリアンは立っていた。
対する新連邦軍。
数は多くない。
前線中央。丘の上。
「来たな」
ギルベルト・ノイエンブルクが、遠眼鏡を下ろした。
黒外套。気怠げな目。
だがその瞳だけは、獲物を見つけた猛禽みたいに鋭い。
隣では、マティアス・マストハインが、深く息を吐いていた。
「真正面から来るか」
「まあ、あの人らしい」
眼下。
マントノン軍の騎兵列が展開していく。
重い。美しい。伝統的な陣形。
そして。
古い時代の戦争だった。
ギルベルトが肩を竦める。
「嫌いじゃないぜ。ああいうの」
「でも終わる」
「ああ」
静かに、長筒兵たちが列を作る。
雪の中。規律正しく。淡々と。
魔力装填。照準固定。
北方式三列輪換。
既に、王国で最も洗練された射撃部隊だった。
遠く。
ヴァレリアンがそれを見ていた。
細められた瞳。
「……平民兵か」
その瞬間、彼は理解した。
時代が変わったことを。
だが。それでも。
「進め」
号令。
騎兵隊が動き出す。
地鳴り。
雪原を揺らしながら、鋼鉄の奔流が迫る。
ギルベルトが笑った。
「マティアス」
「ああ」
「派手に行こうぜ」
「ほどほどにな」
ギルベルトが、片手を上げた。
「第一列」
長筒兵が前へ出る。
雪風。沈黙。
そして。
「撃て」
ドドドドドドドォォォォン!!!
轟音。
前列騎兵が、まとめて吹き飛んだ。
馬ごと。鎧ごと。一直線に。
だが、マントノン軍は止まらない。
ヴァレリアンが剣を抜く。
「怯むなァッ!!!」
「応!!!」
怒号。騎士たちが叫ぶ。
旧王国最後の突撃。
その姿は、あまりにも、勇敢だった。
マティアスが、少しだけ目を伏せる。
「……立派だな」
「ああ」
ギルベルトも頷いた。
「だから終わるんだ」
第二列。前へ。
「撃て」
ドドドドドォォォォン!!!
再び。
騎兵列が、弾け飛ぶ。
悲鳴。
転倒。
潰れる馬。
隊列が崩れる。
それでも。
ヴァレリアンだけは止まらなかった。
白銀の馬が、雪原を駆ける。
真っ直ぐに。
まるで時代そのものへ抗うように。
ギルベルトが、静かに長筒を取った。
「ギル?」
「いや、なんでもねえ」
照準。
遠距離。
吹雪。
だが。
その中心にいる男だけは、妙にはっきり見えた。
「終わらせる」
マティアスが隣へ並ぶ。同じように、長筒を構えた。
「せーの、で行くか?」
「子供か」
「いいだろ。最後くらい」
マティアスが苦笑する。
そして、二人の照準が、同時にヴァレリアンへ重なった。
雪が吹く。
静寂。
「――今だ」
ドドォォォン!!!
二つの轟音。
ヴァレリアン・マントノンの胸甲が、砕けた。
白銀の馬上。
彼の身体が、大きく揺れる。
時間が止まったみたいだった。
そして。
ゆっくりと。
旧王国最後の執行者は、雪の中へ落ちた。
ズゥン。
沈黙。
次の瞬間。
マントノン軍が崩れた。
「公爵様が……!」
「総崩れだ!!」
雪原を、敗走が広がっていく。
ギルベルトは、ふう、と息を吐いた。
「終わったな」
「ああ」
数秒。
静寂。
そして。
ぱんっ!!
二人が軽く手を打ち合わせる。
「やったな」
「お前、絶対それやりたかっただけだろ」
「バレた?」
「バレる」
◇
数週間後。
アストライア新連邦。
臨時評議会。
大広間。諸侯が並ぶ中。
ジュリアは、死んだ目をしていた。
(またこういうのですか……)
その前方。
ランベール・ヴァランタンが、静かに口を開く。
「此度の内乱終結において、多大なる戦功を挙げた者たちへ、連邦評議会は新たな爵位を授与する」
ざわめき。
「ギルベルト・ノイエンブルク」
「は」
「汝を、新連邦辺境伯へ叙する」
どよめきが走る。
辺境伯。
実質的な大諸侯。
ギルベルトは、一瞬だけ目を丸くした。
「……マジで?」
「マジだ」
ランベールは真顔だった。
「ついでに」
「ついで?」
「エルシェヴァルト家から正式に独立を認める」
「は?」
会場がざわつく。
ヨアヒム・エルシェヴァルトだけが、愉快そうに笑っていた。
「よかったな、ギル」
「いや待ってくださいお館様!? 聞いてませんが!?」
「今決めた」
「軽くない!?」
爆笑が起こる。
そして。
「マティアス・マストハイン」
「はっ」
「汝を、新連邦伯爵へ叙する」
マティアスが、目を見開いた。
「……伯爵?」
「嫌か?」
「いえ。嫌ではありませんが」
困ったように頭を掻く。
その横で、ギルベルトが、にやにや笑っていた。
「よかったな、マティアス伯爵」
「お前絶対面白がってるだろ」
「当然」
その時、後ろから、小さくため息。
「……また厄介なのが増えましたね」
ジュリアだった。
ギルベルトが振り返る。
「あ?」
「なんです?」
「いや」
ギルベルトは笑う。
「アンタが始めた時代だろ」
ジュリアは、一瞬。本気で嫌そうな顔をした。
そして。
「知りません」
そう言うと、少しだけ、肩の力が抜けたような表情になった。
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AIにジュリアのイラスト書いてもらいました。




