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くだらない会話

 お腹が空いていたのか、カルナは出された料理を黙々と食べていた。


 ジュリアも食事をしながら、その様子を観察する。


 黒髪。

 褐色の肌。


 身に纏うのは聖職者が着るような貫頭衣に似た質素な衣服。

 だが布地には細やかな模様が織り込まれており、確かな文明の存在を感じさせる。


 食事作法こそ違うものの、見様見真似でカトラリーも使っている。

 教育も受けているのだろう。


 数百年にわたり分断されていたにもかかわらず、言葉も通じる。


(バルトルト顧問の言っていた生き別れのドワーフ達……)


 彼らが各地を巡り、文化や言語の差を埋める役割を担っていたのかもしれない。


 そんなことを考えていた時だった。


 ゴリッ。


 背後から妙な音が聞こえた。


 ゴリゴリゴリ。


 どう聞いても石を砕く音である。


 ジュリアが振り返る。


 リィン・オメガが魔物のドロップした赤い魔石を食べていた。


「えっ?」

「は?」


 ジュリアとカルナの声が綺麗に重なった。


「オメガ。なぜ魔石を食べているんですか?」

 ジュリアが怪訝な顔で訊く。


「マセキ ハ マリョク ノ ジュウテン ニ サイテキ デス」

「そうですか」

「ソウデス」


「エリザ。知っていたの?」

「ええ。もちろん」


「元のアルケイネⅠ型もこうやって食べるんですか?」

「いいえ。元のアルケイネには、腹部に魔石を格納するための扉がついていて、そこに屑魔石を入れる仕組みになっていたわ」


「元の仕様のほうが良いではありませんか。なぜ仕様を変更したのですか?」

「そっちの方が可愛いからです」

「またそれですか。魔石を食べる様子を可愛いと感じる感性がよくわかりませんが」


「可愛いは重要です」

「しかし効率的ではありません。戦闘中に補充が必要になった場合どうするんですか?」


「拾い食いします」

「それは可愛いんですか?」


「…………」

 エリザが目を逸らす。

「愛があれば」


「今、回答を避けましたね」

「気の所為です」


 二人がくだらない会話をしていると、驚いたままのカルナが口を開いた。


「あの。あの白い猫のような人は、人ではないのですか?」


 もっともな質問だった。


「ええ。彼女――というか、あれは古代エルフ文明の遺産である自律型魔導兵器です」

「エルフ? 魔導……兵器?」

「そうです。このエリザという技術者が勝手に自分好みに改造して人型になっていますが、本来は蜘蛛のような形状でした」

「では、あの方も?」


 カルナの視線が黒猫獣人のリィンへ向く。


「いいえ、彼女は――」

「違います!」

 リィンが食い気味に割り込んだ。

「私は獣人ですが、お母さんのお腹から生まれた、ちゃんとした人間です!」

 拳を握って力説する。

「エリザ様が勝手に私の姿をモデルにして作って、しかも紛らわしい名前まで付けて、本当に困っているんです」


 一息で言い切った。


「ひどいと思いませんか?」


「ご、ごめん」

 カルナが若干引きながら謝る。


 完全に巻き込まれ事故である。


「リィン。すまない。私の監督不行き届きです」

 ジュリアが頭を下げる。


「いえ。ジュリア様のせいではありません」

 リィンは即座に首を振った。


 そして、ジロリと冷たい視線を一箇所に固定する。

「エリザ様がおかしいだけです」

「心外ですね」

 当のエリザは一切悪びれもしない真顔だった。


「私はあなたの可愛さを再現しただけです」

「だからその方向性がおかしいんです!」


「リィンサマ。……ワタシハ……オキライ、デショウカ?」

 リィン・オメガがしょんぼりした様子で、リィンを見つめた。

 白い猫耳も力なく垂れている。


「う……、そういうわけではなく。オメガちゃんは何も悪くないのです」

「シカシ、ワタシ ノ スガタ ニ ゴフマン ガ オアリノヨウデス」

「そ、そんなことは……」

「ヤハリ、ワタシ ハ ソンザイ シテハ イケナイ ノ デショウカ?」

 シュンとなるオメガ。

「いえ、その、だから……」

 リィンが言葉に詰まる。


「リィンちゃん。私の可愛いリィンちゃんをいじめないで下さい」

 エリザがリィン・オメガを撫でながら、まるでリィン(本物)が悪いかのように被害者面で言う。

「イジメていません!! というか、せめてその紛らわしすぎる呼び名は変えて下さい!」


「なぜ原告側が敗訴したような状況になっているのでしょうか?」

 ジュリアがポツリと呟いた。


 ──なんて、とても、とてもくだらない会話なんだろう。

 そう思ったのはカルナだけではなかった。

 他の面々も一様に呆れ顔である。


 しかし、遺跡内の空気は幾分か、和やかになった気がした。

 少なくとも、カルナにとって、目の前の人々が敵ではないことだけは分かった。

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