点と線
「カルナ。あなたには悪いのですが、私たちは現在、この遺跡の調査中です。その申し出には今すぐ回答できません」
「……そうか」
カルナが肩を落とした。
「ジュリア。冷たすぎじゃない?」
ミシュリーヌが眉をひそめる。
「そうです!カルナさんが可哀想です」
リィンも非難するように言う。
「別に俺はいいぜ。面白そうだしな」
ジェラルドは相変わらずだった。
「我々は国家間の争いには関与しない。それは冒険者ギルドの意向だ」
A級冒険者パーティ『蒼穹の道標』のクライヴ・キルレインが難色を示す。
「おいクライヴ。それは西側国家での話だろう? 相手は東方の未知の国家だぞ」
レオン・ハルフォードがクライヴを窘める。
「いいや、我々の行いはすべてギルドに報告しなければならない。たとえ未知の国家相手だとしても、手を出していい理由にはならない」
「……だけどよ」
「レオン。私たちはギルドのお陰でここまでなれたのよ。勝手な行動は評価に響くわ」
ミレーヌ・クラウゼルもクライヴの意見に同調する。
「私はリーダーの意見に従います」
セレス・アルディンは意見を差し控えた。
「ちっ。お前らもかよ」
レオンは納得行かなそうに顔をしかめた。
「待って下さい」
ジュリアが静かに言った。
「話はまだ終わっていません」
その声音に、皆が口を閉ざす。
ジュリアは少し考えるように、指先でトントンとカップを弾く。紅茶の表面に波紋が揺れる。
そしてカルナを見る。
「一つ確認したいことがあります」
「な、なんだ?」
「そのグンダラージャ帝国が周辺諸国へ侵攻を始めたのは、いつ頃ですか?」
「八年前だ」
即答だった。
「ちょうどヴォラ・ロカストが現れた頃だ」
ジュリアの指が止まる。
「八年前……」
ジュリアは小さく復唱した。
それ以上は何も言わない。
「今度は別の質問です」
「?」
「彼らは何を求めて戦争をしているのですか?」
カルナは少し考えた。
「……神鳥の羽根だ」
「神鳥?」
ジュリアの目が僅かに細くなる。
「ああ。シームルグの羽根には伝承があるんだ。その昔、偉い賢者がシームルグの羽根で出来た杖を使い、大地を癒し、恵みの雨を呼んだと」
その言葉に。
ジュリアの脳裏に、ある光景が再生された。
東方大平原。セシリアの癒し。そして、それに呼応するように動いたシームルグ。異常な速度で回復した植生。
「つまりグンダラージャは、ヴォラ・ロカスト災害の後に、大地の癒しを求めたと」
「そういうことだと思う」
「なるほど」と言うと、ジュリアは僅かに目を伏せた。
そして視線を上げ、全員を見渡した。
「皆さん」
静かな声だった。
「我々の調査目的を覚えていますか?」
その言葉に、クライヴが眉をひそめる。
「なんだ急に」
「いいですから思い出してください」
珍しく有無を言わせない口調だった。
「一つ目」
ジュリアが指を一本立てる。
「シームルグとアトネータイが、なぜゼオガンダル山脈を越えたのか調査すること」
二本目。
「二つ目。その大移動の原因を調査すること」
三本目。
「三つ目。余裕があれば遺跡調査を行うこと」
「そうじゃったな」
バルトルトが頷く。
「少し忘れていました」
ゲルダも苦笑した。
「そう言えばそんな話だったわね」
エリザは完全に忘れていた。
ジュリアは頷く。
そしてゆっくり言った。
「では質問です」
ジュリアがゆっくりと全員を見渡す。
「ヴォラ・ロカスト、グンダラージャ帝国、神鳥シームルグ」
洞窟に風の音だけが響く。
「この三つが無関係に存在していると思いますか?」
誰も答えない。
先に口を開いたのはクライヴだった。
「……何が言いたい」
ジュリアは答えない。
代わりにカルナへ尋ねる。
「カルナ。あなたはシームルグを見たことはありますか?」
「ああ。数ヶ月前、山脈を越えて行くところを見た」
その瞬間。
ジュリアは確信したように息を吐いた。
「どうやら」静かな声。
「我々は、思っていたより遥かに核心へ近づいているようです」
全員の視線が集まる。
「もしグンダラージャ帝国がシームルグを追っているならば」
ジュリアは一瞬目を閉じ、そして、大きく息を吸う。
「我々が彼らと接触することは、国家間戦争への介入ではありません」
ゆっくりと断言した。
「調査任務の一端です」




