作戦会議
昼過ぎ。
森へ探索に出ていた『蒼穹の道標』が、一人の男を引きずるようにして戻ってきた。
男は赤い鎧を身につけていたが、兜は失われ、顔は泥と汗にまみれている。
両手は後ろ手に縛られ、肩で荒い息をしていた。
「見張りを一人捕まえた」
クライヴが短く告げる。
「巡回兵のようです。逃げようとしたから少し大人しくしてもらいました」
セレスが淡々と補足する。
男は猿ぐつわを外されると、ジュリア達を見て顔を青ざめさせた。
「ひっ……」
膝をつき、そのまま頭を下げる。
「殺さないでくれ……! 俺だって好きでやってるわけじゃない!」
その必死さに、レオンが眉をひそめた。
「どういうことだ?」
男は恐る恐る顔を上げる。
「俺達、前線の兵士は……占領された国の人間なんだ」
拳を強く握り締める。
「逆らえば妻や子供が殺される。だから戦うしかない……」
沈黙が落ちた。
ジェラルドが小さく舌打ちする。
「……胸くそ悪ぃ国だな」
ジュリアは静かに目を閉じた。
カルナの証言も、ボルドス氏の記録も、すべて繋がった。
「質問です」
ジュリアは男へ視線を向ける。
「捕虜となっても家族への報復はありますか?」
男は少し迷い、
「……いや」
力なく首を振った。
「逃亡なら見せしめにされる。でも戦闘で捕まったなら、そこまでは……」
「なるほど」
ジュリアは一つ頷く。
「では、ご協力をお願いします」
「……協力?」
「私たちを敵陣まで案内してください」
男の顔が固まった。
「む、無理だ! 見つかったら俺だけじゃ済まない!」
「その心配は不要です」
ジュリアは静かに言う。
「貴方を敵兵の視界に晒すつもりはありません」
「?」
「隠蔽用の黒魔術を使用します」
ジュリアはさらりと答えた。
レオンが腕を組む。
「魔族が使ってた……姿を隠す術か。つまり姿を見せずに様子だけ伺う」
「ええ。概ねその認識で構いません。ただしあれも万能ではありません。魔力感知に優れた相手が近くにいれば察知されます」
「……じゃあ、はやり危険じゃないのか?」
ザドラが不安そうに眉をひそめる。
「だからこそあなたの案内が必要なのです」
室内は一層、緊張感を増し始める。
するとミシュリーヌが眉をひそめた。
「……ジュリア」
「何でしょう」
「また一人で行く気?」
ミシュリーヌは隠蔽の黒魔術を習得していない。必要ないと判断し、メイヴィエッタから教わらなかった術式だ。
(あの魔術なら、またジュリア一人で行くと言い出しかねない)
ジュリアは首を横に振る。
「いいえ」
ジュリアは一切迷わず答えた。
「もちろん、全員で行きます」
その言葉に、男が信じられないものを見るような目を向ける。
「……お前達、本気で帝国軍の中へ入る気なのか?」
「ええ」
ジュリアはこともなげに頷いた。
「我々には万が一でも脱出手段があります」
〈転移〉さえ維持できれば、全滅だけは避けられる。
だからこそ、この作戦は成立する。
「ところで」男へ改めて向き直る。
「あなたの所属と名前を教えてください」
男は少し躊躇したあと、観念したように答えた。
「……第六兵団所属。ザドラだ」
「ありがとうございます、ザドラさん」
ジュリアは研究室の資料から写し取った地図をパサリとテーブルへ広げる。
「では、兵舎。見張り台。捕虜の天幕。まずはその三か所の位置を教えてくださいますか?」




