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合流

「……そういえば」

 レオナードが中継機を調整しながらぽつりと漏らした。


「学園、今どうなってるんでしょうね」

「んー?」


 ミシュリーヌが串に刺した干し肉を齧りながら、気の抜けた声を出す。


「いや、ほら。僕ら途中でいなくなったじゃないですか」

 ミシュリーヌが少しだけ目を瞬かせる。


「……そっか」


「ミシュリーヌ嬢なんて、数ヶ月しか通ってませんし」

「レオナードは?」


「たったの一年半で中退ですよ。商会が地獄みたいに忙しくなったので」

「あー」


 ミシュリーヌが妙に納得した顔をする。


「大変そうだったもんね。何度もうちに出荷量の調整に来てて」

「大変でしたよ……」


 遠い目。


「毎日、“帝国便が遅れてる!”とか、“オリハルコンの護送増やせ!”とか、“通信資材が足りない!”とか」

「うわぁ」


「しかもその大半、ジュリア様案件なんですよ」

「えへへ」

 なぜかミリーが、自分のことのように胸を張って笑う。


「なぜミシュリーヌ嬢が誇らしげなんですか」


「ジュリア達は飛び級卒業なんだっけ」

「半ば追い出されたらしいですよ?」


「追い出された?」

「“他の生徒に危険がある”、とかなんとか」


「危険、ねぇ……」

 ミシュリーヌが小首を傾げる。実感がなさそうだ。


「なんか、特別課外実習中に実習用として管理されてた洞窟を半分くらい消し飛ばしたとか」

「半分?」


「いや、僕も噂しか知りませんけど」

 レオナードが苦笑する。


「“崩落事故扱いになった”って聞きました」

「何やったのかしら」


 焚き火の爆ぜる音。


 レオナードがちらちらとルカの白銀の甲冑を見る。


「……えーっと」


「なんだ」

「いや、その鎧、本山製ですよね?」


 ルカの目が細まった。


「分かるのか」

「流通やってると嫌でも。聖堂製の白銀鋼、地方ごとに紋章の打ち方違うんですよ」


 レオナードが指を差す。


「しかもその刻印、西方管区向けのやつですよね?」


「……」


 沈黙。


 レオナードの額にじわっと嫌な汗が浮く。


「え、待ってください」

「はい」


「これ僕、聞いちゃいけないやつです?」

「たぶんな」


「うわぁ……」

 レオナードが頭を抱える。


「ミシュリーヌ嬢。なんで拾っちゃったんですかこんな国家機密」


「魔物に追われてたから?」

「理由が軽い!」


--------------------


 翌日。昼。


 中継塔にアークライト家の魔導馬車が三台到着した。


「待たせました。ミリー」


 乗ってきたのは、ジュリア、エドワード、ジェラルド、リィンだった。

 エリザはアークライト家に留守番、もとい絶賛研究中らしい。


 ジュリアは、以前よりも明らかに背が伸びている。


 華奢さは残っているものの、幼さばかりだった輪郭には僅かに鋭さが混じり始めていた。

 淡い白銀の髪を揺らしながらこちらを見る蒼い瞳には、年齢に似合わぬ静かな理性が宿っている。


「で、この方々が?」とエドワード。

「そうよ」


「私はアストライア王国のジュアリア・アークライトと申します。失礼ですが、貴方の所属は?」


 ルカは無意識に、その少女を測るように見つめた。


「……西方管区第三聖堂騎士団のルカだ。……元、だがな」


「そちらの方は?」

「準聖女、セシリア様だ」


「準聖女……やはり」


 ジュリアの蒼い瞳が、セシリアを静かに観察する。


「各国聖堂が現在、極秘裏に捜索している“失踪した準聖女”と特徴が一致します」


「なに? ジュリア。どういうこと?」とミシュリーヌ。


「簡単に言えば――」


 ジュリアはさらりと言った。


「お二人は今、国家規模のお尋ね者です」


「はあああああああ?」

 エドワードが叫ぶ。


 ジュリアは静かにルカを見る。


 白銀の甲冑。

 無骨な立ち姿。

 そして、どこか壊れるほど張り詰めたような、あの空気。


 その瞬間。


 脳裏に、焼け付くような断片が走った。


 崩れ落ちる城壁。

 血煙。

 押し寄せる異形の軍勢。


 そして――最後尾で、ただ一人、巨大な盾を構え続ける男。


『鉄血の守護勲章』――レイズ・ヴァンガード。


 何万人もの民が逃げる時間を稼ぎ続け、最後まで立ったまま戦死した、不屈の英雄。


「……まさか」


 ジュリアの蒼い瞳が、わずかに細められる。


 だが、その記憶は酷く曖昧だった。

 夢とも、幻ともつかない。


 それでも。


 目の前の聖騎士から漂う“戦場の匂い”だけは、妙に鮮明に胸へ刺さっていた。


「あの、そちらの方は?」

 セシリアが侍女服の獣人リィンを見つめて、初めて口を開いた。


「ああ、この子は私の家で諜報任務を任せています」


「リィンです。獣人です」


 ぺこりと小さく頭を下げる。

 緊張したように固まった尻尾の先だけが、そわそわと左右に揺れていた。


(可愛い……!)


 セシリアの胸に、場違いなほど純粋な感想が湧き上がる。


 ふわふわしてそう。

 触ってみたい。


「……?」

 じっと見つめられたリィンが、不安そうに耳をぴくりと動かした。


「あっ、も、申し訳ありません! その、尻尾がとても愛らしくて……!」

「し、尻尾……?」

 リィンがさらに警戒する。


 その横で、ジュリアが静かにため息をついた。

「リィン」

「は、はい」


「たぶんその方、悪意はありません」


------


 馬を休ませ、簡素な昼食を取っている間。

 ジュリアは木箱を机代わりにしながら、セシリアから聖教国の内情について詳しく話を聞いていた。


「なるほど。聖教国は、そこまで酷い状態でしたか」

「ええ……」


 セシリアが静かに頷く。


「皆、悪い人ばかりではないのです。地方の修道士様方も、民を救おうとはしていました」


「ですが、祈りへ依存しすぎた」

「……はい」

 セシリアの表情が曇る。


「病も、水も、土も。本来は人が積み重ねて管理しなければならないものなのに……皆、“奇跡”を待ってしまうのです」


 ジュリアは静かに目を伏せた。


「技術が止まった社会、ですか」


 その少し離れた岩場。


 ギィン――!!


 鋼同士がぶつかる重い音が響いた。


 ルカの大剣を、ジェラルドの細身の剣が真正面から受け止める。


「……ッ」


 ルカの眉がわずかに動いた。


 普通なら、

 受けた瞬間に剣ごと吹き飛ぶ。


 だが目の前の少年は、

 紙一重で力を流している。


「やるな」

「そっちこそ」


 ジェラルドが短く笑う。


「聖堂式の剣術、初めて見た」

「……我流だ」


 不意にルカが火球を飛ばす。


 次の瞬間。


 ジェラルドの斬撃が、音もなくルカの脇腹へ滑り込む。


 ルカが咄嗟に大剣の腹で受け流す。


 だが。


 ――ズン。


 背後の岩壁が、斜めにずれ落ちた。


 ルカの目が細まる。


(術式ごと、“切断”したのか)


 ジェラルドは肩へ剣を担ぎ、軽く首を鳴らした。


「なんかさ」

 その声音は、妙に自然だった。


「魔力の流れって、“線”に見えるよな?」


「……」


 ルカは答えなかった。

 答えられなかった。

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