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倒れていた少年。

 武器を手に、一斉に斬りかかろうとするジュリア達にも目もくれずに、甲虫達は黒い魔導具へ殺到していた。


 ――カチカチカチ。


 顎を鳴らしながら群がる。


「本当に効いてる……」

 ミレーヌが呆然と呟く。


 そこへ飛び出した一匹を、ジュリアの剣が閃いた。


 ザシュッ。


 続けてリィンの短剣が、首の隙間を両断する。勢いのまま、返すもう片方の短剣でもう一匹。


 さらにジェラルドが大剣を振り抜いた。


 ドガッ!!


 質量に物を言わせた一撃だった。斬るというより、叩き飛ばす。

 吹き飛ばされた甲虫が壁へ激突し、腹部から体液を撒き散らした。


 一体、二体、三体。


 数を減らした群れは、もはや抵抗らしい抵抗もできなかった。


 ◇


「最初からこうしていればよかったですね」

 改造型アルケイネⅠ型であるリィン・オメガを寝かせ、関節を分解して洗浄するエリザ。


「見た目に惑わされてしまったのがいけませんでしたね。相手が虫だと気づいてからも、対サンドゴーレム用の戦術を続けてしまいました」

 戦いの後はきちんと振り返り、反省を忘れないジュリアである。


「俺のおかげだな」

 ジェラルドが胸を張る。ドヤ顔である。


「確かに発案者はジェラルドです」

「だろ?」


「ですが虫ホイホイを持っていたのはエリザです」

「本人も忘れてただろ」


「ならば功績は皆さんのものですね」

「なんか俺だけ扱い酷くね?」

 ジェラルドが不満そうに唸る。


「しかし、アルケイネの弱点が知れたのは収穫でした」

 ジュリアはリィン・オメガへ視線を向けた。


 対アトネータイ戦で見た黒いアルケイネⅡ型。

 数千規模で押し寄せる機械兵の大群は脅威そのものだった。

 装甲や武装はミスリル製となり、本来の性能からは劣化しているとはいえ、その数の力は侮れない。


「同盟している相手の弱点なんて知ってどうするんだよ」

 ジェラルドが首を傾げる。


「もしも人類側に敵対した場合を考えると、弱点は把握しておくべきです」

 ジュリアはさも当然だと言いたげに断言する。


「いや、お前ダークエルフ達と仲良いだろ」

「現在は、です」


「ですが未来は分かりません。国家間の友好など永遠ではありませんからね」

「怖えよ」

 ジェラルドが顔を引きつらせる。


 ――その時だった。


「ううう……」


 どこからともなく、誰かの苦しそうな声がする。


「ん?」


「ジュリア様。あそこに見知らぬ人が倒れています」

 リィンが指を指す。


 見れば、そこには砂にまみれた、異国の服を纏った少年が倒れていた。


「これは……」

「どこから現れたんじゃ?」

 突然現れた人間に首を捻るバルトルト・グリムゾン。


「おそらく、先程の虫の砂の中に捕らえられていたのでしょう」

 ジュリアがリィン・オメガを見ながら言う。


「ああ、さっきの砂で包み込む攻撃、人間が取り込まれるとこうなるわけか」

 ジェラルドが合点がいったとばかりに頷いた。


「母さん……アディ……」

 少年が呻いている。なにか怖い思いをしたのだろうか。


「セレス。この少年を癒してあげてくれ」

 『蒼穹の道標』のリーダー、クライヴが回復役の聖職者セレスに指示を出す。

「はい」


「世界神ルクスよ。傷ついた者に癒しの力を――」

 セレスが跪き祈りを捧げる。淡い光が少年を包み込んだ。


 ◇


「うう……」

 まだぼんやりした頭を手で抱えるように、少年がゆっくりと目を開けた。


「気づかれましたか?」


 見知らぬ衣装を纏った人たち。確かめるようにもう一度瞬きをする。


 やはり、知らない人たちだった。


 白銀の髪、赤い髪、金髪、緑の髪、茶髪。そして頭に猫のような耳を生やした女。

 皆、髪の色がバラバラで、肌も白い。


 自分の知るマドラの人々とはまるで違う。カルナは思わず目を閉じてゴシゴシと目を擦った。

 だが何度見ても消えない。


「あんたたちは……誰だ?」


 すると、白銀の髪の女が答えた。

「私たちはアストライア新連邦と魔導帝国ゼノビアの共同調査団です。このゼオガンダル山脈の遺跡の調査を行っています」

「アストライア…新連邦? 魔導……帝国?」

 首を捻る少年。


「私はアストライア新連邦の代表のジュリア・アークライトと言います。あなたの名前は?」

「俺はカルナだ。マドラ国のカルナ」


「何?マドラ国……じゃと?」

 老ドワーフが少し驚いたように口を開いた。


「バルトルト殿、知っているのですか?」

「ああ、我々ドワーフ族の言い伝えでは、東方の国々の中の一つじゃったはずじゃ。久しぶりにその名を聞いたが」

「つまり、ゼオガンダル山脈の東側の国の民というわけですか」

 ジュリアと名乗る白銀の女が顎に手を当てながら、眉を寄せている。


 だが、カルナの瞳は、バルトルトという名のドワーフに釘付けだった。

 かつて出会った老ドワーフのボルドス。彼とどこか重なって見えたからだった。

 同じドワーフだ。もしかすると、この遺跡に封印されている魔術を知っているかも知れない。


「あ、あの。ボルドスというドワーフを知りませんか?」

「ボルドス…? いや。すまぬが知らぬ。おそらくは東の国へ生き別れになった我らの生き残りじゃろう」


「そう、ですか」

 カルナは小さく俯いた。


「カルナさん」

 白銀の髪の女が言う。


「カルナで大丈夫だ」

「わかりました。カルナ。ひとまずは情報交換と行きましょうか。我々もそちらの国々の現状を知っておきたいのです」


 カルナは真剣な顔で頷いた。


 これから故郷のことを話さなければならない。

 グンダラージャ帝国のこと。奪われた人々のこと。母のこと。そして、幼馴染のアディのこと。

 胸の奥が重くなる。


 だが――。


「オチャ ドウゾ」

「こちらも」

 白い猫耳の女が湯気の立つ飲み物を置き、黒い猫耳の女が見たこともない異国の料理を次々と並べ始めた。


「……え」

 カルナは目を瞬かせる。


 思っていた雰囲気と違った。もっとこう、尋問とか、そういうものかと思っていた。


「食べながらで構いませんよ」

「……はい」

「長くなりそうですから」


 カルナの腹が盛大に鳴った。

 金髪の女がくすくすと笑った。

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