表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
72/159

現実逃避

 自室。

 扉が閉まった瞬間。


 すたすたすた。


 無言。


 髪飾りを引っこ抜く。

 上着を脱ぎ捨てる。

 剣を壁へ立てかける。


 そして。


 ぼふん。


 ベッドへ顔から突っ込む。


 数秒。


 動かない。


 完全停止。


「………………」


 枕へ顔を埋めたまま、くぐもった声。


「なんなんですかあれ……だいの大人が、雁首揃えて、寄ってたかって。最初からチェックメイトじゃないですか。ズルすぎます」


 死んだ目。


 黒龍討伐より疲れている。


 コンコン。


「ジュリア? 入るわよ?」


 ミシュリーヌの声。


「だめです」

「え?」

「今日はもう誰とも喋りたくありません……」


 ベッドへ沈みながら呻く。


「女王?」

「求婚?」

「新政府?」

「連邦制?」


 もぞ、と枕へ顔を擦り付ける。


「知らないです……」


 完全に現実逃避だった。


 だが、ミシュリーヌは少しだけ首を傾げる。


「でもジュリア、昔からそういうの集めるよね」

「集めてません」


「気づいたら人が増えてる」

「不本意です」


「みんなジュリアのこと好きだよ?」

「やめてください怖いです」


 本気だった。


「今度は赤龍とか来ないかな。じっくり炙り焼きにしてやるのに」

「それやると、今度こそ女王にされちゃうよ? あと普通の人間は龍倒すほうが難しいからね?」

「魔法無効化できるミリーでも倒せますよ!!!」


「え? 倒せるの?」

 ミシュリーヌは、きょとんと瞬きをした。


「倒せますよ!!」


 ジュリアが、がばっと起き上がる。


「ミリーの世界干渉、龍種に取って相性最悪ですからね!? 鱗の魔力偏向とか関係なく、術式ごと無効化できますし!!」

「そうなの?」

「そうです!!」


 さっきまで死んでいたとは思えない勢いだった。


「そもそも龍種は“現象の塊”です。だから逆に、ミリーみたいな“結果へ直接触るタイプ”とは噛み合いが悪いんですよ」

「へえ……」


 ミシュリーヌは少し考える。


「じゃあ、黒龍も倒せた?」

「時間をかければ」


「ふーん」

「というか、ミリーはもっと自分の危険性を理解してください」


「危険?」

「世界を書き換える人間が危険じゃなかったら何なんですか」


「ジュリアも大概だと思う」

「私は普通です」


「普通の人は龍の口の中に入らないよ?」

「効率的だったんです」


「普通の人はそこを効率化しない」


 ジュリアがむぐ、と詰まる。


 ミシュリーヌは、くすっと笑った。


 それから、ベッド脇へ腰掛ける。


「でも」

「?」


「ジュリア、ほんとに嫌なんだね。女王」

「嫌です」


 即答。


「なんで?」


 ジュリアは再びベッドへ倒れ込む。


「面倒だからです……」


 心底うんざりした声。


「国家運営なんて、補給と調整と責任の塊じゃないですか」

「まあ、うん」


「絶対に胃が死にます」

「もう死にかけてるけどね」


「父上とお兄様を見てください。あれが未来ですよ」


 ミシュリーヌは少しだけ想像した。


 書類の山に埋もれる、女王ジュリア。

 手には、剣の代わりに玉璽。

 書類へ、神速で判が押されていく。


「……似合う」

「やめてください」


 本気で嫌そうだった。


 しばらく沈黙。


 そして。

 ミシュリーヌが、ぽつりと言う。


「でも、みんなジュリアがいると安心するんだと思う」


 ジュリアは枕へ顔を埋めたまま動かなかった。


「黒龍の時も」

「……はあ」


「みんな、“ジュリアなら大丈夫”って顔してた」

「……気のせいです」

「気のせいじゃないよ」


 静かな声だった。


「だから、人が集まるんだと思う」


 ジュリアはしばらく黙っていた。


 やがて、枕へ顔を押し付けたまま、小さく呟く。


「……集まりすぎです」


 ミシュリーヌは吹き出した。


「ふふっ。人誑しだもんね」

「笑い事じゃありません」


「でも」


 ミシュリーヌは、少しだけ嬉しそうに笑う。


「わたしは、そういうジュリア、好きだよ?」


 数秒。


 ベッドへ顔を埋めたまま、ジュリアの耳だけが、ほんの少し赤くなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ