表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
153/159

追撃戦

 ジュリア達が集合場所へ辿り着くと、そこはすでに戦場と化していた。

 本来なら、この方角は最も手薄なはずだった。


 だが現実は違う。

 怒号を上げながら、赤い鎧の兵士達が四方から押し寄せてくる。

 地面には、ジェラルドが叩き伏せた戦象が横倒しになり、巻き込まれた兵士達が苦しげな声を上げていた。


「クソっ! こいつらの鎧、硬すぎるぞ!」

 ジェラルドが舌打ちしながら大剣を振るう。


 鈍い衝撃音。

 兵士は吹き飛ぶ。

 だが鎧は割れない。

 その隙を埋めるように、後続が次々と前へ出てくる。


 その一方で、オメガだけは違った。

 青白い光剣が閃く。

 オリハルコンの刃は赤い鎧ごと兵士を両断し、そのまま次の敵へと走る。


「カズガ、オオスギマス」

 淡々と告げながらも、その剣筋に迷いはない。


 ジュリアも敵陣へ踏み込む。

 背後へ回り込み、一閃。


 しかし――


 ギィンッ!!


 刃が止まる。

 赤い鎧には浅い傷しか残らない。


(ミスリルでは斬れない……)


 ボルドスの資料が脳裏をよぎる。


(ヒヒイロカネ。東方にのみ存在する超硬金属……)


 その時、『蒼穹の道標』も合流した。


「おい! 話が違うぞ!」

 レオンが敵を薙ぎ払いながら叫ぶ。


「あのザドラという兵士、俺達を騙したんじゃねぇだろうな!」


「いいえ」

 ジュリアは遠くに上がる狼煙を見据えた。


「敵将が、我々より一枚上手だったのでしょう」


 ◇


 追撃隊は止まらない。

 矢が飛ぶ。


 炎弾が炸裂する。

 槍を受け流した直後、横から剣。

 そのさらに後方から魔術。


 防ぐ。避ける。受け流す。


 だが、防ぐだけだった。


 一人倒しても二人。

 二人倒しても三人。


 赤い鎧は致命傷を拒み、敵は波のように押し寄せてくる。

 ジュリアは一瞬だけ振り返った。


 背後には、バルトルト、ゲルダ、エリザ、カルナ。


 研究者達も魔力装填式単筒や魔導砲で応戦している。

 しかし焼け石に水だった。


(このままでは押し潰される)


 転移なら逃げられる。

 だが全員を転移させるには、門を維持する時間が必要だ。

 誰かが残らなければならない。


「ミリー!」

 ジュリアが叫ぶ。


「私が時間を稼ぎます!」

「は!?」


「転移門を開いて皆を門へ!」

「じゃあジュリアは!?」


「私は最後に離脱します!」

「そんなの認めない!」


「今は!!」

 ジュリアの剣が飛んでくる矢を弾き飛ばす。

「議論している暇はありません!」


 しかし。次の瞬間だった。


「あーもう!!」

 

 ミシュリーヌが勢いよく両手を地面へ叩きつける。


「全部――ひっくり返れッ!!」


 ドゴォォォォォォン!!


 世界が揺れた。


 兵士達が足を止める。


「なっ――」


 地面そのものが持ち上がった。


 巨大な土塊が数十メートルに渡ってめくれ上がる。


 兵士。

 軍馬。

 砲兵。

 陣形。


 その全てを飲み込みながら。


「うわあああああっ!!」

「地面がぁぁ!!」


「逃げ――」

 叫びは途中で途切れた。


 裏返った大地が轟音とともに崩落する。

 土煙。悲鳴。怒号。

 追撃隊は完全に陣形を失っていた。


「今よ!! ジュリア!!」


「……ミリー!」

「早く!!」


「〈転移〉!!」

 黒紫の門が空間を裂く。


「皆さん! 急いで!」

 一人、また一人と門へ飛び込む。

 最後尾でジュリアが振り返る。


 土煙の向こう。

 再び立ち上がる赤い鎧の兵士達が見えた。


(もう立て直してきた……!)


 猶予はない。

 ジュリアもすぐさま門へ飛び込んだ。


 ◇


 視界が黒く染まる。

 上下も左右も分からない。

 身体が引き伸ばされるような浮遊感。


 遠くに小さな光が見えた。

 その光が一気に広がる。

 視界が開けた。


 深呼吸。

 最初に声を上げたのはジェラルドだった。


「……なんで、ここなんだ?」


 転移先は、アークライト邸の裏庭だった。


 ジュリアは息を整えながら苦笑する。


「何も考えずに門を開いたら……ここでした」


「そういうことかよ」

 ジェラルドが肩をすくめる。


「ヴァランタン家に嫁いでるくせに、身体はまだ実家を選ぶんだな」

「嫁ぐって……その言い方」

 少しだけ頬を赤くしながら、ジュリアは皆を見回した。


「それよりも皆さん、怪我はありませんか?」


「いや」

 ミシュリーヌが睨む。

「そんなの、先頭で戦ってたジュリアが一番ひどいでしょ」


 ミシュリーヌがジュリアの体を指さす。

 ジュリアはつられて自分の服を見下ろす。

 狩猟服は裂け、血と土でぼろぼろだった。


「……そうですね」

「『そうですね』じゃない!!」

 ミシュリーヌの声が裏返る。


「また一人で全部抱えようとして!」

「ですが、私が最後まで残るのが最も合理――」


「そういう話じゃない!!」

 怒鳴り返される。


「お前、それでも国家元首だろ?」

 ジェラルドも呆れたように言う。


「普通は守られる側なんだよ」


「ですが私が一番強いので」

「だからそこじゃねぇんだよ!」


 ミシュリーヌが一歩踏み出す。

 目には涙が滲んでいた。

「強いとか弱いとか、そんな話してない!」


「……」


「私達は仲間なんだから!」


 ジュリアは言葉を失う。


「一人で全部背負うくらいなら、最初から仲間なんていらないじゃない!」

 その言葉だけは、胸の奥へ深く突き刺さった。


 前世でも。今世でも。

 一人で戦うことだけは、当たり前になっていた。

 だから。

 仲間に頼るという発想そのものが、どこか抜け落ちていた。


「……すみません」


 小さく頭を下げる。


 ミシュリーヌはまだ怒っていた。

 ジェラルドも呆れ顔だった。

 それでも。

 こんなふうに本気で叱ってくれる相手がいることを、ジュリアは少しだけ嬉しく思っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ