邂逅
視界のすべてを覆い尽くすほどの、猛烈な砂嵐が吹き荒れていた。
乾き切った荒野の風が、旧時代遺跡の巨岩の外壁をゴウゴウと地鳴りのような音を立てて叩き続ける。
そこは、半ば赤砂に埋もれた巨大な古代の中継塔だった。
半ば砂に埋もれた巨大な中継塔。
崩れた石柱。風化した古代文字。
かつて世界中を繋いでいた通信網の残骸。
その塔の基部で、レオナード・エルソンが額に汗を浮かべながら術式中継機を組み上げていた。
「んー……これで接続率67%……! あと少しですね」
傍らでは、ミシュリーヌが古代端子へ無造作に魔力線を突っ込んでいる。
「ミシュリーヌ嬢!? だからそこはもっと丁寧にですね――」
その時だった。
――ドォォォォォン!!
砂嵐の咆哮を遮って、遠方から鼓膜を震わせる爆発音が轟いた。
続いて、地平線の彼方から、巨大な砂煙がこちらへと急速に迫ってくる。
レオナードが顔を上げる。
「……なんです?」
砂煙の向こう。そこにいたのは、何匹という狂乱した大型魔物の群れ。
そして、その先から二人組がこちらへ向かって駆けてきていた。
白銀の甲冑を纏う騎士。
その背後を走る、フード姿の少女。
騎士――ルカが叫ぶ。
「そこの術師! 伏せろ!!」
直後。
大型魔物が砂煙を突き破り、巨大な顎を開いて飛び込んできた。
「いや待て待て待て!?!? 僕、戦えませんけれど!?」
レオナードが半泣きで中継機を抱え込む。
「ミシュリーヌ嬢!! 機材!! これ高いんですよ!!」
「あと三台あるから平気」
「平気じゃないですから!!」
さらに後方。
地面を揺らしながら、別の巨大魔物が迫る。
普通なら、防御術式を展開する場面。
だがミシュリーヌは違った。
少女は静かに地面へ手を触れる。
「……そこ、じゃま」
次の瞬間。
ズゴゴゴゴゴゴッ――!!
砂漠の岩盤そのものが隆起した。
巨大な石槍が何本も地中から突き出し、魔物の身体をまとめて串刺しにする。
鮮血。悲鳴。
巨体が宙へ浮き、そのまま岩肌へ叩きつけられた。
レオナードが絶叫する。
「地形変えるな!!」
轟音と共に、魔物の死骸が岩場へ崩れ落ちる。
砂煙がゆっくり晴れていった。
「……終わった?」
ミシュリーヌが首を傾げる。
「終わったじゃありません!! なんですか今の戦い方!!」
レオナードが半泣きで叫ぶ。
彼の背後では、苦労して設置した中継機材が半分ほど砂に埋まっていた。
「地面ごと吹っ飛ばす人がありますか!」
「でも早かったよ?」
「そういう問題じゃありません!!」
ルカは、そのやり取りを黙って見ていた。
――妙だ。
商人風の男は、本当にただの一般人にしか見えない。
だが、その隣にいる少女。
あれは危険だ。
術式構築がない。
詠唱もない。
魔力制御の痕跡すら見えない。
なのに、世界そのものを書き換えるような挙動をする。
(……なんなんだ、こいつは)
一方。
セシリアもまた、ミシュリーヌを見つめていた。
少女の周囲だけ、
不思議なほど空気が“自然”だった。
まるで、世界そのものが彼女を拒絶していない。
「……?」
ミシュリーヌが、じーっとセシリアを見る。
「あなた、あったかいね」
「え?」
「木の音がする」
セシリアが困ったように目を瞬かせた。
意味が分からない。
だがルカだけは、背筋に冷たいものが走るのを感じていた。
――木。
その単語に、なぜか本能的な危険を感じる。
岩場の上。
レオナードが砂を払いながら中継機の最終調整を終えた。
「よし……これで西部中継塔、接続完了ですね」
古代術式の円環が淡く起動する。
空中へ、幾重もの光文字列が浮かび上がった。
直後。
『――こちらアストライア中央管制。応答してください』
聞き慣れた女性の声。
ミシュリーヌが、ひょこっと通信術式へ顔を出す。
「ジュリアー。設置終わったよ」
『さすがミリー。予定より二日も早いですね』
「えへへ」
そこでミリーが、後ろの二人をちらりと見た。
「それより、なんか変な二人組が魔物に追われてたから助けたんだけど」
『……はい?』
一瞬。
通信の向こう側の空気が変わった。
「白い鎧の人とね、フード被った女の人」
『…………』
沈黙。
長い沈黙。
そして。
『ミリー』
初めて聞くほど低い声だった。
『今すぐ、中継塔の座標を送ってください』
「え?」
『繰り返します。その二人を、絶対にそこから動かさないでください』




