王国秘密会議?
最初に口を開いたのは、エウラーリアだった。
「ねえ、ジュリアさん」
優雅に微笑む。
そして。
ぱちん。
扇が閉じられた。
その音だけで、室内の空気が少し張る。
「貴女――女王になる気はある?」
「いいえ」
即答だった。
一切の迷いもない。
むしろ、食い気味だった。
エドワードが遠い目をする。
(まあ、そうなるよな……)
だが。
エウラーリアは微笑みを崩さなかった。
「なれるわよ?」
「嫌です」
「まだ何も言ってないわ」
「嫌な予感しかしません」
本気で嫌そうだった。
エウラーリアは面白そうに笑う。
「だって、貴女の今までやってきたこと、少し振り返ってご覧なさいな」
ジュリアの額に、じわりと冷や汗が浮かぶ。
「……何を、おっしゃりたいんですか?」
そこで。
ホドフリート・ヴァルロア侯爵が、ゆっくりと口を開いた。
「君は聡明だと聞いている」
落ち着いた声。
「ならば、もう理解しておるだろう?」
静かな視線が、ジュリアへ向けられる。
「もはや我が国は、内乱などやっとる場合ではないのだよ」
会議室が静まり返る。
ジュリアもまた、数秒だけ黙った。
そして。
「……そういうことですか」
低く呟く。
「そういうことだ」
ランベール・ヴァランタン公爵が頷いた。
「このまま各勢力が削り合えば、王国は崩壊する」
「その前に魔族が来る」
エルチェ・ファルケンリートが、腕を組んだまま低く言う。
北方の空気を知る者だけが持つ、実感のある声音だった。
「そして問題は、もう一つある」
ランベールが続ける。
「このまま行けば、ヴァレリアン・マントノンが王位を簒奪する」
ジュリアの眉が、ぴくりと動いた。
「……それでは、困るのですよね」
「あやつは国家中枢ごと乗っ取るつもりだからな」
ホドフリートが重く言う。
沈黙。
その沈黙を破ったのは、アルトゥール・ランカスターだった。
「で、だ」
腕を組みながら、当然のように言う。
「ジュリア嬢にその気があるなら、お前を女王にでも立てるか、という話になった」
「無理です」
即答。
一秒も悩まない。
「俺は別に構わんぞ」
アルトゥール。
「むしろ、そうなって欲しいくらいだ」
エルチェ。
「僕も賛成です」
マクシミリアン・ベルンシュタイン。
「いや駄目だろう!?」
エドワード。
「わしはもうどうでもいい」
フィリベール。
「父上、諦めないでください」
エドワードが真顔で突っ込む。
ジュリアは額を押さえた。
「嫌です。絶対に」
本当に嫌そうだった。
その様子に、ランベールが小さく肩を竦める。
「まあ、お前がそう言うだろうことは全員分かっている」
「なら、なぜこの話を……」
「そこでだ」
ランベールが、フィリベールへ視線を向ける。
「例のものを」
「ああ」
フィリベールが疲れた顔のまま、机の上へ封筒を滑らせた。
ジュリアが受け取る。
「……なんですか?」
封蝋を見る。
「ギルベルト・ノイエンブルク?」
「お前の学友だろう?」
ランベールが言う。
「……知らない方ですね」
ランベールはそれを無視して続けた。
「美辞麗句でぐるぐる巻きにしてあるが、要約すると“ジュリア・アークライトへ接触したい”だな」
「というか、心酔してません?これ」
エドワード。
「してるな」
エルチェ。
「してるわね」
エウラーリア。
「してるな」
アルトゥール。
「やめてください」
ジュリアは真顔で手紙を読む。
数秒。
そして。
「……なるほど」
静かに呟いた。
「つまりこれは、『もう王政をやめないか』という提案ですか」
室内の視線が集まる。
ジュリアは、
便箋へ視線を落としたまま続けた。
「地方分権型」
「通信網による広域統治」
「諸侯連合による共同体制」
そして。
「……連邦国家にでもするつもりですね、彼」




